第七話 飛び上れ!鳥人間
「この前のはかっこよかったねー。ネコちゃんナイスファイトだったよ」
「いやいや、みんながいろいろやってくれたおかげで、弱点が見つかったわけですから、みんなの勝利ですよ」
頑は9連敗を確実に返していっていた。
「あと、5連勝でようやく勝率50%か。長いなー」
「ネコちゃん調子いいからすぐだよ、きっと」
戦闘所には現在、トレーニング(順応訓練)に来ていた頑とマスターアシスタントの園田、それと夜に戦闘を控えた所長と藤高。
「そういえばネコちゃんの通称変わってたよ」
「えっ、本当ですか。いったい何に」
「いい?心して聞くんだよ」
「……はい」
「……倍返しの黒猫」
「誰が半○直樹だ。古くね?」
「黒猫はいいと思うんだけどな。うちの戦闘服黒っぽいし」
「なんか、微妙な感じですね。この前みたいにチーム戦だと」
「壮年の鬼 満島薫!!魂の拳 桐原理生!!現代の忍者 吉野優樹!!倍返しの黒猫 頑願子」
「うわあ、悪夢ですね」
「どうですか、何かわかりましたか?」
システム点検中のマスターと所長。
「さっぱりですね〜。なぜあんな自我が芽生えたのか……」
「再構築や実証の結果は?」
「全然です。どちらも50回ほどやりましたが、しゃべるようなことは一度もないです」
「そうですか」
「……ただのプログラムエラーだといいんですが」
「というと?」
「バグかサイバー攻撃の可能性も」
「サイバー攻撃ですか」
「今夜、戦闘中に探ってみたいと思います」
「戦闘状態だと何か変わるかもしれないということですね」
「はい〜。でも、気をつけてください。何か、嫌な予感がするので」
満島 薫 36歳 戦士歴15年
彼は綾木戦闘所の黄金時代を知る現役の戦士である。
前所長 綾木 慶とは真逆の戦闘スタイルで、策略、戦術なんて文字は彼の辞書にはない。
それでも、勝率が現在綾木戦闘所内1位なのは、その気力と何が相手でも臆することなく攻め続けるからである。
プライベートでは丁寧かつ優しく、二人の子供を持つシングルファザーである。
妻とは4年前に死に別れ、最近では仕事が忙しく、子供の面倒を見れていないのが悩みである。
かくいう今日も、下の子の誕生日である。
「さあ、皆さん!やってまいりました!手に汗握る!世界最大の異種格闘技!ピーナッツ!!」
今日は満島所長の戦闘だ。
「実況は私、清水 武雄、解説は古長 進一さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さあ、本日は綾木戦闘所所属 満島 薫。今日はお子さんの誕生日ということで、果たしてその勝利をプレゼントすることができるのか!?対するはレベル2、翼をもった疾風の超人!鳥人間!!27歳女性 美容師の方の挑戦です。飛行の最高スピードは60キロほど、急行下時はなんと200キロ!!古長さん、これはレベル2の条件で戦うのはかなり苦しいですよね」
「そうですね、ただ、拳銃が支給されるのでそれさえ当たればといったところでしょう」
15年間、もう、安らぎすら覚える。真っ白な仮想空間での戦闘。
「今回は鳥人間です。頑張ってください〜」
「わかりました」
満島は銃弾を装填し、短刀を構えた。
現れたのは腕の代わりに体の倍ほどの翼をもつ男。
男は羽ばたき、ゆっくりと上昇し始めたが。
パアアァァァン!!パアアァァァン!!パアアァァァン!!
満島は容赦なく撃った。
命中した鳥人間はたまらず急上昇。
「よっしゃー、やっちまえー」
「がんばれ、満島所長ー」
マスアシ園田と絶好調の頑は事務所にて応援中。
「上に逃げられるのは困りものですね。まあ、どうせ、降りてこなきゃ攻撃もできないんでしょうが……」
満島は上空へ銃を向けた。
「満島は待つ!鳥人間!最初の痛手が響いているか!?」
「三発も撃たれましたからね。これからどうするのかに期待ですね」
鳥人間には遠距離の攻撃手段がなかった。つまり、やることは一つ。
「鳥人間!急降下だァ!!!凄まじいスピード」
パアアアァァァァン!!!パアアアァァァァン!!!パアアアァァァァン!!!パアアアァァァァン!!!
満島は銃を撃つが、軌道の安定しない鳥人間には当たらず。
ドワオオオオォォォォォンン!!!!!
200キロ急降下からのかかと落としを紙一重でかわした満島。
しかし、鳥人間の追撃。かかと落としの踏み込みから蹴り出し低空飛行頭突き。
ゴッスゥッッ!
「グウアッ」
満島のみぞおちに頭を突っ込んだまま羽ばたき、ぐいぐい押しまくる鳥人間。
「ああ、これ戦車にやられたやつだ」
「そうだね、ネコちゃんもこれ、やられてたね」
満島は短刀を振り上げ、鳥人間の翼の付け根に振り下ろす。
ザズアァ!
鳥人間は明らかに弱ってきていたが、最期の力と言わんばかりに。
「鳥人間、満島を捕らえたまま飛び上がった!!急上昇だ!!」
「もう、落ちたら助かる高さじゃないですね。空中で決着をつけないと、満島くんの負けが決まりますね」
「なるほど、鳥人間!起死回生の策!どうする満島!!」
満島は右足を引き、みぞおちに頭を押し付ける鳥人間の胸部に膝打ちを入れた。
鳥人間はもう飛ぶ力さえなく、満島は飛ぶことができず、二人は同時に落ちていった。
「これで終わりですよ」
満島は頭から落ちながらも、すぐ横を落ちている鳥人間の首元に短刀を投げつけた。
ズアスゥゥ!
ブザーが鳴った。
「トドメを刺したァァ!!満島 薫!危なげなく貫禄の勝利!! ?? 鳥人間が破裂した!!」