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今回の珍客もアホ!【1】



「ヒン!」


 ルーシィ、微妙に機嫌悪いな?

 さっきクーロウさんの馬に色目使われたのが気に障ったのか?

 でも、ルーシィもそろそろお婿さんをお迎えしてもいいのでは……。

 いや、そんな事言ったら『なに色ボケしてるのよ』って言われそうなので黙っておこう。

 しかし……。


「変だな」


 なんだろう、空気がどこか生温かい。

 残暑という意味合いではなく、気配的な意味で。

 牧場に近づけば近づくほどにその空気は辛味のようなものを増す。

 えーと、そうだな……ピリッとくる。


「!」


 ルーシィがその気配を敏感に察して、煽られるようにスピードを上げていく。

 門代わりのアーチを潜ると、ノンストップで畑を横切り川の方へと駆け抜ける。

 それは『青竜アルセジオス』側の川向こうの森。

 やんちゃ坊主たちが『大勢の人間と偉そうな人間』を見た場所。

 なにがどういう事になってあんな事になってるのか知らないが、俺の視力でも木々の間にラナとファーラが『大勢の人間と偉そうな人間』に追い詰められているのが確認出来た。

 槍を構える『青竜アルセジオス』兵の姿にちょっとムッとしてしまうのは仕方がないと思う。

 そして……かなり久しぶりに加護――『竜の爪』を使ってしまったので力の加減をやや間違えた。

 ルーシィが茂みにジャンプする。

 その瞬間に右手側に『竜爪』が顕現して、兵士と木々を薙ぎ払う。

 うん、ちょっとやりすぎたー。


「っ!」

「なっ!?」


 ドッ、とルーシィが華麗に着地する。

 かなりの衝撃だが、腰を浮かせていたのでお尻の被害は最小限で済む。

 ……まあ、兵士たちの被害は……俺の尻の比ではないけれど。


「……お、お前は……ユ、ユーフラン!? なんだ、それは!」


 鎧の兵士に囲まれて、一人貴族らしいジャケット姿が見えたがやはりカーズだ。

 カーズ・ルッスルール・ロージス。

 その周りには王国兵。

 けれど、腕章はルッスルール公爵家のものだから公爵家の私兵隊か。

 ルッスルール公爵は王国軍総帥。

 軍部のトップ。

 とはいえ、軍の中に私兵隊を作るのはいかがなものだろうね?

 その上それを息子が使うのも、()()()()()を襲うのも普通に戦争のキッカケになりかねないんだけど。

 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまで馬鹿とは恐れ入る。


「コレ? ……驚いたなー……本当にお前も俺の事を誰からも教わっていないの?」

「……どっ、ど、どういう事だ!」


 ラナとファーラも驚いて目を見開いていた。

 尻餅をつくカーズはいいけど、二人に見られたのはちょっとショック。

 これから怖がられるかな?

 はあ、短い恋人生活だった……。

 ルーシィから降りて、右肩より浮かぶ白く細長い爪を親指で指す。


「これの事。その様子だとラナも聞いてないんだね」

「!? え、あ……」

「まあ、ラナはなぁ……聞いてなくても分かるんだけど……。カーズが知らないって事はやっぱりアレファルドもまだ教わってないのか〜」

「なんの話だ! それはなんだ! それに、その右眼は!」


 立ち上がったカーズが指差すのは俺が今指差した……『竜爪』。

 仕方ないなぁ……まあ、兵たちは半分ほど吹っ飛ばした時に気絶してるからいいか。


「なにって、『竜石眼(りゅうせきがん)』と『竜爪(りゅうそう)』だよ。『ベイリー』の家の者は建国当時からアルセジオス王家と対をなす『影』の部分として法を司ってきた。それは王家が過ちを犯さないように見張るため。それ以前の王家は戦争ばかりしていたから」

「……!」

「俺がアレファルドにつけられたのは、もちろんアレファルドの『影』として護衛や『お使い』が主な理由。俺は『ベイリー家』を継ぐには才能がなかったから。……今後王家を見張る『ベイリー家』は俺の弟、三男のクールガンが継ぐ。アイツは俺より強い。『ベイリー家』が守護竜『青竜アルセジオス』より与えられた竜爪を宿す『竜石眼』が、両眼に現れたからね。しかも歴代でもなかなかに見ない“左右三爪ずつ”……計六爪。俺の倍ね」


