第二十話 ー恐れー
正しい表記は
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第二十話 ー恐れー
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です。
「ようやく、全員揃いましたね」
戦闘所、私たちは今晩の戦闘のため全員集合したのだ。
復帰戦をこなし二週間、産後二度目の戦闘。
「そうですね。待ってましたよ」
満島所長はホッとしたように笑う。2年前よりちょっと老けている。
「また、みんなと一緒に戦えるなんて夢みたいです」
優樹くんはワクワクしているようだ。なんとなくいろんなことを経験して、たくましくなったように見える。
「それも、相手が相手ですしね」
理生ちゃんはすっかり恐怖を克服し、というか、なんとなく、自信の感じがララっぽくすら感じる。
「全力でサポートしますから、頑張ってきて!!」
この数年で30キロ痩せて、フルモデルチェンジを果たした園田さん。
「サポートするのはわあしですよ〜」
成人して、少し大人っぽくなったけど、いつもの調子の荵ちゃん。
みんな2年も経てば変わる。
ただ一つ変わらないのは、みんな、あのダサいジャージを着ると、少し落ち着くということだ。
「打倒!!エモナ!!!気合い入れていきましょう!!」
所長の掛け声とみんなの気合いのはいった返事。
綾木戦闘所、最大の戦いが始まる。
「さあ!今夜もやってまいりました!ひたすら戦いに身を投じる者たちの美しき闘志!掴むのは勝利のみ!!激闘!死闘!のピーナッツ!!」
この戦いの視聴率は、後にも先にも越すことのできないモノとなった。
「実況は私、清水 武雄、解説は古長 進一さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さあ、本日の戦闘、挑戦者は、現在332連勝中、ピーナッツにおいて、戦士、挑戦者どちらにもこれほどの連勝記録を持つ者はいない!規格外の化け物、あらゆる者を圧倒する戦慄の一太刀!!能力者エモナ!!この異常な強さを誇る挑戦者に、惨敗していく戦士たち!しかし!今日の綾木戦闘所は一味もふた味も違う。復帰後に大幅に勝率を上げ、この一年綾木戦闘所の筆頭を担っていた吉野 優樹!!帰って来た勇姿、誰もが忘れることのないロロを倒したあの一撃!桐原 理生!!そして、もう一人、エモナを倒すことは不可能と言われているが、この人ならあるいは!2年前、ピーナッツ史上最強とされたララとロロとの戦闘を制したのは紛れもなくこの人!!頑 願子!!!このカードいかがでしょう古長さん」
「そうですね。エモナにはまず正面突破は通用しないので、どれだけ作戦を練れているかだと思います」
戦闘所の二階で、一人、応援するのは園田。
「よっしゃー。応援しまくるぞー」
戦士たちが仮想空間に召喚される。
各々、パワーグローブ・ブーツを装備、ナイフを腰に携え、銃に弾をこめ、構える。
「準備はいいですか〜」
どこまでものほほんとした荵ちゃんの声。
「大丈夫です。おねがいします、藤高さん」
所長が代表して返事をする。
「わかりました〜。それでは戦闘を開始します」
四人の中心に召喚される。
赤い髪、青い瞳、ピーナッツ史上最強の挑戦者。
パアアアアァァァァァァァァンン!!!
全員、有無を言わさずエモナめがけ発砲。
ーーーーーーーーーーッ!!!!!
エモナは剣を一振りし、空間を切り裂き、銃弾の弾道をそらした。
パアアアアァァァァァァァァンン!!!
構わず打ち続ける四人。
今度はとてつもないスピードのステップで銃弾をかわす。
一歩だけ踏み出した満島。エモナはその一歩を見逃さず、飛ぶように間合いを詰め。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!
満島を切り裂くエモナ。
しかし、満島はとっさに後ろに倒れ、傷を左手を切り落とされるだけの最小限にとどめた。
「これはとてつもない展開だ。早々にお互い容赦のない攻撃が繰り出される!!」
「しかし、エモナの反射神経には目を見張るものがありますね」
「この女剣士は果たして本当にレベル4なのか!?」
パアアアアァァァァァァァァンン!!!
