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嫁が今日もキレッキレ



「め、珍しくて……美味しい料理……と、い、言われましても……」

「他にもお礼はするわ! お願い! 今晩だけでもいいのです! 明日の朝には新鮮なお野菜がたくさん入ってくると思います。ですが、『青竜アルセジオス』の王太子様と、そのお連れ様の分の食材は確保出来ていないのよ……!」


 ……そりゃ『ごゆっくり』いらしたのであればそうでしょうね。

 しかし、なるほど。

 城の中が騒がしかった理由はそれか……!

 アレファルドたちが『ゆっくり』来たせいで、迎える準備をしていた『緑竜セルジジオス』側は一旦その準備を解除した。

 なのに、解除した途端に来たもんだからてんてこ舞いになったんだ。

『緑竜セルジジオス』はパンノミと野菜が中心の食文化だが、『黒竜ブラクジリオス』は肉が中心。

『青竜アルセジオス』もパンノミは食べるが、基本的に川魚料理と肉料理が多い。

 見事に、食にもお国柄が出ている。

 特に『青竜アルセジオス』の川魚料理を用意するのは、他国には難しい。

『緑竜セルジジオス』も川は通っているが、魚は『青竜アルセジオス』でガツガツ獲りまくるのでこちらは主食にするほど漁獲量が多くないと聞いた事がある。

 調理出来る料理人も多くないだろう。

 俺も『青竜アルセジオス』の料理は作れなくもないが、舌の肥えたアレファルドに食わせられる料理はとても……。


「難しいですね」

「む、難しいの?」

「難しいよ。『黒竜ブラクジリオス』は肉派、『緑竜セルジジオス』は野菜、『青竜アルセジオス』は魚派って感じ?」

「うっ……それは確かに……」

「や、やはり貴女のような物知りな方でも難しいのでしょうか……?」


 王族の、この国の姫君のお願いを断るのは心苦しいし本来ならとても断れない無茶振りの類だが、幸い俺たちはまだこの国の国民じゃない。

 査定に影響は出るかもしれないが、他国の王太子をもてなす役割を危険を冒してまで他国から引っ越してきたばかりの俺たちに任せようとする姫君が幼すぎるのだ。

 断ろう、ラナ、と声をかけようとした。


「……フラン……貴方お魚捌けたわよね?」

「嘘でしょ? 受ける気?」

「だって、敵前逃亡なんて悔しいじゃない!」

「待って待って待って待って。なんでいきなりスイッチ入ってるの? やめなよ、あんなに怖がってたくせに」

「確かに……」


 邪竜信仰は怖い、と声には出さず飲み込んだのが俺には聞こえた。

 それなのに、なぜわざわざあの王子と……そして王子と一緒に来ているだろうリファナ嬢に関わろうとするのか。

 二度と関わるものかと拳を握って宣言していたのに。


「……でも、でも、悔しいのよ」

「ラナ」

「人様に迷惑かけまくって踏ん反り返ってイチャイチャしているであろう、あの二人! あの二人に尻尾を巻いて逃げるのは! なんか! 違う!」

「な、なにがっ」


 顔が!

 ラナの顔が怒りで真っ赤に!

 ふるふる震えながら拳を握り、なんかわけの分からない事言い出した!


「婚約破棄されたのも国外追放されたのも別にいいわよ! あんなバカップルの側でアホみたいにイチャイチャしてる二人を見ているより、そっちの方がはるっかに! まし! でも! フランまで巻き込んで、外交を疎かにした結果がコレでしょう!?」

「…………」


 否定する要素が一切ないな。

 その通りのようだもん。


「でも……」

「もちろんアレファルドが悪いのは間違いないけど周りの奴らもなにしてるの! 無能なの!? バカなの!? フランがいなくなっても自分たちでちゃんと出来るから、フランに私を押しつけて国外追放したんじゃないの!? それなのにこのザマとか! ちょっとザマーミロとか思うけど! それで困ってるのがアイツらじゃなくてロザリー姫たち、『緑竜セルジジオス』のお城の人たちだなんて、違うと思うのよ!」

「……! それは……」

「ザマーミロになるべきなのは! 約束を守らないアイツらの方であるべきでしょ! ……ふ、ふふ、ふふふふふ」

「…………ラ、ラ、ラナさん?」


 え、なんで急に笑い出すの?

