第十八話 充実&爆ぜ
「やっと帰って来てくれましたね。頑さん」
「所長。なんだか懐かしいですね」
吉野の復帰から半年以上経ち、頑は産休が終わり、ようやく綾木戦闘所に戻ってきていた。
「まあ、2年ですからね」
「園田さんが上にいますよ」
「わかりました。……所長、またよろしくお願いします」
所長はホッとしたように微笑んだ。
私は懐かしい階段をのぼり、三階へ。
「頑 願子。ただいま戻りました」
「おお!!!ネコちゃん!久しぶり!!」
「園さん!……なんか痩せました?」
「おうよ。綾木戦闘所の危機を戦士になって助けてやろうと思ってね。2年で−30キロだぜ」
「戦士に?」
「うん、でも、試験は全項目水準未満だったからダメだったんだけどねー」
「じゃあ。またマスアシですか?」
「いや。マスターだよ」
「えっ。荵ちゃんは?」
「戦士だよ。一時的に条件付きだけど」
「そうなんですか?」
「うん。千羽 由美って知らない?」
「ここの新人ですよね」
「あれ、荵ちゃんだよ。本人が顔と名前は出したくないって」
「!! マジですか。あ、でも言われてみれば確かに、新人の動きじゃないし、納得はいきますね」
「でも、ネコちゃんも、優樹くんも戻ってきたし。マスターに戻るんじゃないかなー」
「もったいないというかなんというか」
「さあ!みなさん!今夜もやってまいりました!無限の挑戦者と無限の闘志!その二つが混じり合う!世紀最大の異種格闘技!ピーナッツ!!」
母となった頑の復帰戦である。
「実況は私、清水 武雄、解説は紫道 真さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さて、皆さんは覚えているでしょうか?2年前の乱入から始まった、ピーナッツ史上最高難易度とされるレベルβ1の戦闘を制したこの人を!?綾木戦闘所所属!倍返しの黒猫!頑 願子!!!そして、対するは現在12連勝中!レベル3!爆発小型シールド!大東大学 ピーナッツ研究サークルの挑戦です」
12連勝し、レベル3としては今、最も注目されている挑戦者だった。
「面白いカードになりましたね、紫道さん」
「そうですね。頑が戦っていたのは短期間でしたが、十分印象深い、実力のある戦士ですから。その頑に、いま勢いのある爆発小型シールドをぶつけるというのは、なかなか激しい戦いになるんじゃないでしょうか」
「なるほど、激闘必至の復帰戦を制すか!?はたまた、13連勝となり快進撃を続けるのか!?」
血と火薬の匂いに包まれた日々を思い出すと、夢物語だったかのような感覚に陥る。
それほどに、私はいま平和な毎日を送っている。
愛する旦那、愛おしい娘。幸せだ。だが、何かが物足りない。
何が足りないのかは明白だ。
この世界の白さ、ダサいジャージ、私を瀕死に追い込む強敵。
その全てがここにある。
「おかえり、ネコちゃん」
懐かしきパワーグローブ・ブーツを装備した。
「準備できました。いつでもいいですよ」
「それじゃあ、戦闘を開始しまーす」
前方に現れたのはガタイのいい男。
トレンチコートを着ている。その下からお鍋のふたくらいの盾を二つ取り出し、両手に構えた。
盾か、肉弾戦にするつもりだな。のってやろう。
「戦士よ。俺は見ての通り遠距離武器を持っていない。それゆえ近接戦闘を希望する」
!! なんだこいつ、自我があるのか?
頑は知らなかったが、ここ最近公式的に、自我形成が認められた。
理由は戦術的な読み合いでは、ほとんどの場合人間である戦士側が有利であることと、ララとロロ解体後、原因不明であるが、連勝が続くと挑戦者に様々な自我が自然発生するようになり、対応不能な状況であったためである。
「言われなくてもそのつもりだ」
「感謝しよう」
男は盾で頑を殴りにかかる。
しかし、軍人として染みついている戦闘技術、この世界での激戦、頑は考えずともパワーグローブ・ブーツを起動しクロスカウンターを決めていた。
ッバッスイイイイィィンン!!!
男はビクともせず、もう片方の盾で頑を殴る。
ズダァァァン!!ブグワアアアァァァン!!!!
頑の腹部に当たった盾は、そこで爆発し、頑を軽く吹っ飛ばした。
「ック!!」
なるほど、近接はたしかに分が悪そうだな。
迫ってくる男の顔に、頑は左ハイキックをお見舞いしたが、それは盾でガードされ、また爆発した。
ブグワアアアァァァン!!
