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綾木  作者: 心鶏
18/21

第十八話  充実&爆ぜ

「やっと帰って来てくれましたね。頑さん」

「所長。なんだか懐かしいですね」

 吉野の復帰から半年以上経ち、頑は産休が終わり、ようやく綾木戦闘所に戻ってきていた。

「まあ、2年ですからね」

「園田さんが上にいますよ」

「わかりました。……所長、またよろしくお願いします」

 所長はホッとしたように微笑んだ。

 私は懐かしい階段をのぼり、三階へ。

「頑 願子。ただいま戻りました」

「おお!!!ネコちゃん!久しぶり!!」

「園さん!……なんか痩せました?」

「おうよ。綾木戦闘所の危機を戦士になって助けてやろうと思ってね。2年で−30キロだぜ」

「戦士に?」

「うん、でも、試験は全項目水準未満だったからダメだったんだけどねー」

「じゃあ。またマスアシですか?」

「いや。マスターだよ」

「えっ。荵ちゃんは?」

「戦士だよ。一時的に条件付きだけど」

「そうなんですか?」

「うん。千羽 由美って知らない?」

「ここの新人ですよね」

「あれ、荵ちゃんだよ。本人が顔と名前は出したくないって」

「!! マジですか。あ、でも言われてみれば確かに、新人の動きじゃないし、納得はいきますね」

「でも、ネコちゃんも、優樹くんも戻ってきたし。マスターに戻るんじゃないかなー」

「もったいないというかなんというか」



「さあ!みなさん!今夜もやってまいりました!無限の挑戦者と無限の闘志!その二つが混じり合う!世紀最大の異種格闘技!ピーナッツ!!」

 母となった頑の復帰戦である。

「実況は私、清水しみず 武雄たけお、解説は紫道しどう まことさんです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「さて、皆さんは覚えているでしょうか?2年前の乱入から始まった、ピーナッツ史上最高難易度とされるレベルβ1の戦闘を制したこの人を!?綾木戦闘所所属!倍返しの黒猫!かたくな 願子ねこ!!!そして、対するは現在12連勝中!レベル3!爆発小型シールド!大東大学 ピーナッツ研究サークルの挑戦です」

 12連勝し、レベル3としては今、最も注目されている挑戦者だった。

「面白いカードになりましたね、紫道さん」

「そうですね。頑が戦っていたのは短期間でしたが、十分印象深い、実力のある戦士ですから。その頑に、いま勢いのある爆発小型シールドをぶつけるというのは、なかなか激しい戦いになるんじゃないでしょうか」

「なるほど、激闘必至の復帰戦を制すか!?はたまた、13連勝となり快進撃を続けるのか!?」



 血と火薬の匂いに包まれた日々を思い出すと、夢物語だったかのような感覚に陥る。

 それほどに、私はいま平和な毎日を送っている。

 愛する旦那、愛おしい娘。幸せだ。だが、何かが物足りない。

 何が足りないのかは明白だ。

 この世界の白さ、ダサいジャージ、私を瀕死に追い込む強敵。

 その全てがここにある。

「おかえり、ネコちゃん」

 懐かしきパワーグローブ・ブーツを装備した。

「準備できました。いつでもいいですよ」

「それじゃあ、戦闘を開始しまーす」

 前方に現れたのはガタイのいい男。

 トレンチコートを着ている。その下からお鍋のふたくらいの盾を二つ取り出し、両手に構えた。

 盾か、肉弾戦にするつもりだな。のってやろう。

「戦士よ。俺は見ての通り遠距離武器を持っていない。それゆえ近接戦闘を希望する」

 !! なんだこいつ、自我があるのか?

 頑は知らなかったが、ここ最近公式的に、自我形成が認められた。

 理由は戦術的な読み合いでは、ほとんどの場合人間である戦士側が有利であることと、ララとロロ解体後、原因不明であるが、連勝が続くと挑戦者に様々な自我が自然発生するようになり、対応不能な状況であったためである。

「言われなくてもそのつもりだ」

「感謝しよう」

 男は盾で頑を殴りにかかる。

 しかし、軍人として染みついている戦闘技術、この世界での激戦、頑は考えずともパワーグローブ・ブーツを起動しクロスカウンターを決めていた。

 ッバッスイイイイィィンン!!!

 男はビクともせず、もう片方の盾で頑を殴る。

 ズダァァァン!!ブグワアアアァァァン!!!!

 頑の腹部に当たった盾は、そこで爆発し、頑を軽く吹っ飛ばした。

「ック!!」

 なるほど、近接はたしかに分が悪そうだな。

 迫ってくる男の顔に、頑は左ハイキックをお見舞いしたが、それは盾でガードされ、また爆発した。

 ブグワアアアァァァン!!

