第十六話 骨!骨!怨念!救世主!
「聞きましたよー。ロロを倒したそうですね。頑さん」
頑は河合と焼肉屋に来ていた。
「うん。まあ」
「なんですか、その感じ?」
「なんか……」
「……。話したくないなら、いいですけど。でも、これで一安心ですね。乱入なんて一種の放送事故ですからね」
「まあ、そうですね」
「桐原さんはどんな具合ですか?お元気ですか?」
「うん。元気だけど、治療の方はあんまりうまくいってないみたい」
「それは大変ですね。あっ、そういえば、吉野さんの件知ってます?」
「優樹くん?」
「はい。なんかお兄さんが問題起こしちゃったみたいで、謹慎中らしいですよ」
「えっ。知らない。なにそれ」
「でも、吉野さんが何かやったわけじゃないので、騒ぎが収まるまでの、ちょっとの間だと思いますけど」
問題が起こると、ほんのちょっとしたこと、本人はもはや関係ないことでも叩かれる世の中。
本部としては謹慎にせざるおえないのか。
「ってことは、いま、綾木戦闘所って満島所長一人ってこと?」
「いまのところはそうですね」
「やばいね」
「やばいですね」
頑とララの戦い、それとロロとの戦いの隔離前までの映像は頑の産休後、過激な描写をある程度編集されて公開された。
過去最高難易度とされた、ララとロロとの戦い。それを制した頑は遅ればせながら、評価されたが、一年と数ヶ月が経ち、すっかり忘れられていく頃だ。
頑は無事に女の子を産んでいた。名前は奏エ(かなえ)。
頑は願子の願から叶がいいと主張、しかし、旦那 鉄治は音楽教師を生業としているため奏がいいと主張。
結果、奏エとなった。
頑は戦闘へ意欲を向ける暇もなく、育児に専念していたが、ある日、久しぶりに旦那と、ピーナッツの戦闘を見たのである。
「さあ!みなさん、やってまいりましたよ!高鳴る鼓動!震える闘志!今夜も激戦!ピーナッツ!!」
綾木戦闘所の危機は未だ、解決していなかった。
「実況は私、清水 武雄、解説は桐原 理生さんでお送りいたします。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「今夜の戦闘は、綾木戦闘所所属 壮年の鬼!満島 薫!対するはレベル4!亡者の怨念こもる大妖怪!がしゃどくろ!17歳 男性 高校生の挑戦です。硬い骨、強い力、そして何と言ってもその巨体。いかがでしょう?桐原さん」
「……満島所長は、戦略を練るタイプではないので、こういう純粋に強い相手だとかなり苦しいと思います」
「ベテランはこの強者を一体、一人でどう相手するのか!?」
謹慎中だった吉野は、その間に病気にかかり、現在は療養中である。
つまり、まだ、綾木戦闘所は満島一人なのである。
頑は旦那と観戦中。
「所長一人か……」
「レベル4に一人って、むちゃくちゃじゃない?」
「……まあ、本部が負け戦じゃないと判断したんだと思う。荵ちゃんの指示が飛ぶかな。」
頑の予想は外れていた。
「準備はいいですか〜」
「はい。大丈夫です」
満島はパワーグローブ・パワーブーツを身につけた。
「それでは〜、健闘を祈ります〜」
「勝てないにしろ、一矢報いたいところです」
「では、戦闘を開始します」
そして、そいつは召喚された。
「規格外の大きさ!!これは化け物だあああ!!!」
「こんなの、一人じゃ……」
その骸骨は地面から上半身が突き出しているような形だが、それでも約60メートル。電線の鉄塔ほど。
「これは……無茶苦茶な」
がしゃどくろは白い拳をゆっくりと振り上げた。
レベル4でこの大きさ、ほかに何らかの能力や武器がないのなら、間違いなくグローブ・ブーツでは力負けする。
満島はすかさずがしゃどくろに向かって走り、懐に潜り込んだ。
がしゃどくろを支える背骨は直径だけでも4メートルは優にあり、びくともし無さそうなその骨に満島はナイフを突き立てる。
ガッソアアアア!!!!
ナイフはパワーグローブの力で刺さりはしたが、がしゃどくろは全く動じない。
自分の麓にいる満島を叩き潰そうとするがしゃどくろだが満島はそれを避ける。
遅いがしゃどくろの攻撃を避けるのは簡単だったが、満島は攻撃手段が見つかっていない。
刺さったままのナイフをさらに殴ってみるも軽くヒビが入るだけで、それでこの直径4メートルの骨を折れるわけがなかった。
「何かほかの手を考えないといけませんね」
満島はがしゃどくろから猛スピードで離れ、上半身を引きずって追いかけてくるがしゃどくろを見つめた。
「どの骨も折れそうもない、さらに嫌なことに、致命傷になりそうもない」
満島は考えを巡らせた。
もし、この場所に戦闘所の面々がいたとして、あの骸骨に勝てるのだろうか?
おそらく、無理だろう。
ということは、何らかの弱点があるはず、なければレベル5だ。
弱点?
