第六話 WRYYY?
頑 願子の期待はずれの新人という通称はなくなったが、現在なんのイメージもない状態だ。
「次に連打で勝ったら頑名人とかになっちゃんじゃない?」
「それは嫌ですね」
頑と園田はそんな話をしながら戦闘所で昼メシを食べている。
出前のピザだ。シーフードとチーズのハーフ&ハーフである。
「だから、次の戦いが重要なんだよね」
「そうですね」
「リオちゃんは魂の拳、優樹くんは現代の忍者、満島所長は壮年の鬼。みんな、なかなかかっこいい通り名だもんね。まあ、勝率は置いとくとして……」
「名人は嫌です」
「それだったら、パンチしなければいいんじゃない?」
「まあ、それはもっともなんですけど。今まで殴り勝ちしかしてないもので、他の勝ち方がわからないと言いますか」
「そういえばそうだったね。試験の時はどうだったの?ララとロロとの戦いは?」
「みぞおちに一撃入れて終わったはずです」
「ああ、それでいいんじゃない。連打しなきゃいいのよ」
「あっ、そっか」
「さあ!やってまいりましたよ!今日も世界1の異種格闘技!プライドをかけた戦士と挑戦者の激闘!死闘!のピーナッツ!!」
今夜はレベル4、綾木戦闘所の戦士たち総出での戦い。
「実況は私、清水 武雄、解説は紫道 真さんでお送りいたします。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さあ、本日は綾木戦闘所所属の戦士全員出動です。パワフルな戦闘でおなじみのベテラン 満島 薫を筆頭に、軽快な忍者 吉野 優樹、一撃入魂一発逆転 桐原 理生、三連勝中であり好調な新人 頑 願子。この四人で戦います。最近では勝率が落ち込み気味の綾木戦闘所に対するは二連勝中レベル4!能力者フラグパ!大東大学 ピーナッツ研究サークルの挑戦です」
ピーナッツは挑戦者が勝利した際、賞金があるため、この頃から徐々にプロ挑戦者なるものが出来始めていた。
「モノを止める能力ということですが。紫道さん、この手の能力は昔から漫画やアニメでありますよね。強力な能力だと思うのですが」
「まあ、そうですね。ただレベルが4なので、なんらかの弱点があるのでしょう」
「なるほど、となるとなぜレベル5じゃないのか、というのを探る戦いになるわけですね」
「おそらくそうなるでしょうね」
真っ白な世界に四人。
頑 願子にとって初めての団体戦である。
「気合を入れていきましょう」
「ウイっす」
「はい」
「もちろんです」
お揃いのジャージ。ダサさ爆発だ。
「今回は私は指示しませんね〜」
「了解」
「準備はいいですか〜」
「大丈夫です」
「わかりました〜。では」
四人の前に真っ白な男が現れる。
武器は人数分支給されており、全員パワーグローブ・ブーツ、短刀、拳銃を装備済みだ。
そして四人は容赦なく、男に銃口を向けた。
男は動じない。
リサーサルでも行ったかのように四人は同時に引き金を引いた。
パアァァァァンン!!!!
「撃ったー!!が、これは!!??銃弾、いや仮想空間内の動きが止まっているぅぅ!!フラグパ!!恐るべしぃ!!」
「歩いて弾道外に行ってますね。攻撃してこないのは余裕でしょうかね」
「これが強者の余裕だぁぁ!動きを戻した!銃弾はフラグパを捉えられず」
一人寂しく観戦中なのは園田 戦。
「こりゃあ強いなー。ずるいよー」
あいつが動きを止めた時、意識はあった。動けない自覚があった。ただどちらにせよ攻撃が当たらないな。
「やべえな、こいつ」
「突撃あるのみですよ」
「所長ーー!!」
満島所長が男に突進していったが、また止められかわされ、の繰り返し。
「ネコさん。あれは所長の作戦です」
理生ちゃんが教えてくれる、その間も所長は男を追いかけ回している。
「ああやって、一人が果敢に挑むことで相手の手の内を探りつつ、他の戦士の体力を温存する、そういうレベル4のセオリーです」
「なるほど、で、何かわかったの?」
「全然」
「ダメじゃん。所長もうヘロヘロだよ」
パワーグローブ・ブーツを装備しているからといって体力を消耗しないわけではない。
「走りっぱなしで息切れ気味の満島!しかし、フラグパも攻撃してこない」
「こういう咬ませ犬的な役目は新米たちがやるのが普通なんですが……。やはり、勝率が低いとはいえ彼は所長の鏡ですね」
「そうですね。後輩、部下のために懸命に拳を振るう36歳!その背中には数え切れない激闘を背負うベテラン、その生き様がこれからを担う未来の戦士の届くのか」
「がんばれー、満島所長ー」
しかし、未来の戦士には届いていなかった。
「優樹くんもわかんないかー」
「全然わかんないっす」
頼りにならんな、この年下先輩男女は。
「攻撃が当てらんないし、攻撃されないし。どうすりゃいいんでしょうね」
出来事は一瞬で、しかし、誰の目にも見えた。
戦い抜いていた満島所長の左手の短刀がフラグパによって引き抜かれ、止められたまま満島所長は刺された。
「これはぁぁぁ!!!動きが戻り満島!!激痛に倒れこむ!!フラグパはこれを待っていたのか!!??」
「そうですね、パワーグローブで握られたモノを奪い取るのは至難の技ですから、相手の消耗を待っていたのかもしれませんね」
「策士フラグパ!これは強い」
男は再び動きを止め、残り三人も同じように切り裂いた。
「グアアアァァァァ!!!!」
動きを止められた状態では痛みは感じなかった。ただ動きを戻されれば倒れこむに決まってる痛みだ。
足と腹を刺された。
ううっ……めちゃめちゃ痛え。吐き気すらする。
倒れこむ四人。
レベル4の戦闘終了は重傷を負った者から離脱していき、戦士が一人もいなくならなければいけない。
なのに、まだ誰も離脱していない、全員戦う力は残ってるってことか。
なぜ、あいつは私たちにトドメを刺さない?