頑、桐原、吉野の三人は背中を合わせ、死角のない三段構えをとった。
パアアアアァァァァァァァァンン!!!
エモナは三人の周りを円形に走って銃を避け続ける。
円形つまり、一周した先に満島がいる。
「藤高さん、例のショットガンを」
満島の手元にショットガンが召喚される。弾は装填済み、トリガーを引くだけ。
エモナが満島に迫る。
満島はショットガンを右手に構え、エモナをひきつけ、
ッダアアアアアアァァァァァァンン!!!!!アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!!!!!!!!
ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
エモナは空間を裂き、銃弾を回避し、腕のない満島にとどめを刺した。
しかし、発射音ともう一つとてつもなく大きな音が鳴っていた。
満島が放ったのは音響弾だった。
至近距離でその音を聞けば、鼓膜は間違いなく破れる。
「ここで満島!!退場!!一人減った綾木戦闘所!少々エモナ優勢か!?」
「今のは音響弾ですかね。あれだけの至近距離で聞けば、耳がおかしくなります。まだ、五分の戦い、それか綾木戦闘所の方が優勢かもしれません」
「よーし、ここまで計画通りだ」
園田は、作戦を立てた紙を見返している。
「戻りました」
「お疲れ様です、所長。ナイスガッツでした」
満島が退場し、作戦は第二段階へ。
「荵ちゃん、私を爆発小型シールドに変身」
「わかりました〜」
頑がコートをまとった男に変身する。その手には自らが苦しめられた盾が握られている。
頑はエモナに挑む。
その間に桐原、吉野はエモナの背後に回る。つまり、頑は時間を稼がなければならない。
ーーーーーーーーーーーーッ!!!
紙一重でエモナの斬撃を避ける頑。
やばいな。この剣、ガードを貫く反則級の攻撃力。
しかし、それなら、ロロ戦で経験済みだ。それなのにここまでプレッシャーがあるものだとは。
私は河合さんが言っていたことを理解した。心臓を握られているような、すでに、瀕死に追い込まれているような感覚になる。
ーーーーーッ!!!ーーーーーッ!!!ーーーーーッ!!!ーーーーーッ!!!ーーーーーッ!!!
エモナは頑めがけ、踏み込みの深い、いちいち間合いを詰めるような斬撃をあらゆる方向から浴びせる。
とんでもないな、そんな軽々振り回すのに当たったらアウトって、化け物すぎだ。
しかし、頑もエモナの腕を払ったりしながら、攻撃をいなしている。
「頑!!、エモナ相手に接近戦を粘る!!その間に吉野と桐原が背後に回る!」
「さすがですね、頑は。戦闘技術は本当に高いですね。こんな戦法をエモナにできるのは綾木戦闘所くらいでしょう」
「確かに、頑張ってくれてますね頑さん」
「ですねー。頑張れーネコちゃーん」
ーーーーーーーーーーーーッ!!!
「ッあぶねえ……」
エモナの斬撃が、頑の首元をかすめる。
しかし、頑にはエモナの背後に、次の作戦を実行に移すための準備が整っている二人が見えた。
吉野は弓を構えていた。
銃は銃声で気付かれる、しかし、鼓膜の破れている今のエモナなら、弓矢を引くわずかな音は気付かれない。
そして、それと同時に頑の、捨て身の猛攻が始まる。
エモナが水平に頑の胸を切ろうと、左手に握る剣を振る。
ーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
頑はそれをのけぞって避け、起き上がるとともに、エモナに右ストレートを放つ。
ーーーーーーーーーッ!!!
エモナは右手の剣で盾ごと頑の腕を盾に切り裂く。
ブグワアアアァァァン!!
ーーーーーーーーーーッ!!!!
盾の爆発も瞬時に切り裂き、攻撃を避けるエモナ。
しかし、今の一瞬でエモナは両手の剣を振り切った。完全な隙。
頑は左拳の盾で追撃、吉野は矢を引き絞る。
ギギッ
エモナは微笑んだ。
なぜ笑っている……?
お前は次の瞬間に負けるんだぞ。エモナ。
なぜ?
