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綾木  作者: 心鶏
9/21

第九話  ((|サンダーパンチ|))

「凄まじいィィ!!!黒尾 武彦!!ロロを相手に互角!!!」

「戦士たちが離脱できていませんね。おそらく、あのゲートが出口。システムごと攻撃されたんでしょう」

「となると、黒尾さんは戦士離脱のための囮ってことですね」

「いや、あいつは対人戦においては赤丸部隊一です。もしかすると、あいつなら」



「まったく……。化け物か……」

 ロロと対峙する黒尾。

 その戦闘服はスコール戦闘所のもので鳶職のようなダボついた薄水色ズボンに白Tという、身軽な戦士の格好だ。

 スコール戦闘所の特殊武器は衝撃吸収パワーブーツで、相手の攻撃を受ければ受けるほど威力が上がっていく。さらにいまは電撃効果も付与されている。

 威力が上がっているはずだが、ロロはまだ、余力を残しているように見える。

「黒尾さん。伝説の英雄がそんなザマじゃみっともないですよ」

 黒尾もすでに61歳。

 もはや戦っていられる歳ではなかった。

「……黙って戦え。若造」

「じゃあ、黙りますけど。戦ったら黒尾さん、ボロボロになっちゃいますよ」

 ロロは閃光のように間合いを詰めると、太刀を水平に振った。

 黒尾は膝をあげ、その太刀を受け止めた。

 すかさずロロは太刀を振り上げおろしたが、黒尾の足に払い落された。そのまま体重を乗せ、黒尾のハイキックがロロの顔を捉える。

 しかし、その蹴りはロロの片腕で軽々止められた。

 ロロは黒尾の足を離さず、太刀を振り下ろし、黒尾の片足をへし折った。

 ボグウゥゥ!!!

「グッ……!!」

「あっ、黒尾さん、しゃべっちゃいましたね。有言実行できないのは偉そうな大人としてどうかと思いますよ。いいですか、一度言ったことはしっかり、やり遂げないと」

 ロロは黒尾の足を高く掲げ、サンドバッグのごとく宙吊りになる黒尾を太刀で連打した。

 ザアダダダダダダダダダダアアアアンンン!!!!!

「ほら、ボロボロ」

「ゴアァ……」

 バリリイイイィィィッッ!!!

 ロロを電気を帯びた衝撃が襲い、ロロは黒尾を残し吹き飛んだ。

「黒尾さん、離脱を。その怪我じゃもう」

 黒尾を助けたのは河合の遠隔衝撃グローブの一撃だった。

 遠隔衝撃グローブは衝撃発生のためにチャージが必要で、レベル4以上は最短5秒の溜めで衝撃を放てるが、チャージに上限はなく、溜めれば溜めるほど威力が上がる。

「なめるな。まだいける」

 黒尾は現在離脱中の戦士たちよりも重傷を負っていた。

 それでも、まだ立ち上がるのは経験から得た、根性だった。



「2対1なら勝機はあるな」

「ですね」

 ララは頑、桐原の二人によって食い止められていた。

 来る。

 ララの攻撃は速く、それでいて重かった。

 右左とパンチを受け流す桐原、その隙に殴りかかれば、ララはハイキックを合わせてくる。

「クッ!」

 頑はなんとかガードする。

 グローブの上からなのに、まるでコンクリの塊をぶつけられているみたいだ。

 が、その隙に桐原のカウンターがララに決まる。

 バチバチイイイィィィ!!!