まるで、勝利が決まったことに浸っているような。
「ハハハハッ、いい眺めだなぁ。俺にひれ伏す戦士は」
!!?? 喋った!?
対戦相手はただの戦闘プログラムのはず、それなのに、まるで、圧倒的な力を見せびらかすような戦い方、今の発言。
自我が芽生えている?
「大丈夫ですか〜。まさか、喋るなんて〜。異例の事態なので、園田さんが挑戦者に問い合わせています。この声は相手に聞こえてないので言いますね〜。自我が芽生えて言葉を発したなら会話ができるってことですよ〜。それと、一応会話体を分けたので、わあしには心の中から話しかけてください、相手には聞こえません。以上です」
荵ちゃんの説明を聞く限り、こんなことはなかったんだな。
まあ、私はやることをやるか。
「ハアハア……おい!お前。私は負けたつもりないぞ……」
腹の激痛と血のにじむ足の危険信号を無視して立ち上がる。
最初、こいつが銃弾を止めた時、銃弾は随分私たち側にあった。
おそらく、こいつは凄まじい反射神経や自動的な危機回避なんかではない、私たちの引き金を引く指の動きを見て止めた。
つまり不意打ちが効く。
次に、弾道を変えたりせず、武器を奪うチャンスを待っていたから。こいつは動きを止めた時、身につけているモノしかうごかせない。
つまり動けない私たちがこいつを掴めば、こいつも動けなくなる。
それなら、不意打ちで拘束すれば、動きを止められてもこいつは抜け出せない。
そこにパワーグローブの一撃で終わるはずだ。
そのことを、荵ちゃんのヒントで全員が理解した。
「言うな女、俺は最強だ。もっともレベル5に近いレベル4だ」
「私たちに負けるのにか?」
「!!」
男は完全に私にしか目を向けていなかった。
理生ちゃんがナイフを叩き落とし、優樹くんが男の足を掴み、満島所長が殴りかかっていた。
男は何度も動きを止め、あがいていたがどうすることもできず所長の拳を腹にくらい、吹っ飛んだ。
バアアアァァスゥゥゥン!!!!
「ぶっ飛んだぁぁあ!!綾木戦闘所!底力を見せる!しかし、変でしたね。トドメをわざと刺さないようなフラグパの行動。何かあるのでしょうか」
「状況と頑がフラグパを話しているようだったことから察するに、あの能力者には戦闘プログラム以外の何かがありそうですね」
トドメだ。
私は血が出るほど唇を噛み締めた。腹と足の痛みをさらなる痛みで紛らわすためだ。
所長の一撃にうずくまる男めがけて、私は飛び上がった。
かかとをその頭に落としてやる。
私はそいつの上空で止まった。
理生ちゃんがまだ、ナイフを拾えていない。
マズイな。
男はナイフを取り、地上にいる三人を切り刻んだ。
そして、動きが戻った瞬間、退場していく戦士たち。
私は着地なんてできず倒れる。
男は消えていく満島所長のパワーグローブを片方奪った。
「挑戦者からはそんなプログラムはしていないと、返答がありました〜。……ネコさん、ピンチですね、頑張ってください〜」
男にはのんびり荵ちゃんの声は聞こえていない。気にせずパワーグローブを片手にはめる。
つまり、私は荵ちゃんのいう通りピンチだ。
荵ちゃんには口に出さなくても聞こえるんだよな?
荵ちゃん。レベル4はレベル3の敵に変身できるんだよね?
「はい。できますよ〜」
タイミングも決められる?
