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綾木  作者: 心鶏
21/21

最終話  333決戦

「本当にごめん」

「ふふっ。謝ることじゃないです」

「止めても、行くんだよね」

「はい」

「だから勝たなきゃいけなかったのに……」

「これがわあしの最後の戦いです。応援宜しくです」

「うん」

 桐原は階段をおりて、戦闘所の面々と合流した。



 真っ白な世界。

 私の故郷。

 ここに来れば、あの頃の私がいる。

 自信に満ち、何も怖くない。

 私は天井から出現し、空中でグローブ・ブーツを身につけ、銃に弾を装填し、腰に携え、1メートルほどの鉄パイプを二本両手に持ち着地した。

「お前が最後か」

「そう」



「藤高さん……」

「結局、私たちは荵ちゃんに頼るしかないんですね」

「もっと強くなればいい話だよ、理生ちゃん」

「そうですね……」

 桐原は落ち込んでいた。

 藤高を戦いから救えなかったと。



 エモナは藤高へ歩き出した。ゆっくりと、まるで勝利を確信しているかのように。

 これに対面した者はあまりの恐怖、プレッシャーに立ち尽くすか、後ずさる、しかし、藤高はそんなエモナを前に立ち向かっていった。

 エモナの冷たく青い瞳がそんな藤高を捉える。

 深いフードの中から相手を見透かす藤高の瞳がエモナを捉える。

「立ち向かってきたのはお前が初めてだ」

「私はあなたが怖くない」

 お互いに間合いに入る。

 身長体格の差はほとんどなく、戦士同士の戦いなら混戦は必須だ。

 ーーーーーカィンッ!!!!

 水平に振ったエモナの剣は藤高の喉に到達する前に、下からの鉄パイプの突きによって折られた。


「これはとてつもない緊張感だ!」

「千羽がエモナのプレッシャーをはねのけていますね。こんな戦士はいませんでしたね」



「荵ちゃんってあんなにカッコ良かったっけ?」

「いつもはもっとのほほんとしてるのに」

「いえ、戦士時代の藤高さんはあんな感じでした」

「マジですか、所長」

「マジです。もっと冷徹だったくらいです」



ーーーーーカィンッ!!!ーーーーーキィンッ!!!ーーーーーツキィンッ!!!

 エモナの凄まじい猛攻。こんなことをされて立っていた者はいない。

 しかし、藤高はこともあろうか、その猛攻の剣をことごとく砕いている。

 その度にエモナは剣を召喚し続ける。

「どうした、剣を砕くだけでは私には勝てないぞ」

「あなたも、剣を砕かれていては私には勝てない」

 ーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!

 剣が藤高のフードの付け根を裂く。

 エモナは笑う。

 その顔を鉄パイプがかすめる。

 エモナはバックステップで距離を取る。

「激しい攻防が続く!千羽!あのエモナ相手に実力は五分か!!」

「いや、エモナの方が少々押し気味ですね。千羽は対応しきっていますが、少しずつ下がっています。ただ、エモナの攻撃を正面から受け続けるということは何か策があるのかもしれません」



「動き、キレすぎ」

「エモナの攻撃と同じスピードで、剣を折ってる」

「私たちにできる技じゃありませんね」

 綾木戦闘所の戦士たちは藤高の強さにただみとれていた。



 エモナは一点、藤高を見つめる。

「お前は強いな。私が戦ってきたどの戦士よりもだ」

 そう言うと、エモナが長く赤い髪を自分の剣で切り落とした。

「これで、すっきりした。いままで、この髪をうっとしいなんて思ったことはなかったが、今回は違う。お前は本気で倒さねば」

 藤高は無言で、少し裂けたフードの付け根を掴み、フードを引きちぎった。

「お互い、少し戦いやすくなったわけだ。再開しようか」



 フードが破られ、その顔があらわになった瞬間、世界中がどよめいた。

「千羽 由美、フードを自らちぎった。動きにくかったか!?……あの顔は……」

「……藤高 荵……」

「なんと!千羽由美の正体は、あの藤高荵だった!!これはとてつもない戦いになった!!本当にピーナッツ最強を決める戦いかもしれない!!」

「……無敗同士の戦いか」



「無敗? !!」

 園田が唐突に何かに気づいた。

「どうかしました?」

「332!」

「エモナの連勝記録ですよね」

「違う!荵ちゃんの連勝記録が321」

「はい」

「千羽由美の11連勝、合わせて……」

「332……」

「同じ連勝記録。333連勝を決める戦い」

 同じ記録を持つ二人。

 しかし、綾木戦闘所の全員が藤高荵が負ける想像がつかなかった。



ーーーーーーーーキェンッ!!!!ーーーーーーーースカィンッ!!!!ーーーーーーーーキャンッ!!!!ーーーーーーーークァィンッ!!!!

 猛スピードの攻撃、お互いにさっきよりも速くなっていた。

 エモナは藤高のあらゆる部位を狙う。

 どこか一箇所でも攻撃が通れば、この均衡は崩れ、大勢は決する。

 ただ、藤高はエモナの剣を砕きながら、隙を見れば攻撃さえしている。

 その攻撃をかわし、カウンターを決めようとするエモナだが、

 ーーーーーーーーーーーーキェィンッ!!!!!

 折られる。

 剣を召喚し握り、藤高めがけ振るう、そして、

 ーーーーーーーーーーーーツカィンッ!!!!!