 ララは吹き飛ぶ。



「どう?離脱はうまくいってる?」

「はい。あとはあの四人が離脱するだけです」

「システムは取りもどせそう?」

「わかりません。そもそもハッキングはわあしの分野じゃないので」

「そっか。お茶置いとくよ」

 園田はそっと藤高のデスクにお茶を置いた。

「理生さん、ネコさん、河合さん、黒尾さん。戦士の離脱が完了したので、皆さんも逃げてください。現状、戦うのは危険すぎます」



「残るは河合、桐原、頑、そして瀕死の黒尾 武彦」

「にらみ合っていますね」

「さあ、どう決着がつくのか!?」



「ララ、その人たちは逃げるつもり、ないみたいだから、あのゲートを壊しちゃってよ」

「わかった」

 ララが駆け回りゲートを壊していく。

 四人は仮想空間中央でロロに一斉攻撃を仕掛けようとしていた。

 しかし、離脱できない状態では負けが何を意味するのか、誰にも想像できていなかった。

 そのため。

「……!!」

 河合は黒尾を無理やりゲートに入れた。

 次の瞬間にはララがゲートを壊していた。

「世代交代はさせてもらわないと。あの怪我じゃ危ないし。ね、頑さん」

「すごい人なんだろうけど、仕方ない」

「逃げてくださいと言ったはずですが〜」

「ごめん、荵ちゃん。でも、ここで逃げるのはもっとやばい気がするんだ」

「は〜。なら、ちゃんと倒してくださいよ」

「わかってる」

 ララが全てのゲートを壊し、ロロの元へ戻ってきた。

「終わったよ、ロロ」

「ありがとう。ララ。最初の計画からだいぶ狂わされちゃったね」

「うん」

「皆さんのマスターさんは僕らの思っていた以上に優秀です。あんなに速く非常用の離脱路を確保されるなんて思ってもみなかったです。だからこそ、皆さんだけは倒したい。頑さんと河合さんを殺してから、桐原さんを殺します。満島さんとの約束なので」

「ロロ。頑張ろうね」

「もちろん。空間システムはもう僕が完全に掌握している。ようやくこれで……」

 バアジジジジジイィィィンンン!!!!!

 ロロを凄まじい電撃が襲う。

 河合が新人ながら無敗を誇り、13戦全勝なのは、情け容赦なく勝ち方を選ばないからである。

 黒尾をゲートに無理やり入れた時にはすでに溜め始めていて、そのチャージ時間はさっきの倍。

 しかし、忘れてはいけないのは、ララとロロは相手の戦闘スタイルを理解しているということ、河合の不意打ちも想定内。

 ロロは爆発のような電撃を太刀で受け止めていた。

「驚いていますね。この太刀は、実は電気を通さないんですよ。だから、僕は何にも痛くなかったんですが、話してた途中に攻撃してこられたのは嫌だったかな。……あなたから殺す。」

 ララとロロは一斉に攻撃してきた。

「ララは私と理生ちゃんで、河合さんはロロを」

「はい!」

「わかりました」

 ブワッッジイイイイイィィィィン!!!!

 頑と桐原はしっかり防御したにもかかわらず、ララの攻撃で吹っ飛んだ。

 ロロの攻撃は、まるで今までの攻撃がお遊びだったとでもいうように強く。

 ザアアバアアン!!!ザアアバアアン!!!ザアアバアアン!!!

 河合に防御しても耐え難い攻撃を浴びせた。

 すでに骨は折れているであろう河合も、やられっぱなしではなく。

 隙をみては、チャージした衝撃を放っているが、ロロは涼しい顔で太刀を振って衝撃を弾き飛ばしている。

「河合さん、不意打ちは相手を一撃で倒せる確信がなきゃダメですよ」

 ロロは少し踏み込むと一瞬で河合の首を掴み、脇腹に思いっきり太刀を打ち付けた。

 ズバアアアアァァァァンン!!!

「ウグゥゥ……!!!」

 ッドオオオオオオォォンン!!

 なんとか立つ河合の両脇を頑と桐原が吹っ飛ばされていった。

 ロロは河合の首から手を離し言った。

「それから、相手が予想できない場所から攻撃しないと」

 ッッドアアアオオオオオオオオオオンンン!!!!