「はい、できますよ〜」
じゃあ、次あいつが私に触れる瞬間に、私が初めて倒した戦車に変身させて。
「わかりました〜」
私が中に乗る形で。
「変身じゃなくて特殊変身って感じになります。それだと支給品判定になるので、レベル4の場合は一人二つですから、あと一つ支給できます」
戦車をついでに自爆可能にして、表面にパワーグローブでも剥がせないくらいの瞬間接着剤をギットギトに塗っといて。
「わかりました〜。レベル3 近接戦闘機動戦車に特殊変身、強力接着剤の支給。支給のタイミングは触れられる瞬間」
男は私に向いている。
「女、言い残すことはあるか」
この会話は世間には聞かれていない。なら、自分の素直な気持ちをぶつけてやろう。
「ぐちゃぐちゃにしてやる……」
男は私の動きを止め殴りかかってきた。
パワーグローブで私は殴られた。
が、感触はないし、吹っ飛ばない。
ここまでは同じ、動きを止められているから、まだ痛みもないし、変身もない。
「大口を叩く女、お前の負けだ」
男は動きを戻した。
バアアギャァァァンン!!!
男が叩いたのは鉄の塊ということになっていた。
変身てこんな感じか。滅多にやってるやつがいないのは、動かすのがかなり難しいからか。
仮想空間では、体はイメージに沿って動く。しかし、普通自分の体のイメージしかないのだから他の体を動かすのは至難の技で、その難しさから変身を使う者はほとんどいないが、稀に、
「完全に使いこなせる。こうすりゃ砲撃だろ」
私はジェットで上昇しながら、右アームから男めがけて砲撃した。
ブッッファアアアアァァァン!!!
頑 願子のような天才もいる。
「上空から撃ちまくる頑!!しかし、フラグパは動きを止めて避けまくる!!」
「お互いに残された攻撃手段は非常に少ないですね。どう戦うのか見ものですね」
退場した綾木戦士たちは頑を応援していた。
「がんばれーネコさーん」
「撃ちまくれー」
「しっかり!」
あとは、どうやって隙を見せるかだな。
「女、そんな鉄くずで空に逃げたところで、お前の負けは変わらないぞ!」
負けは変わらないか……。
たくさんの部下、上司を失った。それでも私は生きていた。
私はやっぱり、一人の方がいいみたいだ。
「フラグパ!頑の動きを止めて、パワーグローブで逆立ち状態からの大ジャンプ!!」
「パワーグローブを取られたのは痛いですね」
「近接戦闘機動戦車に変身したが、頑これは厳しい状況!」
「しかし、変ですね。パワーグローブ・ブーツでも届かない位置まで上昇すれば、一方的に攻撃できるはずですが」
「それもそうですね。その戦車は一体どんな秘策を積んでいるのか。フラグパ!戦車に乗り、パワーグローブを大きく振り被る!!」
バアギイイイイィィィィン!!!
「!!」
男はもう一度振りかぶろうとしたが、殴った拳が戦車から離れない。
「なっ。なんだこれは!」
男はひたすらもがくが、離れない。動きが戻った。
「知らねえのか?超強力瞬間接着剤『アロ○アルフア』だ。もっともレベル5に近いレベル4か。にしちゃ動きを止める能力の性能が悪すぎる。こっちに意識はあるし、止められていれば痛みも感じない。お前は物も動かせない。だから、私たちのチームプレーで一撃くらった」
戦車はゆっくりと下降している。
「でも、お前はその一撃に耐えた。つまり、能力の性能を下げるかわりに、守りの性能を上げたんだな。レベルは一定の数値できまるらしい。お前の数値が本当にレベル5ギリギリのレベル4だとすれば、パワーグローブで殴ったぐらいじゃどうしょうもないだろう」
男はまだもがいているが、そのせいで膝もくっついてしまっている。
「だから、この戦車ごと爆破する」
「頑、コックピットを開け、大きなジャンプで華麗に戦車から降りるが着地は失敗!傷のことを忘れていたか!?フラグパは動けないまま!動き止め返しだァ!!」
「これは、接着剤ですかね。なかなか考えましたね。あの戦車なら一撃は間違えなく耐えられますし、その一撃を受けた時点で相手を拘束というわけですね」
「これは頑 頑子、元軍曹の策略が光る!!」
さて、戦車を粉々にする爆破、これに耐えられるならレベル5だな。
荵ちゃん、自爆スイッチを。
「は〜い。どうぞ〜」
私の手元に大きなボタンのスイッチが現れる。
「何か言い残すことはあるか?」
「クソがあああぁぁぁ!!!!!!」
「まったく、自我を持つとうるせえな」
私はスイッチを押した。
ドグバアアアアアアアアアアァァァァァァァァンンン!!!!!!!!
ブザーが鳴った。
「頑ぁ勝利ぃ!!!最後は爆破で跡形もなく!!いや〜激闘でしたね」
「そうですね。途中かなり厳しい場面がありましたが、いい戦いだったと思います」
「頑 頑子4連勝、まさに絶好調といった戦いぶり。さて、明日の戦闘は定戦闘所所属、12連勝中の大型新人、河合 優也。対するはレベル2 長距離衝撃波グローブ。安定した戦いぶりを見せる河合をいったいどう崩すのか!?」