第八話 訓練兵無双『R』
「!! 鳥人間が木端微塵に!何が起こっているのか!!??空中には落ちていく満島!もう二人、若い男女。少年少女!!一体何者なんだ!!」
「あれは、……ララとロロ」
「ご存知なんですか?」
「ええ、戦士の試験の時に戦うレベル1の戦闘プログラムです。現役戦士なら間違いなく一度は戦ったことのある二人です」
ララとロロはまだ、満島の存在に気づいていなかった。
「レベル5乱入!!今、園田さんに本部へ連絡してもらっています。理生さん、優樹さん、ネコさんにも緊急戦闘命令を出しました。援軍が来るまでひとまずグローブ・ブーツを支給するので逃げてください。その間にわあしは解析を進めます」
満島は落下しながらブーツを履き、着地、グローブをはめて二人を見た。
ララとロロは着地の音で満島に気づいていた。
「ようやく、終わらせられるね。ララ」
「うん」
「随分、昔に戦った人がいるなぁ。見てよララ。あんなに老けちゃって」
「ほんとだ」
「戦士が何人かきたら、始めようか、ララ」
「うん」
満島は立ちすくんでいた。
15年前に戦ったララとロロはレベル1で、強いわけじゃなかった。
その彼らがレベル5という判定でここにいるからでもなかった。
ただ、単純にベテランの勘が、目の前の真っ白な長ズボンとTシャツを着た少年少女は、今までのどの敵よりも強いと言っていた。
二人は満島を見つめた。
「怖いですか?僕たちが」
「顔色が悪い」
満島は冷や汗とも違う嫌な汗をかいていた。
「……ただの乱入ではなさそうですね」
頑は夫が修学旅行で家にいなかったため事務所で観戦中、つまり、すぐさま参戦である。
「ネコちゃん出動!」
「はい!」
手が離せない藤高の代わりに、園田が転送機を作動する。
「荵ちゃん、本部へ連絡したよ。各国の戦闘所に戦闘命令が出されたって」
「わかりました〜。理生さんと優樹さんもお願いします」
「うん」
「ただいまレベル5の乱入との情報が入りました。中継は継続致します」
「ただ、動かないですね」
「満島とララとロロ、話しているように見えますね」
「援軍が来るまでの時間稼ぎってところですかね」
「僕らは何者?」
「わからない」
ララとロロは満島に話を聞かせ、暇つぶしをしていた。
「戦士が戦士になるための最初の敵?」
「違うと思う」
「いや、あなた達は試験用の訓練兵です」
「満島さん。ララが違うと言ったら違うんですよ」
「! どうして名前を!?」
二人はクスクス笑った。
「僕らはパズルのピース、だけど、隣のピース、その隣のピース。辿っていけば満島さんのピースもあるんですよ」
「全部、お見通しってこと」
だから、こんなに勝てる気がしないのだと、満島は納得した。
自分の戦闘スタイル、格闘中の癖を知っている、これほど厄介な相手はいない。
「さあ、話を戻すと。僕らは訓練兵じゃない。満島さん、考えてみてください。試験用の敵は二人も必要?見た目が16歳の少年少女の意味は?」
「もう、戦うのは嫌だから」
「ララもそう言ってることだし、意味なく戦いを強いられるのはうんざりだから、今日、満島さんも含め、ここで戦士を全員……」
「殺す」
「殺す」
ララとロロの殺戮宣言と同時に頑 願子、他、全世界津々浦々の戦闘所から出撃した戦士達が召喚された。
その数約500人。
レベル5の場合、マスターは仮想空間を管理するマスターと、各戦闘所の戦士を管理するサブマスターに分かれる。
今回は藤高がマスター兼綾木戦闘所サブマスターとなり、それ以外の戦闘所のマスターは所属している戦闘所のサブマスターとなる。
「おお、初めてのレベル5。めちゃめちゃ人いるなー」
「あっ。頑さんも初めてですか?」
頑に話してきた好青年は今、話題の大型新人、定戦闘所所属の河合 優也。
定戦闘所の戦闘服は白スーツで、とてつもなく動きにくそうだが、ビシッと決まっている。
さすがの人気に頑も名前くらいは知っている人物だ。
「河合さん!?」
「ああっ、すみません。初めましてですよね。僕、頑さんのファンなんですよ。いつも熱い戦いでみてて楽しいというか」
新しい嫌味か?