 瞬間、背後からのララの攻撃に河合の背骨は折れ曲がり、正面の壁高くに叩きつけられ落ちた。


「ララはどっちがいい?頑さんか?桐原さんか?」

「頑さん」

「わかった。じゃあ、僕はララが頑さんを殺したら、桐原さんを殺すね」

「うん」



「河合 優也!!ララとロロの攻撃に撃沈。古長さん、仮想空間で死ぬっていうのはどんな感じなんですかね?」

「……わかりません。通常の戦闘では死ぬことはないので、その前に必ず離脱になるので。だからこそ、本当にこの戦いは危険です」

「そ、そうなんですか。戦士が心配です」



 ララの攻撃を受け流し、反撃に出ようと思えば、もう目の前にはララの拳があり、紙一重でかわし、カウンターを入れてやろうと思えば、ララのハイキックが私を襲い、防御してしまえば、車に轢かれたかのような重さ。いや、それ以上か、速度があるからか体感では象に食らったプレスより重い。

 しかし、それなら、少し距離を取れば、追ってくる。

 そんで、攻撃もしてくる、その一撃にこっちの攻撃を合わせられれば、速さで押し切られる危険性は格段に減る。

 頑は少し身を引いた。

 読み通りララは追ってくる。そしてララの右ストレートに頑のクロスカウンター。

 完全に決まったはずだった。

 ララは頑の一撃を食らい、頑はララの右ストレートを避けていた、が同時にララは頑の脇腹を蹴っていた。

「ガァッ!」

 少しよろめくララと吹っ飛ばされる頑。



「システムのガードがより強固になっていて、取り戻せそうにありません。ただ、現在、理生さん、ネコさんのパワーグローブを一撃だけ、仮想空間の上限まで攻撃力を上げることに成功しました。いいですか〜。一撃だけですよ。最後のチャンスです」

「わかった」

 桐原はロロを見据えた。

 ロロは桐原へ歩いて近づきながら、微笑み言った。

「優秀な人だと思っていたのに甘いなぁ。僕がシステムを握っているのに、今の会話が聞かれていないと思っているなんて」

 桐原は構えた。どうしようもなく嫌な予感がしたからだ。

「ねえ、桐原さん。それなら、攻撃される前に立ち上がれないくらい、瀕死に追い込めば、満島さんとの約束を果たして、僕らの勝利なんですけどねー」

 それは河合にやった攻撃と同じだった。

 一瞬で間合いを詰めて、首を掴む。

 そのあとは違い、河合は一撃で終わったが、桐原は問答無用の太刀で滅多打ちにされた。

 ッスダダダダダダダダダダアアアアァァァァンンン!!!!!

「クアッ…………」

「ちゃんと全部、急所は外しましたよ。骨は何本折れてるかわかりませんけど」

 ロロが手を離すと、桐原は倒れた。

「それじゃあ、待っててくださいね。頑さんは強い。僕らの知る中でも戦闘技術に関してはトップクラスです。ララもちょっとだけ苦戦しているようなので、二人掛かりで殺してきます。ララー、手伝うよー」



「決まった……」

「所長のナイス人選ですね」

「綾木戦闘所一頼れる人ですから」

 戦闘を終えた所長、吉野。やることのなくなった園田が応援中。



「ロローー!!桐原に背を向けたああ!!全身全霊!!!一撃入魂!!!桐原 理生!!必殺のサンダーパンチィィィ!!!!」



「!!!」

 ッバッザアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァンンンン!!!!!!!

 ロロが振り向くより速くイナズマが走り。

 桐原の拳はロロのみぞおちを背中から貫いた。

「な、なぜ。…………」

 剣でも抜くように桐原はロロから拳を振り抜いた。

 ロロは膝から倒れ饒舌な口が動くことはなくなった。

「諦めないから……」



「桐原が!桐原 理生がやったああああぁぁぁ!!!ロロ!撃破!!」

「残るはララですね。桐原の怪我を考えると、頑と1対1でしょうね」

「頑とララの最終決戦!仁義なき女の戦い!どちらが制す!?……あれ、中継が」

「止まりましたね」

「えー、少々お待ち下さい。ただいま復旧しております」



「ええー。これからネコちゃんの本領発揮なのにー」

「ただのトラブルでしょうか」

「えっ。所長、それは?」

「ララとロロは敵ながらとても仲が良さそうに見えました」



「ロロォォォーーーー!!!!!嫌だ!嫌だよぉぉーーー!!!私を一人にしないでよぉぉぉぉぉーーーー!!!!」

 ロロは桐原の近くに倒れていて、桐原もさすがに耐え切れず倒れていた。

 そのロロにすがり、抱きつき、泣きわめくララ。

 ララの攻撃で身体中が痛いが、あとはあいつにこの一撃を決めればいいだけ。

 でも、ロロはいないんだし、システムが復旧したのでは?