 1秒もしない間に、何度もこれが繰り返される。



「増していくスピード!!これほどの打ち合いは見たことがない!!」

「技術では藤高の方が上ですね。ただ、藤高は剣を折らなければ、どの攻撃を受けても致命傷ですから、武器の差で劣勢に立たされてますね」

「二人が同じ武器であれば?」

「互角か、下手をすれば藤高が圧倒するんじゃないですかね」

「なるほど、しかし、エモナの恐ろしいのはここから、恐怖心を操ってくるところですよね」

「そうですね、ただ、まだ余裕があるようにも見えます。お互い踏み込まれた時、すぐに動けるように一つも蹴りを入れてません。エモナの恐怖が、果たして余裕のある打ち合いで、藤高を呑み込めるのでしょうかね」



「息がつまる……」

「見てるこっちが神経使いますね」



ーーーツカンッ!!!!ーーーーーーーーキゥィンッ!!!!ーーーークァィンッ!!!!ーーーーーートカィンッ!!!!ーーーーーキィンッ!!!!ーーツキィンッ!!!!

 エモナは不気味な笑みを浮かべるが、藤高の表情は微動だにしない。

 エモナの攻撃はとても、普通の戦士が受けられるような攻撃ではなかった。

「そんな無意味な笑みで、動揺するほど私は浅くない」

 全身、意識の薄い部位を確実に狙ってくる。

「無意味?自然な笑みさ。お前に剣を折られるほど楽しく感じる」

 なおかつ、猛スピードで切りつけてきたと思えば、あえて遅らせてタイミングをずらしたり、剣を振らずに次の攻撃の予備動作に入ったり。

「そう。劣勢な状況が楽しいなんて、イカれてるのね」

 間違えて、ガードなんてしてしまえば一発アウト、しかし、藤高は完璧に最小限の動きで対応しきっている。

 それどころか、藤高はエモナの剣を回避せず必ず折っている。

 藤高は相手を見切っていた。回避してから、振り切った剣が次に攻撃してくるまでの時間より、折ってから、召喚して次に攻撃してくるまでの時間の方が長い。

 折り続けた方が安全だと気づいていた。

「劣勢なくらいが心地いいのさ」

「そう。ならそろそろ、あなたを暴いてしまおうかな」

 また藤高の鉄パイプがエモナをかすめ、二人は距離を取る。

「あなたの弱点はただ一つ。レベル4だということ。強力な二つの能力、あらゆるモノを切り裂く剣を召喚する能力、恐怖を操る能力。とても相性のいい能力、けど、剣術、身体能力、反射神経、そのどれも度を越えていない。越えられない、レベル5になってしまうから。達人程度の剣術は私の経験とセンスで対応できる。身体能力は同等、反射神経は私の方が上。もうその剣は恐怖の要因にはならない。それに私はもう、あなたを倒せる。あなたの全てが怖くない。だからあなたは苦戦する」

「そうか、なら倒してみろ」

 エモナは再び藤高に猛攻を仕掛ける。

 しかし、藤高は容赦なかった。

 鉄パイプを捨て、エモナの攻撃をするりとかわし、懐に入る。

 ッダァァンッ!!

 真下からスネで、エモナの胸、脇を飛ぶように蹴り上げる。

 ズダァァァァンン!!!

 浮かされたエモナは勢いで後ろへ倒れ、藤高はその上胸部をスネで踏みつけ、マウントを取る。

 エモナは負けじと剣を振りかざすが、藤高はエモナの振りかざした両肘を右腕で叩くように床に押さえつける。

「力は私の方が強い」

 その瞬間に藤高は腰の銃を左手で抜き、エモナの顎に銃口を突きつける。

「肌に密着させれば、いくらなんでも剣は召喚できない、つまり弾道が逸らされる心配がない」

 エモナは呆れたように笑った。

「お前は終始余裕が見えた。最初からこうすることもできたんじゃないか?」

「剣を折るのはパフォーマンス。このままパワーグローブで顔を潰すのが最効率だけど、あなたは美人だから、銃で撃って苦情回避」

「フッ。完敗か」

「言い残すことは?」

「お前に会えてよかった」

「そう」

 パアァァン!!

 乾いた銃声だった。

 ブザーが鳴った。



「藤高ァ!!!なんという圧倒!!!!あのエモナを前に変わらぬ強さァ!!!」

「エモナを倒したのはいいですが、今度は藤高を倒す挑戦者を待つはめになりそうですね」

「そうですね。伝説となった挑戦者エモナだったが、333連勝を前に、藤高荵に敗れる!」



 後日、ルール改正により100連勝した挑戦者は殿堂入り扱いとなり、それ以上の戦闘が禁止された、よってエモナの332連勝は誰にも破ることのできない記録となった。

 一方、藤高は千羽 由美名義で戦士登録していたので、公式的には藤高 荵の記録にはならず、333連勝は幻の記録として扱われた。



 荵ちゃんはマスターに戻り、園田さんは別の戦闘所のマスターとして配属され、所長が年齢的な理由で引退したが、マスターアシスタントとして帰ってきた。

 所長は優樹くんが引き継いで、私と理生ちゃんはバリバリの戦士としてその後も、伝説を残したりはしなかったがそこそこ活躍し、綾木戦闘所の歴史の一ページを紡げたと思う。



綾木   完

最後までお読みいただきありがとうございました。


戦い抜きましたね。

ストーリーとかは完全に適当でしたが強敵はいっぱい出せたと思います。

書いてて、敵を倒す時の気持ち良さはすごかったです。


良ければレビュー、感想、評価していただけるとありがたいです。

またその目に、私の活字が映るよう、精進、お祈りしてまいります。。。

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