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来客



「翌日には作っちゃうとか、相変わらずフランってチートよね」

「えー、でも一日かかっちゃったぜ? もう夕方……やりたかった事、他にもあったのに……まあ、けどそのラーメン? は普通に気になるし……」


 昨日収穫してきたカカオの種を果樹園予定の畑に植え、コーヒー豆をレグルスから買った焙煎機で焙煎中のラナ。

 テーブルの上にはもう一つ、ラナの言うラーメンを作るために必要な製麺機とやらを作ってみた。


「……そ、それじゃあ、あれは?」

「糸紡ぎ機と機織り機」

「お、恐ろしい子……」


 これは前から作ろうと思ってたやつ。

 竜石道具だから自動だよ。

 羊が来たから急遽予定を早めたんだけど……まだ毛の収穫が出来るほど伸びてなかった。


「それより、この製麺機ってなにに使うの?」

「もちろん麺を作るのよ」

「まあ、それは説明されたから知ってるけど……」

「そっか、この世界って乾燥パスタしかないんだっけ……しかもパンはパンノミだし!」


 と、明らかに不服そうに呟く。

 パンノミはパンノミで美味しいと思うんだけどね、俺は。

 もちろんラナの作った小麦パンには勝てないけど。


「いいわ! 私が今から醤油ラーメンを作ってあげる!」

「ショーユラーメン……」

「あ、この世界では醤油はユショーだからユショーラーメンかな?」

「ユショーラーメン……」


 出たよ、ラナのドヤ顔。

 これが出ると大体また美味しいものが出てくる。

 楽しみではあるけどこの流れってアレだよね?


「見ていなさい! フラン! この私が貴方の食べた事のない最高に美味しい食べ物の一つを教えてあげるわ! オーッホッホッホッ!」

「はいはい、じゃあ楽しみにさせてもらいます」

「でも今日は遅いから明日ね」

「はーい」


 一日かかってしまったから、それはいいんだが……外で足音がするんだよな、と思った途端に扉がノックされる。

 そろそろ夕方だ。

 町から人が来るには遅すぎる。


「誰かしら? こんな遅くに」

「俺が出る。ラナは夕飯の準備お願い」

「分かったわ。なにかリクエストある?」

「んー、卵?」

「フランって卵料理好きね? いいわよ、じゃあオムレツにしてあげましょう!」


 好き、だろうか?

 ただ食べやすいだけのような?

 そんな事を思いつつ、どちら様、と扉の向こうに声をかける。

 時間が時間なのですぐには開けない。


「アタシよ、ア・タ・シ。ネェ、今晩泊めてくれないかしらァ?」

「は? レグルス?」


 この独特の話し方。

 そして野太い声は……と少し扉を開けると、やはりレグルス……と、馬車。

 その横にはグライスさん。


「! 雨?」

「ええ、降ってるわヨ」


 あれ、いつの間に雨なんか降り出したんだろう?