「ロロは理生ちゃんが倒したし、システムの方はどう?」

「……言いずらいのですが」

「ダメか」

「いえ。そうではなくですね。システム上から、その仮想空間が消えました」

「えっ……」

「映像と音はかろうじて繋がっているようなので、それを辿って探しているのですが。システムの異常は全て治っているんです。おそらくですが、ララがその空間を隔離したのかと」

「それはやばい?」

「はい。もしかすると、河合さん、理生さん、ネコさんは目を覚まさないかもしれません」

「やば……」

 頑はララを見た。

「あれ?ララの輪郭がはっきりしない」

 目をこするとララにはノイズのような砂嵐が体の所々にあった。

 視界が一瞬暗転すると、ララは桐原の頭を掴み、体を持ち上げていた。

 瀕死の桐原はなんとか抵抗するがララはビクともしない。

「……許さない……」



 頭蓋骨がメキメキと音を立てている。

 私を掴むララの手の隙間から見える、泣き顔のララはもう片方の腕を引いた。

 私は死を覚悟した。

 痛みより勝る感情が私を支配した。

 怖い。



 また視界が暗転、今度はコマ送りのように繰り返す。

 ララが桐原の腹部を殴っている。

 音もなく殴っている。

 一撃一撃は桐原の腹を貫通し、次々と肉片が飛び散る。

 桐原の体は上半身と下半身に殴り切り離された。

 暗転がおさまれば、桐原の頭を床に何度も叩きつけて潰すと、壁に投げつけ、追いかけて一殴りで桐原の上半身を木端微塵にした。

「!!」

 頑はなにも出来なかった。

 あまりのショックに体が動かなかった。

 惨劇は戦場で見てきたが、それでもそれは戦場、そういう場所でここは違う。

 死のない場所。死ぬなんてことが、そんな無残な姿になるなんてことがあるはずない場所。

 ララはゆっくりと頑をみた。

「ネコさん。構えて!!」

 藤高の声で我に返った頑。

 血の味がする唾を飲み込んだ。

 溺れちゃいけない。

 私がここで死ぬのは、今までの犠牲を無駄にするということ。

 戦場で一人になると、決まってこれまで死んでいった部下や上司の顔が蘇る。

 一人でも、死にかけでも、私は立って戦わなくては。

「ロロ……ロロ……」

 また暗転する。

 音のない衝撃が私を叩く。

 明るくなれば、ララは私の懐にいて、さっと離れた。

 ララは私にトドメを刺そうと拳を握っている。

 マズい、負ける。

 腹が異様に痛え。呼吸ができない。

 今、ララにやられたんだな、穴でも空いてそうだ。

「……ロロ」

 ズザッシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァンンンン!!!!!!

 ほんの一瞬に暗転したかと思えば、ララは雷に包まれ、痛みに苦しんでいた。

 ララは雷が飛んできた方向をにらんだ。

「頑さん!今!!!」

 倒れながらも河合が遠隔衝撃パワーグローブの照準をララに合わせていた。

 遠隔衝撃パワーグローブは片手づつに衝撃波を放つ機能があり、河合は今まで右腕の衝撃しか放っておらず、今の一撃は河合がこの仮想空間に参戦した時から溜めていたものだった。

 ロロには太刀で防がれるとわかった以上、ララが一人になるまで河合は瀕死のままタイミングを見ていたのだった。

 ララは電撃により明らかに動きが鈍くなっていた。

 しかし、頑の腹にはララの拳分の穴が空き、頑も十分瀕死の状態だったが。

 そんな程度で倒れるような覚悟ではなかった。

「トドメだ。食らえ、私の……サンダーパンチ……」

 ッバッザアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァンンンンン!!!!!!!

 頑はララの首を拳で貫いた。

「その仮想空間の全権限がわあしに戻りました。戦闘終了です」

 ブザーが鳴った。

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