左足を弾かれ体制を崩す頑。
男はコートから再び盾を二つ取り出し、間髪入れずに頑を殴った。
ジダァァン!!ブグワアアアァァァン!!
盾の爆発で吹き飛ばされる頑。
「ウグッ。思ったより厄介だな」
「俺の目標は戦士を倒すことではない」
喋り出しやがった。余裕こいてるな。
「俺の目標は能力者エモナを超えることだ」
エモナか。そういえば300連勝を超えていたな。
「俺は最もレベル4に近いレベル3。勝算は十分ある」
「私の方が強い」
「この体たらくでよく言う」
戦闘技術は頑の方が上だった。しかし、武器の相性がひたすら悪かった。
「一方的な展開になった!!頑、成す術なく圧倒されている!!これは強いぞ爆発小型シールド!」
「かなり苦しい戦いですね。遠隔衝撃パワーグローブや衝撃吸収パワーブーツなら、盾と爆発を破れるほどの高威力の一撃が出せますが、パワーグローブ・パワーブーツだと、守りに秀でている分、セオリー的な攻撃手段がないですからね」
「爆発小型シールド!13連勝と成るか!?しかし、頑 願子はただでは立ち上がらない!!どんな危機でも打開してきた、倍返しの黒猫!!」
爆発がそこまでの火力がないもので助かった。
何十発と殴られたが、まだ、なんとか立てる。
「しぶといな。お前は今までの戦士と何かが違う」
「ハアハア……。殺されたことがあるかないかだ」
男は頑に再び、猛攻を仕掛けようとしていた。
しかし、頑はレベル3でも、銃、短剣が使えることを忘れていなかった。
頑は懐に隠していた拳銃を構え、引き金を引いた。
パアァァン!!
銃弾は明らかに、男の左胸に命中したが、男は構わず頑の腹を盾で殴る。
ズグォォン!!ブグワアアアァァァン!!
盾は爆発し、頑は吹っ飛ぶ。
「ゴフッ。ウウゥ……」
爆発で全身が痛え、炎人間と戦った時を思い出すな。
さすがに、そろそろキツイか。体が強張って震えてきた。
ただ、なんとなくわかった。
ヤツは武器を持っているが、それだけじゃない。あの武器なら、おそらくレベル2。
ヤツの本当の強みは、守りの堅さだ。
武器として挑戦しているが、能力者だ。
最初のクロスカウンターも微動だにしなかった。今の銃撃も銃痕さえ残ってない。とてつもなく硬い体だ。しかし、だからどうする?
パワーグローブも、銃もきかないほど硬い体、おそらくナイフでも、傷は負わない。
詰んでいる?まさか、ならレベル4のはず。何かあるはずだ。
……硬いのは皮膚だけ?
賭けてみるか。
「頑!依然守りの形勢!!すでに傷だらけだ!戦闘終了は近いか!?」
「いや、動きが安定してきています。攻撃も、爆発も、ダメージを最小限に抑える動きができてますね」
「ということは?」
「挑戦者は、見切られた可能性が高いですね」
「ここから始まるのか!?いや!瀕死から幾度となく勝利を手にしてきている頑 願子なら始まらないわけがない!大逆転劇が!!」
「お前、疲れてないか?」
まず、煽り立てる。
「何をバカな。そんなズタボロが言うか」
「威勢がないな。そんなんじゃエモナには勝てんな」
「何?」
きたか……。
「お前如きじゃ、普通のレベル3にも勝てやしねえよ!!」
「黙れエエエェェ!!!!」
男は叫びながら殴ってきた。
ニヤリと笑った頑のクロスカウンターが決まる。
今度は、頑の手には拳銃が握られ、その銃口は叫んでいた男の口の中に突っ込まれている。
「アガッ!!」
鉄壁の守り、それはレベル4以上になる。
ならこいつの弱点は皮膚以外の部位、目はまぶたで防がれる可能性があるが、口内ならそうはいくまい。
「私の方が強いと言っただろう?」
パアァァン!!
頑が引き金を引くと、男の顔が爆散した。
ブザーが鳴った。
「決まったアアァァ!!!!頑の逆転勝利!!!これが倍返しの黒猫!爆発小型シールドの連勝を止めて見せた!!」
「やはり、実力のある戦士ですね」
「華々しく復帰戦を制した頑。これからの戦闘が楽しみです。さて明日の戦闘は魚崎戦闘所所属、ベテランになりつつある神谷 謙太郎!通算500戦目の記念すべき戦闘!対するは、レベル1!叩きつける大刀!ビッグブレード!身一つで戦う500戦の戦士が勝つか、巨大な剣が勝つか!?」