 気づかなかったな。


「……まあ、いいや。泊めてって二人とも? どうしたの?」


 扉から出る。

 まず馬車の馬を厩舎に入れてやるべきだ。

 レグルスもそれは分かっているらしく、二人でウッドデッキの階段を下りる。

 この家、ちょっとだけ高い場所に作られてるんだよね。

 クーロウのおっさんに聞いたら「川が氾濫した時用に土が盛られた場所に家を作ったんだろう」との事。

 なので玄関までは階段で上がる。

 荷物とか持ってる時は大変なのだが……雨の時はクーロウのおっさんが言ってた事を思い出す。


「エェ、実は二人に相談したい事があったのよォ。今日ちょっと『エンジュの町』まで行ってたんだけどォ〜……」

「ドゥルトーニル家に用事?」

「エェ! きっとフランちゃんはめちゃくちゃ嫌がると思うんだけどねェ?」

「…………」


 二頭のお客さんを厩舎に入れると、ルーシィが濡れた二頭を心配して近づいて行く。

 とりあえず接客は任せた。

 で、俺もこの予期せぬ来客を家に連れ帰る。

 ラナに「レグルスとグライスさんが来たよ」と告げれば嬉しそうに「いらっしゃい! 夕飯食べてく!?」と切り返してきた。

 ……とても元貴族令嬢とは思えぬ適応能力と臨機応変な対応能力……。


「あらァ、嬉しいわァ! いいのォ?」

「もぉちろん! っていうかこんな時間にどうしたの? 泊まってく?」

「やだァ! エラーナちゃんったら話が早ーイ! 実は二人に相談があったのよォ!」

「相談?」

「あー、とりあえずマントはこっち」


 やや濡れたマントをポールハンガーにかけさせた。

 二人分のマントから滴る水に、ラナが「え? 外雨降ってるの? 川大丈夫だった?」と聞いてくる。

 一応ラナも川の事は頭に残っていたらしい。

 俺が遠目から見た時は平気そうだったよ、と言うと「少なくとも明日は川の向こうには行けないわねー」とふくれっ面。

 まあ、明日はラーメンの試作をやるけど。

 ともつけ加える。

 ああ、そんな事レグルスの前で言ったら……。


「エ! なになにィ!? ラーメンってなぁにィ!?」

「ふふふ、明日試作する料理です。フランに頼んで面白いものを作ってもらったんですから!」


 と、俺が一日かけて作った製麺機をドヤ顔でテーブルに持ってくる。

 案の定グライスさんが嫌そうな顔になった。 そんな顔をされましてもね。


「やだわァ、もうほんとなんなのこの天才夫婦。怖いわァ。なにを作る道具なノ?」

「麺を作るのよ! 明日お披露目するわ!」

「もちろん試食させてくれるわよねェ?」

「もっちろーん!」


 ……あ、わざとか。

 わざと話題に出して売りつける算段か。

 さすがラナ。


「こ、こほん」


 そこにわざとらしい咳をしてきたのはグライスさんだ。

 ラナは慌てて「二人の分も作るわね! 待ってて」と料理を再開する。

 ああ、相談があるとか言ってたな。

 お茶を淹れて二人に差し出し、その『相談』を聞くために席に着く。


「で?」

「フフフ、実はドゥルトーニル家の方から呼び出されて、行ってきたんだけどネ」

「うん」

「この牧場までの道を、整備する話が出ているの」

「……俺たちはお金なんか出さないよ?」

「やぁねェ、そんなのドゥルトーニル様が出してくださるって言ってたわよォ。この辺りはドゥルトーニル様の領地なんだからァ」

「…………」


 ならいいけど。

 なんだか「お前ら儲かってるんだったら舗装の金出せ!」くらい言いそうなんだもん、おじ様。

 さすがにそんな費用、一個人に出させないとは思うけどさぁ。

 一部負担、とかは言いそう。


「その代わり、『エクシの町』との途中に工房を兼ねた学校とその宿舎を作る事になりそうなのヨ」

「…………。なんの?」

「学校ヨ。竜石職人の学校! 講師はフランちゃんネ!」

「え! 学校!? フランが学校の先生!? どういう事なの、レグルス!」

「フランちゃんの開発する竜石核は刻むのが難しいでしょウ? お兄も通いながら教わってるケド、量産するには竜石職人が圧倒的に足りないワ! そ・こ・デ! 『エンジュの町』や『エクシの町』で職にあぶれてる奴らをその宿舎つき竜石核工房兼竜石職人学校で衣食住保証! 就職させる事にしたのヨ! そうすれば竜石職人は増えるし、貴方達の提供してくれる設計図で竜石核を作れるでしょウ? 更に更に器となる道具も『エクシの町』で作ればがっぽがっぽォ〜!」

「! なるほど! レグルス天才!」


 ………………。

 はっ! ……妖精が通過したのか!?

 話が知らない間にずいぶん進んでる……!?

 え、待って、なんて?

 今なんて言った?

 は?


「ちょ、ちょっと待って。俺、やるとは言ってない……」

「なんでよ!」

「うっ!」


 なんか俺が意識飛ばしてる間にラナがレグルスに落ちてる!?

 めっちゃ目をキラキラさせながら振り返ってきた。

 しかも拳つき!