虫唾が走る。
これが恐怖を操る能力か。マズい、呑まれる。
シヒュッ
吉野が矢を放ったのと同時に頑は攻撃をやめ、後ろにのけぞった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
頑の顔すれすれをエモナの剣が空を切った。
エモナは頑の方は見向きもせず、吉野に剣を投げつけていた。
その剣と吉野の矢とすれ違う瞬間、空間を裂く剣は矢の矛先を明後日の方向にそらし、そのまま吉野の喉を貫通した。
「ゴッ……」
倒れる吉野。
「凄まじい!!吉野!ここで敢え無く退場!」
「狙いは良かったんですが……」
「かぁーーッ。まずいなーこれは」
「最後の砦ですね」
戻ってきた吉野。
「まさか気付かれていたとは……」
「やるな、避けたか……」
エモナが頑に向き直る。
「お前こそ、音が聞こえていたのか」
「私の剣はあらゆるものを切り裂く、無論、音も例外じゃない。音響弾など無意味だ」
「化け物め……」
さて、どうする?
いや、考える暇はない。
唯一、勝算があるとすれば、左手と盾の爆発で、両腕の剣を振らせて、その隙に蹴りだ。
頑は踏み込んでエモナに殴りかかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!
ーーーーーーーーーーーーッ!!!!
しかし、エモナは頑の盾には触れないように、頑の左腕を切り落とし、さらに、頑の胸に容赦のない斬撃を切り込んだ。
「ガァ……」
頑は倒れた。
残ったのは桐原だけであった。
「頑!!ここで破れる!残るは桐原。これはピンチだ!!」
「ここまできてしまうと、そうですね」
「ヤヴァーイ。リオちゃーん!」
「きっとやってくれますよ。最後の手段がありますから」
「桐原さーん」
頑が帰還。
「まるで、遊ばれてたみたいだ」
最後の手段。
頑の盾の中には液体が入っていた、爆発と同時に飛び散り、エモナの周りを囲んでいた。
瞬間接着剤である。
エモナはそれに気づき、その場から動かず、桐原に剣を投げつけていた。
桐原は走ってかわしながら、
「荵ちゃん、炎爆弾を」
「は〜い」
桐原は召喚された、炎爆弾をエモナの周りに置いていった。
ーーーーーーーーーッ!!!
剣が桐原の頬をかすめる。
「!!」
「桐原!!エモナの剣をキャッチしたアアァ!!!!」
「刃の部分じゃなく柄ならつかめるんですね」
ーーーーーーーーッ!!!
桐原は投げ返す。
ーーーーーーカィンッ!!!!!
しかし、その剣はエモナの再び召喚された剣によって刃の横、鎬を叩き切られる。
その隙に桐原は炎爆弾を置き終えた。
「これで終わり。あなたはその場所から動けば、接着剤に捕まる。この爆弾は炎を放つ、囲まれて同時に爆破されたら、いくらあなたでも、回避はできないはず」
「その通りだな」
桐原は召喚されたスイッチを押した。
ブグゴワアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァンンンン!!!!!!!!
エモナは炎に包まれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!
「一箇所から出られれば問題ない」
炎を切り裂きエモナが飛び出してきた。
「!! なぜ。動けないはず」
爆炎の引き始めた地面を見れば、接着剤がまかれていたであろう場所に、粉々になったエモナの剣が無数に転がっていた。
「剣の鎬を踏んで脱出した!?」
エモナはゆっくりと、桐原に近づく。
「さあ。万策尽きたようだな」
剣を振り上げるエモナ。
「負けるわけにはいかないんだよ!」
桐原の最後のパンチは、たやすくかわされ、
ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
一太刀……。
「桐原!!惜しくも敗北!!やはり、エモナを倒せるものはいないのか!?」
「なかなか、いいところまでいったんですけどね」
「? 戦闘が終わらない!?これは実現してしまうのか!?ピーナッツファン一同が願ってやまなかった、夢の対決が!!謎めくフード!!現在最強の戦士ともささやかれている、幻の新人。千羽 由美の登場か!?!?!?」