「そんな話、してる場合じゃないですよ。あいつら」
頑が指をさす方向にはララとロロが。
「うーん、まだ足りないかなあ」
「そうなの?ロロ」
「半分くらいってとこかな」
「みんな、睨んでくるよ」
「僕らを恐れているんだよ。もう始めようか」
「わかった」
「満島さん。あなたを最初に殺すから、最後の一人は決めさせてあげますよ」
殺されるといっても仮想空間での話。
しかし、満島所長は考えた。
この人ならもしやという人。
「うちの戦闘所の桐原さんを最後にしてください」
「わかりました。約束です。それじゃあ。ララ」
「うん」
二人は動き出した。
満島はやられるつもりはなく、ララに向かって行ったが、攻撃は全てララの体をすり抜け、それなのにララの攻撃は満島に全て当たった。
ララとロロは圧倒的な力で、パワーグローブ・ブーツ、遠隔衝撃パワーグローブ、衝撃吸収パワーブーツという、戦闘所別基本特殊武器三種では力くらべでは勝てず、それでいて、ララとロロは全戦士の戦闘スタイルを把握していて、そもそも一撃当てることが無理難題なのに、当たったところですり抜ける。
「ガハッ!……」
満島は倒れた。
他、防戦一方の戦士たちも徐々に崩され、数が半分ほどに減った頃、援軍が到着し現在約800人
「今回はやばそうですね」
「あ、理生ちゃんに優樹くん」
「どんな状況ですか?」
「相手に攻撃が当たらない。相手の攻撃は超速い。弱点を探そうと、いろいろ試している前線の戦士達が秒殺されてる感じ」
「ってことは」
「なんにもわかってない」
三人は仮想空間の中央で暴れるララとロロを見据えた。
藤高 荵の指示が始まる。
「満島所長は理生さんに賭けていました。なので〜、残りの優樹さんとネコさんは前線へ。普通の攻撃はまず当たらないです。何か策を練りましょう」
「了解」
「こっちの攻撃をすり抜け、向こうの攻撃はこっちに当たる。ってことは、わあしの予想では〜、形状、本体はともかく、大部分はおそらく液体か気体なので、空気か水だと考えて〜、有効そうなのは真空波か電撃ですかね〜」
「わかった。優樹くんに真空波を。私には電撃を頂戴」
「パワーグローブ・ブーツにそれぞれ、真空波、電撃効果を付与しました。気をつけて下さい。攻撃が当たったとして強敵に違いはありません」
「了解。いこうネコさん」
「じゃあ、理生ちゃん行ってくる」
「気をつけて」
ダサいジャージの二人が前線へ赴く。
ララとロロは問答無用で戦士たちを次々と倒していた。
「ぬるいなぁ。殺り甲斐がないよね、ララ」
「うん」
「みてよ。僕らの強さに、最初の威勢はなくなっちゃってるよ」
「うん。みんな見てばっかり」
策もなく突っ込む連中は大半退場し、弱点の分析もできず、様子を伺う戦士に囲まれララとロロは退屈そうに喋っていた。
「そうでもないぞ」
「あっ。頑さんだ!」
名前を知ってる。データはそっちにあるってことか。
「お前らをぶっ飛ばしてやる」
「だってさ。楽しみだね、ララ」
「うん。私、頑さんとやりたい」
「じゃあ、僕は吉野さんとやるね」
「ララとロロの前に出たのは綾木戦闘所の吉野 優樹と頑 願子!しかし未だララとロロへの攻撃手段は不明。何か策はあるのか!?」
「……」
「吉野!特攻!駆け寄り拳を振るう。これは!真空波だ!!しかし、ロロは微動だにしない。ロロの反撃!吉野、青白い太刀で滅多打ちだ!」
ズズザザザザザザザザッッッ!!!!
「グアアッ」
ロロの太刀は切るよりも打つに近く、身体中の骨が十数本折れた吉野は膝をつき、倒れた。
「やっぱり、たいしたことないなぁ。そっちはどう?ララ」
バッチイイィィィッッ!!
