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綾木  作者: 心鶏
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第三話  ガン光

 頑 願子の初勝利は翌日に話題になったが、その次の日には聞かなくなった。

 おそらく、10連敗していた方が話題にはなっただろう。

 さて、その勝利から三日後である。

「今度はレベル2だね。この前みたいに調子よく頑張ってね、ネコちゃん」

「前回のは、ほとんど荵ちゃんの手柄です。私は言う通りに動いたにすぎません」

「あの子の言う通り動けるのがすごいんだよ。……私も昔は戦士を目指してたんだけど、どうやってもこのお腹が引っ込まなくて諦めちゃった。仮想空間だとしても体が思い通りに動かないのは知ってるよ」

 まん丸として小柄で可愛らしい見た目の園田に褒められる頑だが、賞賛されるのは慣れているが褒められ慣れていないので、話をそらした。

「でも、荵ちゃんは一体何者なんですか?細かい予測も全部当たっていたし、相手の行動を制限するような、あんな戦い方は軍人の頃から見たことないです」

「元戦士っていうのは知ってる?」

「一応。ちゃんと聞いたことはないです」

「そっか、まあ、私もネットで調べただけで本当は知らないんだけど。まだ、綾木所長や紫道副所長っていう英雄って呼ばれる人たちが挑戦者とか老いとかと戦っていた頃、この戦闘所には天才がいたの。戦士としては最年少でなおかつ、321連勝という世界記録。多分今もやってればその記録は伸びてたでしょうね、無敗なんだから。それが荵ちゃん」

「321連勝!?私の勝率だとその数、勝つだけで30年はかかる……」

「ピーナッツ初期の英雄たちが次々と引退し始めて、この業界も熱が冷めたように思われていた時代に現れた天才少女、当時12歳だったかな。そんな女の子が挑戦者を圧倒して、しかも、ほら、荵ちゃんって西洋っぽい顔立ちで可愛いから、人気がすごかったみたい」

「まあ、可愛い女の子が強けりゃ人気はでるでしょうね」

「ただ、16歳の時、突然、所長や副所長と一緒に辞めてしまった。理由はよくわからなかった。だから本人に聞いてもみたけど、教えてくれなかった」

「なんかあったんですかね」

 怪我を負っても現実に戻れば治り、また仮想空間で怪我を負って。そういう痛みの連鎖が嫌になっちゃうんだと思います。

 荵ちゃんはそういう風に言っていた。

「どうだろうね、あの子のことだから、案外飽きちゃったとかそういうのかもね」

 私はなんとなく、そんな軽い理由ではないような気がした。



「ネコさん、勝ってよかったね」

「はい、そうですね〜」

 昼過ぎ、桐原と同い年の戦士、今日の夜に戦闘を控えた吉野よしの 優樹ゆうきとマスター藤高は休憩中。

「何かやったの?家で見てたけど、後半、急に強くなった」

「ネコさんがわあしの指示についてき始めただけです」

 吉野は藤高の三つ上で、22歳。男とは思えないほど細身だが、軽い身のこなしは忍者のごとくだ。しかし、応用力に欠ける。

「なるほど。……前から気になってたんだけど。荵ちゃんって戦術指南上手いのに、なんでたまにしか指南してくれないの?正直、あれさえあればこの戦闘所、もっと勝率高いんじゃない?」

 現在の綾木戦闘所の勝率は21.47%。

 全国の戦闘所で見れば下の中といった成績。

 3年前の73.17%とは程遠い。

 戦闘所の勝率はその戦闘所に所属している戦士の勝率を戦士の数で割ったもの、過去の英雄たちが抜け、戦士の入れ替えが行われたのを機に綾木戦闘所は勝率を50%以上も落としてしまったのだ。

「それは……。勝率だけが全てじゃないからです。人気や道徳的な行動がピーナッツの戦士には要求されます。私の指南はそういうものに配慮していません」

「そっか。まあ、確かに勝率こそ高くないけど桐原さんも結構人気だもんね」

 藤高はにっこり笑った。

「それは当たり前ですよ〜。どんな絶望的な状況でも絶対に諦めないんですから。見ていて応援したくなりますよね〜。そのへんを優樹さんにも見習って欲しいです」

「わかっちゃいるんだけどねぇ」

 そういう精神的面でも勝敗は左右されるようで、吉野 優樹より桐原 理生の方が勝率が高い。

「話、戻すけど、今度のネコさんの相手ってレベル2だよね」

「はい。ネコさんはレベルが低いほど惜しいところまでいくので今度は油断さえしなければ大丈夫だと思います」

「そうだと、いいけど」

「大丈夫ですよ〜。戦闘の基礎はどこかの優樹さんよりしっかりしているし、相手が相手ですから」

「荵ちゃん、どこかの優樹さんって、かなり特定されちゃってるんだけど」



「さあ!今夜もやってまいりました!闘志と闘志のぶつかり合い!プライドを懸けた異種格闘技!ピーナッツ!!」

 頑 願子、連敗を脱してから初の戦闘だ。

「実況は私、清水 武雄、解説は紫道しどう まことさんでお送りいたします。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「さて、本日は、紫道さんが所属していた綾木戦闘所所属、頑 願子!前回の戦闘では序盤に苦戦しながらも、後半の猛攻で見事に初勝利をおさめています。対するはレベル2!超閃光弾!32歳男性 自営業の方の挑戦です。サングラス越しでさえ盲目にする強力な閃光と軽微な爆発を巻き起こす銃弾だそうです。なお、今戦闘は武器の挑戦なので挑戦者のデータを元に作成した人型戦闘プログラムが戦います。この戦い、いかがでしょう?紫道さん」