 こ、怖い……!

 途中まで素晴らしい説得力だったのに、なぜに笑い出される!?


「だったらここは、奴らが自分たちで追い出した私たちが! その尻拭いをしてやればいいのよ! そして思い知るがいいわ……フランの有能さを!」

「待って、俺は心底巻き込まれたくない」

「エラーナちゃんッ! それはアウトヨ!」

「あ、そう?」

「「「ウンウン」」」


 ラナ、思い出して欲しい。

 俺たちはそこはかとなく良い商品を売り込んで、それでサクッと王都から帰る。

 そのつもりだったんだ。

 便利と思われて、王都に引き止められればラナは牧場カフェ開店がバッリバリに遠退くよ!

 それを思い出したのか、わざとらしい咳払いをして……しかし立ち上がって腰に手を当てるラナ。

 な、なぜ。


「ま、まぁ、私たちは食のプロではないからレシピ提供くらいしか出来ないと思います。それでよろしければ……」

「え! ……あ、ああ……。……エラーナは、アレファルド様の婚約者でしたの?」

「…………。はるか昔の話ですわ!」

「そ、そう……」


 勢いでごまかせるとでも思ってんの……。

 まあ、この姫様は年齢の割にアレファルドより聡明なようなので唇に手を当ててごっくんとなにかを呑み込んでくださったようだけれど。


「分かりました。それで構いませんわ。お願い致します」

「足りない食材というのは?」

「お魚です。王族が口に出来るような鮮魚は、一日に一匹取れるかどうかで……」

「そ……それじゃあ今日は……」

「は、はい。今総出で釣りに行ってもらっているのですが……」


 なるほどね、それで城の中の使用人が少なくなっていたのか。

 その上、一週間近く遅刻してきたのなら、先週の時点で毎日『王族が口に出来るレベルの川魚』を釣り続け、川も品切れだろうな。

 一体その一週間、どこで油売ってたんだあのアホファルド。

 思わず頭を抱える。

 そして、今頃愛娘を追放された事でまだぷんすこしているである宰相と具合の悪い陛下、両方の面倒を見ているだろう親父の姿を思い浮かべてそれはそれで心底同情した。

 公爵様たちもバカ息子たちが『聖なる輝き』を持つ者に骨抜きにされた事で「うっかりうちの息子に鞍替えしてくれないかな」とか思ってやしないだろうな?

 そんな事考えるよりまず後継としての教育を最優先してくださーい。


「魚がないのね……じゃあ、やっぱりパンケーキにしましょう!」

「マァ! パンケーキ! アタシ、アレだーいっ好きよォ〜〜!」

「パンケーキ……?」

「ま、それが無難だね」

「パンケーキ? ユーフラン、なんだ、それ?」


 首を傾げるカールレート兄さんとロザリー姫。

 実演した方が早いので、ラナは腰に手を当ててまた「ふふふ」と怪しく笑い出す。

 怖いってば。


「フラン、手伝ってくれる?」

「いいよ。まあ、でもレシピ提供だけにして作るのはプロに任せよう」

「あ、そ、そうだったわね」


 いちいち忘れるな、このお嬢様は。

 まあ、こんなんだから心配で一人にしておけないんだけど。


「パンなのにケーキなんですの?」

「そうですわ! 微妙に違いますけど!」

「? ど、どういう事でしょうか……」

「今現物を作って参ります! 厨房をお借りしますわね!」

「は、はい! メアリ、ご案内して差し上げて」

「かしこまりました」


 で、さも当然のようについてくるレグルス。

 商売の匂いを嗅ぎつけた顔してる。

 これは絶対、ハンドミキサーが売りさばかれる流れだな。

 溜息を吐きながらも取り残されたカールレート兄さんにエールを送る。

 と、思ってたのに……。


「なんで姫様とカールレート兄さんもついてくるの」

「「二人きりになってしまうので」」


 だ、だとしてもねー!?


「いいだろ、減るもんじゃないし!」

「はい、ケーキ……パンなのにケーキ、わたくしも気になりますわ!」

「諦めなさいフラン、ロザリー姫はあれでかなり好奇心旺盛なお姫様よ」

「……は、把握するのが早すぎませんかね……」


 諦めた。



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