ああ。なんだ、明確に骨ではない部位がある。
弱点は目玉だ。
「藤高さん、特殊変身をお願いします。レベル2 鳥人間にパワーブーツを履かせてください」
「わかりました〜」
「満島!変身したのは鳥人間だあぁ!!」
「巨大な敵を空中で翻弄する作戦ですかね。あまり、所長らしくない」
「鳥人間?あれ、これってララとロロの時のやつだよね」
「一応、倒したのは満島所長だから、変身できる」
「なるほどお。じゃあこれで、惑わせて戦うってことだね」
「いや、荵ちゃんも所長もそんな煩わしいことはしない。鳥人間の急降下とブーツの力でかなり威力が出るから、それで、多分、あからさまに弱点の目玉を狙うつもりだと思う」
「ほえー」
飛び上がる満島。パワーブーツの跳躍力もあり、急上昇。
がしゃどくろは満島のところまで来ると、満島を捕まえようと両腕を振り回す。
しかし、鳥人間の軌道は不安定で、よほど腕のある狙撃手でもなければ捉えることは難しい。
満島は、さらに高く飛び上がり、そこから急降下。加速し続けながら、がしゃどくろの右目を狙う。
200キロを超えるスピード。満島はその中で体勢を変え、足を下にして膝を曲げ、思いっきり蹴りおろす構えをとった。
がしゃどくろは遅いが、頭が悪いわけではなかった。
両手で目を覆った。弱点を隠す、がしゃどくろにとって、最も守りの硬い行動だが。
ッッダアアアアァァァァァァンンン!!!!
満島の蹴りはがしゃどくろの右手を突き抜けた。
白い石ころのような骨が飛び散る。
しかし、がしゃどくろには目玉を隠す、骨の瞼があった。
「まぶたとは、骸骨らしくない。ですが、ヒビが入っていますね。もう一撃で終わりです」
満島は再び、飛び立とうとしたが、がしゃどくろの左手はその満島を待ち構えていた。
「がしゃどくろ!しっかり満島を捕らえ、大きく振りかぶり」
ッドオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!!!
「握ったまま床に叩きつけたァァァ!!!!」
がしゃどくろが拳を開けば、血まみれの満島がドサリと床へ落ちる。
「これは満島、さすがにダウン!!」
「一応、鳥人間の方が生身の人間より耐久はありますが、あの攻撃力では耐えられないですね」
「満島が退場していく。戦闘が終了にならないということは!!」
「あらー。やられちゃったね」
「……戦闘が終わらない?」
なぜだ。まさか、乱入?
「綾木戦闘所の秘密兵器!レベル4にしか現れない幻の新人。6戦全勝。千羽 由美!!敵を常に圧倒するその強さ!!六つの戦いですでに絶大な人気を誇る超大型新人!今回はどう戦うか!?」
「やっぱり、出てきましたね」
真っ白な世界。
ここは私の故郷のような場所。
私の全てがここにある。
がしゃどくろとはまだ距離のある壁際に私はいる。
がしゃどくろがこちらに来れば、この戦いは終わる。
千羽は自分の体ほど大きな二つの木箱を召喚した。
「新人?」
「最近話題になってる人だよ」
「フード被ってて顔がよく見えない」
「でも、美人そうじゃない。口元の感じとか」
「……」
千羽に向かってがしゃどくろは進み。
攻撃範囲に入ると、左拳で千羽を叩いた。
が、千羽はこれを容易くかわし、自分の代わりに、木箱をがしゃどくろに叩かせた。
木箱は叩き潰され、中に入っていた液体が飛び散った。
がしゃどくろはもう一度、叩こうと左手をあげようとするが上がらない。
木箱の中身は超強力接着剤だった。
がしゃどくろは穴の空いた右拳で千羽を叩くが、これも避けられ、木箱を身代わりにされ、完全に両手を床につき拘束された。
千羽はがしゃどくろの手を駆け上がり、骨を伝いながら、さらに飛び上がった。
がしゃどくろはそんな千羽を目で追い、上を向く。
千羽の狙いは右目。ちょうど上を向いたがしゃどくろの右目に着地し、同時に落下の勢いでナイフをまぶたに突き立てた。
そして、全力で壁側に飛び上がると、空中で体をひねり壁に着地、重力で落ちていく間も無く、壁を蹴り、がしゃどくろの右目めがけて急降下。
ドズッシャアアアアアアアァァァァ!!!!!
突き立てたナイフに勢いと力の全てを込めた蹴りを当て、まぶたを破り、目玉を頭蓋骨の中へ落とし、自分も頭蓋骨の中へ入った。
がしゃどくろはもがくが、足は無く、手も拘束され、ほどんど身動きの取れない状態だ。
しかし、その動きが一瞬止まると、左の目玉が飛び出てきた。
千羽がナイフを突き刺し、内側から体当たりで目玉を吹っ飛ばしたのだった。
目玉と着地し、千羽がナイフを目玉から抜くと、がしゃどくろはゆっくりと倒れた。
ブザーが鳴った。
「千羽由美!!またも圧倒的!!謎多きこの女戦士は敗北を知らずか!!」
「とても、スムーズですよね。毎回、満島所長がやられてから出てきますが、それにしたって相手の動きを理解しすぎているような」
「そうですね。完璧な行動予測!予測不能なのは千羽の底力か!?さて、明日の戦闘は、定戦闘所のエリート戦士たち!現役最強の女戦士!宮原神奈子が率いる勝率8割越えの精鋭たち。対するは、かつてない斬撃!かつてない恐怖!現在188連勝中!能力者エモナ!!激闘確実、この戦いを制すのは!?」
「強かったねー。あの子」
「決断の早さが新人じゃない。戦場にいた人かな?」
「どうだろうねー」
「会うのが楽しみだな」