 空中に浮かぶ『竜爪』はベイリー家の血筋に与えられた加護『竜の爪』を宿す『竜石眼』を使う事で現れる。

『竜石眼』はその名の通り『竜石』の力を持つ目玉の事。

 ちなみに初代様とやらは“左右五爪ずつ”だったそう。怖いねぇ。


「……な、んだ、それは……! そ、そんな話、聞いた事が……!」

「うん、だから……まあ、ラナはね……四大公爵家の中でも内政に関わる家だから、聞かされてないのも無理はないんだけど……」


 領地を治める他の三公爵の子息で、アレファルドの『友人』たちがこれではアレファルド自身も陛下に聞かされていないんだろうなぁ。

 だよなぁ……いくら跡取りではないとはいえ俺を他国に出すのだから。

 ……とは言えだ。

 この『竜石眼』も竜石と同じようなもので、『青竜アルセジオス』から出ると使えなくなる。

 実際『緑竜セルジジオス』の王都『ハルジオン』で『竜爪』を出せるか試してみたところ出なかった。

 つまり、多分だけど他国に『ベイリー家(うち)』のように『竜爪』の加護を与えられた家が存在するんだろう。

 どこもその家の事は秘匿している。

 表に出したくない、と思うのは仕方ない。

 この『竜爪』は眼が『道具(アイテム)』の代わり。

 他の竜石道具より物騒だし、怖いし、俺もちょっと久しぶりに使ったら威力出過ぎて引いたし。


「守護竜に直接加護を与えられた家だと!? お、お前の家が!? 嘘だ! ただの廃れた伯爵家のはずだろう! なんでお前みたいな適当で使えない奴がそんな力を持っている! 卑怯だぞ!」

「ほしいならあげるけど。『緑竜セルジジオス』では使えないし」

「!」

「ただしお前の右目と交換ね。俺も目が見えないのは困る。それに、お前の目に入れても家の加護がないから使えないと思うよ。あと、俺の『竜爪』を得てもクールガンには敵わないぞー。さっきも言った通り、うちの弟の『竜爪』は六つだから」

「…………っ」


『竜爪』の発動条件は『ベイリー家に与えられた加護』を持つ者である事と、場所がアルセジオスの加護が届く範囲……つまり『青竜アルセジオス』国内のみ。

 カーズには使えない。

 そして二つ目の条件……この辺りは『緑竜セルジジオス』、『青竜アルセジオス』、『黒竜ブラクジリオス』の三カ国が隣接しているので、質のいい中型竜石以上は多分使えるんじゃないかな。

 って事で見事に発動したな。

 多分『聖なる輝き』を持つリファナ嬢の存在のおかげもある。

 まあ、やっぱり結構集中しないとダメだけど。


「フランが、『竜爪使い』……!? ク、クールガンってフランの弟だったの……!?」

「? そうだけど……ラナ知ってたの?」

「し、知ってたけど、は、初めて知ったというか!」


 ……小説のストーリーとかかな?

 俺は登場しないって言ってたけど、クールガンは登場するの?

 ほーーん?

 その話あとで詳しく。


「くそっ!」

「あ、待った」

「ぎゃああああっ!」


 竜爪は自由に動かせるので、走り去ろうとしたカーズの前に放り投げて突き刺す。

 なに勝手に帰ろうとしてるの、部下を放置して。

 邪魔だから全部連れて帰ってくれないと困るってば。

 あと——……。


「なに普通に帰ろうとしてるの? 人の奥さんと預かってる子どもに槍なんか向けちゃって……ちゃんと見えてたからね」

「ブルルルルォオォ!」

「ほら、ルーシィもカンカン……踏み殺されたくなければ洗いざらい吐いて」

「…………」


 俺も怒ってるけど地団駄を何度も踏んでいるルーシィの怒り具合がやばい。

 これはアレだ……『か弱い女子どもに男が寄ってたかって武器を向けるとはなに事なのよ! ふざけてんじゃあないわよ! 蹴り殺したあと踏み殺すわよ!』……うん、ルーシィの体重ゲフンゲフンで踏みつけられたら人間なんて余裕でぺしゃんこ……いやビシャッ……かな。

 効果音が生々しいか?


「……くっ、そ、それは……そこの女がリファナを害そうとしていると聞いて!」

「誰に?」

「スターレットだ! 奴の情報網から、この毒婦がリファナを殺す毒薬をこの辺りの毒草を用いて作っているから、その前に手を打つ必要がある、と……」

「ふむふむ。続けて」

「……? その試作である、人を操る薬でダガン村の者を攫い、毒薬作りを手伝わせて……」

「うんうん。続けて」

「……だ、だから……俺は私兵隊を連れてここまで……、……」

「…………」

「…………違うのかよ?」


 ラナはそこまで薬草には詳しくないよ。

 なぜか畑を耕したり、謎の芋に詳しかったりはするけれど。

 薬草関係はメリンナ先生の右に出る者はいない。

 弟子のアイリンは別枠。

 というか、カーズよ……違うのかよ、なんて恐る恐る確認してくる理性が戻ってきてなにより。


「まあ、すんなり騙されているようで俺としては片腹痛い」


『片腹痛い』は強調。

 かなり強調。

 実際噴き出さず、腹を抱えて指差して笑い転げなかった俺を誰か褒めるべき。


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