「フランの才能が認められたって事なのよ!」

「いや、絶対そうではないと思……」

「才能というか実力は間違いないだろう……クッ……」


 ううぅ、グライスさん目がコエー……。

 いちいち睨んでくるんだもんヤダなぁ。


「もちろんお金は払うわヨォ! ドゥルトーニル家の方デ!」

「ドゥルトーニル家の方が運営するって事?」

「エエ! ……まあ、実際問題『エンジュの町』の方での若者の失業率は問題になっていたらしいワ。そこにアンタたちみたいな天才的な金蔓が来たもんだかラ、とことん利用して搾り取るつもりネ!」


 ずいぶんな言い草だな。

 否定はしないけど。

 つーかそれ完璧レグルスもブーメランじゃん。


「自給自足生活もいいけド、アナタ達の才能はここで腐らせておくには勿体ないものォ! お給料も出るしィ、開発もそこですればいいしィ、ここから馬で十五分くらいと思えばァ、ネェ? 悪い話ではないはずよォ?」


 甘ったれたような声で手を擦り合わせるレグルス。

 ラナもキラキラした目で「いい考え! フランが技術顧問ね!」とキャッキャウフフしてる。

 めちゃくちゃ嫌だ、めんどくさい!


「それと、例の石鹸だが……」

「?」

「アレも夏場に向けて量産したいそうだぞ。あれは食中毒に効果があるそうだな?」

「え?」

「そうよ!」

「え?」


 石鹸が?

 と、俺は知らなかったのだが、いつの間にやらラナが石鹸の売り込み文句で『除菌』なる宣伝をしていたらしい。

 レグルスと盛り上がってる時は興味なくて離れた場所にいたんだが……その間に石鹸の宣伝もしていたとは、ラナ……やるな。

 いや、そうじゃなくて……。


「フランの作る石鹸には除菌の効果もあるの。夏場の食中毒や冬場の乾燥でウイルスが繁殖しても、石鹸で洗えばかなり病気に罹るリスクが減らせるはずよ!」

「そ、そうなの?」

「そうなの! ……それと、食中毒は冷蔵庫を活用するといいわ!」

「そうなのヨ!」


 バァン!

 と、テーブルを殴る……いや、叩くレグルス。

 な、なに?


「冷蔵庫すごいのォ! 夏場に向けて量産すれば、今年は食中毒で亡くなる人を減らせると思うのよォ! やっぱり冷蔵庫量産は急務! 石鹸と合わせて売り込めばバカ売れ間違いナシ!」

「!」


 食中毒で、人が……。

 なんかクネクネするレグルスを見ているのがしんどくて隣のラナを見ると、立ち上がってドヤ顔。

 な、なんか嫌な予感が……。


「今年は食中毒で亡くなる人を減らすのよ! レグルス! 小型冷蔵庫を量産! そして、庶民がちょっと頑張れば手の届く銀貨五十枚で売るの! そしてフラン! 大型冷凍庫を中型竜石核で作って! アイスを作るわよ!」

「あ、あいす?」

「アイス!」


 また、なんかわけの分からない事を言い出した?

 レグルスも「あいす?」と首を傾げる。

 ラナはドヤ顔でくるり、とうちの冷蔵庫に近づき、扉を開け、下からなにか持ってきた。


「これよ!」

「?」

「なんだ? これは……ミルクを固めたものか?」

「デザートにして出してあげる。まずはご飯にしましょう」


 あ、ああ、もうそんな時間か。

 そう思って、とりあえず言われた通り夕飯の準備。

 ラナがるんるんなのは見ていてほのぼのするのだが……今の話……俺が学校の先生とか……いやー……ないわー。


「そういえばラナ、宰相様に手紙は書いたの?」

「ええ、前回『爵位継承権利放棄』の依頼をする時にちゃんと書いたわよ。こっちでの生活はフランのお陰でとっても快適! お屋敷にいるよりも自由に楽しく生きられてサイッコー! そのうち遊びに来てね! って、書いて送ったわ」

「へ…………へぇ」


 き、気軽に言ってくれるなぁ。

 相手は隣国の宰相なんだから、気軽に遊びに来れないよって……まあ、父親が娘に会いに来るのは悪い事じゃないし、宰相のボロ泣き顔を思い出すとさぞや心配してると思うとね。

 でも本当に押しかけられたらどうしよう?

 い、いや、さすがにそれはないか。

 少なくとも今の時期は難しいはずだ。

『竜の遠吠え』に備えて、てんてこ舞いだろうから。


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