戦える。
ララは身をそらし、頑の顔めがけ蹴り上げてきたが、両腕で受け止め、その下をくぐり受け流す。
すげえ力だ。まともに受けたら耐えられるようなもんじゃない。
蹴り後の隙を見逃さず、頑は踏み込んで右ストレートを一発、体勢を整えようとするララの顔に入れた。
バリバリイィィイ!!!
眩しい電撃がほとばしる。
「!!」
ララは頑の攻撃により壁際まで吹っ飛んだ。
「ララァァァァァーー!!」
ロロはすぐさま、ララの元へ駆け寄った。
戦士たちもいない壁際で横たわるララ。
「大丈夫?ララ」
ロロはララの手を引き、起こす。
「うん。でもびっくりした」
「そっか。バレちゃったみたいだね、僕らの弱点」
「うん」
「でも、大丈夫。これからが始まりだから」
「うん」
「荵ちゃん。弱点は電撃だ」
「わかってますよ〜。情報は拡散しました〜。現在、ララとロロは壁際、それを囲むように電撃銃を持った戦士達がスタンバイしています。ネコさんと理生さんを除いてここにいる全戦士です」
「チェックメイトかな」
「ネコさーん!ナイスですよ!」
頑に駆け寄ってきたのは桐原。
「なんの。前回の能力者の方がよっぽどキツかったよ」
「ですねー」
ババババババババババババババババアアアアアアアアァァァァァンンンンン!!!!!!
銃声が重なり合い、仮想空間に冷たく木霊する。
「終わったかな」
「一斉射撃ィ!!!これはララとロロ、成す術なしか!!??」
「いや、嫌な予感がします」
「嫌な予感ですか?」
「いつでも放送を中止できるようにしておいてください」
「何が起きるんでしょう?」
「わかりませんが、わからないからこそです」
「この数は危ないね」
「減らす?」
「減らした方がいいだろうね。戦士たちの驚く顔も見れるだろうし」
銃弾の嵐をくぐり抜け、ララとロロは凄まじい速さで戦士たちを倒していった。
ララとロロはまるで先ほどまでとは動きが違い、あっという間に包囲していた戦士の数は半分ほどになった。
「さあ、気づくかな」
「お疲れ、優樹くん。所長が下で観戦してるよ」
「じゃあ、俺も行ってきます」
綾木戦闘所の2階では退場した、所長、吉野が一息ついていた。
その上、3階ではマスターの藤高がララとロロの解析を行い、マスターアシスタントの園田がわかった情報を各戦闘所へ拡散していた。
「電撃でようやく、相手と戦える状況になっただけか。何か他の策を考えないとね」
「園田さん。ちょっといいですか」
藤高は園田に画面を見るようにジェスチャーした。
「これって、普通、離脱するはずですよね」
「!! うん……。何これ?」
「わかりません。でもとにかく、戦士達が危険です」
電撃銃でララとロロを包囲していた戦士の半分は明らかに離脱する重傷を負っていたが、一向に離脱せず、仮想空間に残されていた。
「緊急命令!現在、システムの制御がきかない状態にあります。外部から無理やりシステムに侵入し非常用として五つの出口を設けました。重傷人を連れて、その出口から戦闘を離脱してください」
さすがにゆるくなくなった藤高の指示が飛ぶ。
仮想空間の四つ角と中央に青いゲートが現れた。
「なんかヤバそう」
「私達も逃げた方がいいんですかね?」
「理生さんとネコさんには別命令を」
「別命令?」
「はい。システムには外部からの攻撃の形跡はありませんでした。おそらく、ララとロロの仕業でしょう。つまり、ララとロロはこの離脱を阻止してくるはずです。なので、なんとか、ララとロロの気を引いて、離脱を援護してください」
「私達だけで!?」
「いえ、他の戦闘所の頼りになる2人にも同じ命令を出しています」
「それって」
「僕のことですよ」
現れたのは白スーツの河合 優也、無敗の新人。
「あとは、黒尾さん。もう戦ってると思いますよ。僕らも行きましょう」
伝説の赤丸部隊 唯一の現役 黒尾 武彦。
13戦全勝中の超大型新人 河合 優也。
全てを託された 最後の希望 桐原 理生。
やられたらやり返す 元陸軍軍曹 頑 願子。
「ああ、終わらせよう」