 左足を弾かれ体制を崩す頑。

 男はコートから再び盾を二つ取り出し、間髪入れずに頑を殴った。

 ジダァァン!!ブグワアアアァァァン!!

 盾の爆発で吹き飛ばされる頑。

「ウグッ。思ったより厄介だな」

「俺の目標は戦士を倒すことではない」

 喋り出しやがった。余裕こいてるな。

「俺の目標は能力者エモナを超えることだ」

 エモナか。そういえば300連勝を超えていたな。

「俺は最もレベル4に近いレベル3。勝算は十分ある」

「私の方が強い」

「この体たらくでよく言う」

 戦闘技術は頑の方が上だった。しかし、武器の相性がひたすら悪かった。



「一方的な展開になった!!頑、成す術なく圧倒されている!!これは強いぞ爆発小型シールド!」

「かなり苦しい戦いですね。遠隔衝撃パワーグローブや衝撃吸収パワーブーツなら、盾と爆発を破れるほどの高威力の一撃が出せますが、パワーグローブ・パワーブーツだと、守りに秀でている分、セオリー的な攻撃手段がないですからね」

「爆発小型シールド!13連勝と成るか!?しかし、頑 願子はただでは立ち上がらない!!どんな危機でも打開してきた、倍返しの黒猫!!」



 爆発がそこまでの火力がないもので助かった。

 何十発と殴られたが、まだ、なんとか立てる。

「しぶといな。お前は今までの戦士と何かが違う」

「ハアハア……。殺されたことがあるかないかだ」

 男は頑に再び、猛攻を仕掛けようとしていた。

 しかし、頑はレベル3でも、銃、短剣が使えることを忘れていなかった。

 頑は懐に隠していた拳銃を構え、引き金を引いた。

 パアァァン!!

 銃弾は明らかに、男の左胸に命中したが、男は構わず頑の腹を盾で殴る。

 ズグォォン!!ブグワアアアァァァン!!

 盾は爆発し、頑は吹っ飛ぶ。

「ゴフッ。ウウゥ……」

 爆発で全身が痛え、炎人間と戦った時を思い出すな。

 さすがに、そろそろキツイか。体が強張って震えてきた。

 ただ、なんとなくわかった。

 ヤツは武器を持っているが、それだけじゃない。あの武器なら、おそらくレベル2。

 ヤツの本当の強みは、守りの堅さだ。

 武器として挑戦しているが、能力者だ。

 最初のクロスカウンターも微動だにしなかった。今の銃撃も銃痕さえ残ってない。とてつもなく硬い体だ。しかし、だからどうする?

 パワーグローブも、銃もきかないほど硬い体、おそらくナイフでも、傷は負わない。

 詰んでいる?まさか、ならレベル4のはず。何かあるはずだ。

 ……硬いのは皮膚だけ?

 賭けてみるか。



「頑!依然守りの形勢!!すでに傷だらけだ!戦闘終了は近いか!?」

「いや、動きが安定してきています。攻撃も、爆発も、ダメージを最小限に抑える動きができてますね」

「ということは?」

「挑戦者は、見切られた可能性が高いですね」

「ここから始まるのか!?いや!瀕死から幾度となく勝利を手にしてきている頑 願子なら始まらないわけがない!大逆転劇が!!」



「お前、疲れてないか?」

 まず、煽り立てる。

「何をバカな。そんなズタボロが言うか」

「威勢がないな。そんなんじゃエモナには勝てんな」

「何?」

 きたか……。

「お前如きじゃ、普通のレベル3にも勝てやしねえよ!!」

「黙れエエエェェ!!!!」

 男は叫びながら殴ってきた。

 ニヤリと笑った頑のクロスカウンターが決まる。

 今度は、頑の手には拳銃が握られ、その銃口は叫んでいた男の口の中に突っ込まれている。

「アガッ!!」

 鉄壁の守り、それはレベル4以上になる。

 ならこいつの弱点は皮膚以外の部位、目はまぶたで防がれる可能性があるが、口内ならそうはいくまい。

「私の方が強いと言っただろう?」

 パアァァン!!

 頑が引き金を引くと、男の顔が爆散した。

 ブザーが鳴った。



「決まったアアァァ!!!!頑の逆転勝利!!!これが倍返しの黒猫!爆発小型シールドの連勝を止めて見せた!!」

「やはり、実力のある戦士ですね」

「華々しく復帰戦を制した頑。これからの戦闘が楽しみです。さて明日の戦闘は魚崎戦闘所所属、ベテランになりつつある神谷 謙太郎!通算500戦目の記念すべき戦闘!対するは、レベル1!叩きつける大刀!ビッグブレード!身一つで戦う500戦の戦士が勝つか、巨大な剣が勝つか!?」

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