「盲目の後、どう戦うか。でしょうね」

「軽微な爆発、というのはレベルが上がってしまうので「軽微」なのでしょうか?」

「まあ、そうでしょうね。レベル3からは戦士も特殊武器が使えてしまいますから」

「そのあたりを、考えて挑戦してきているということは、なかなか手ごわいんじゃないでしょうか?」

「何か作戦があるのだとすれば、相当厄介でしょうね」



 観戦するのは園田そのだ そよ桐原きりはら 理生りお

「もうなめられてはないな、ネコさん」

「うん、頑張れー」



 さて、始めるか。

「支給武器召喚しました。30秒後に戦闘を開始します〜。今回はレベル2です。わあしは口出しできないのでマイクを切ります」

「了解」

 私は工具箱を開け、拳銃に弾を込めた。

 7発か……。ベルギーのナガンみたいだな。

 短剣と拳銃を構え、敵を待つ。

 現れたのは背の高い男。中年というほど歳はいってないが、お兄さんという歳でもなさそうだ。

 お互いに銃を構え、ためらいなく引き金を引いた。

 パアァァン!!

 プワァァン!!

 軽い銃声と共に敵の撃った銃弾は爆発し、眩い光を放った。

 頑はとっさに背を向け、目をつむり、肘裏に顔を埋めた。

 ッく、太陽が覗き込んでるような光だ。影が作れない……。

 光がおさまるころ、私はそいつに銃を構えたが。

「!! チッ……」

 残光が視界の半分以上を黒く染めている。

「まずいな……」

 目をこすっていると、

 プワァァン!!

 二発目か。

 完全に対処の遅れた頑は光を真っ向から受けた。そして銃弾の爆発によりナイフを落とし、左手に軽い火傷を負った。

「クソッ。目は潰れたな」

 しかし、頑は爆発の程度を知り、相手には致命傷を与える攻撃力がないことに気づいた。

 そうとわかれば話は早い、位置は覚えている。

 頑は敵に向かって走り出した。



「頑!相手に向かって走り出した!近接戦に持ち込むつもりだ!!」

「それしかできませんからね。相手からしたら思う壺でしょう」



 甘めのコーヒーを飲みながら観戦する二人。

「打開するにはこれしかないのかな」

「危ない気もするけど」



 パアァァン!!パアァァン!!パアァァン!!

 銃を撃てば威嚇になるはず。逃げるか?もしくは撃ってくるか?

 後者なら撃ち合い、向こうの弾はいくら当たっても軽傷だ、目が見えなくとも近距離で銃声のする方を撃てば当たるはず。

私のとは違う足音。走っている。逃げたな。

「そういうことなら追うだけだ」

 パアァァン!!パアァァン!!

 左に逃げていく、大きな弧を描いて振り切ろうと左に曲がっている。それを乱射し何も見えないながらも追い回す。

「そう簡単に逃げられるとッ」

 足音が止まった。リロードの時間稼ぎだったのか。

 ただ、いくら撃ってこようと、大したダメージじゃない。

 私は構わず、最後に足音の聞こえた方に走った。

 パアァァン!!

 銃にも動じない。なぜだ。

 私がその足音の場所へ着くと。

 ズアスゥ!

「ウウッ……!!」

 体当たりされたのと同時に腹に冷たい何かが入り込んできた。



「頑!!ナイフを取られたことに気づいてなかった!!挑戦者はもう一度しっかりと刺すッ!!」

 ズアスゥ!

「攻撃力の低い武器であると油断させ、相手の武器を使った奇襲、大胆な作戦ですね」



 クッキーを食べる、園田と桐原。

「こりゃ痛いなぁ。近接には持ち込んだけど……」

「速攻銃で一発。それで終わりよー!ネコちゃん!」

「ダメですよ、ソヨさん。弾切れです」

「えっ、もう7発も撃ってた!?」

「中盤、乱射してたじゃないですか」



 ズアスゥ!

 こいつ……。殺す気だ。

 うう、腹が痛え、立ってんのがやっとだ。腹から体温が逃げていくのがわかる、口いっぱいに血の味が広がる。ここままじゃブザーが鳴る。

 低い姿勢で突き上げてくる相手の上半身、首か頭を狙って、頑は最後の力を振り絞り、拳銃の持ち手を振り下ろした。

「な……めんな……」

 ゴスン!

 ブザーが鳴った。

 同時に頑と挑戦者は倒れた。



「両者倒れた!判定に移ります。紫道さん、これはどちらでしょうか」

「致命傷なのは間違いなく頑でしょう、ただ、最後の殴りは結構いい位置に入っていたんでもしかするかもしれません」

「なるほど、判定は只今の戦闘データを元に、意識を長く保てていた方の勝ちとなります。この判定方法も定着してきましたよね」

「そうですね。昔は最後に攻撃を当てた方が勝ちでしたもんね」

「ただいま判定の結果が出ました。勝者は……頑 願子!!いやぁ、押しつ押されつのギリギリの戦いでしたね」

「痛みに耐え、よくやったと思います」

「2連勝を果たした頑、危うさは残るものの、汚名返上!さて明日の対戦は定戦闘所所属 現在無敗の新人 河合かわい 優也ゆうや、対するレベル1 アクロバットプロレスで名を馳せた高畑たかはた しょう、新人戦士対プロレス界のトップスター勝つのはどっちだ!!」

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