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綾木  作者: 心鶏
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第十三話  マタニティーファイター

「さあ、挑戦者同士の激闘は能力者 エモナの勝利に幕を下ろしましたが、本日はもう一戦。今!最も注目されている若手戦士同士の戦い!!記憶に新しいララとロロとの死闘を戦い抜いた二人!!」

「……」

「16戦全勝!もはやまぐれとは言わせない!白スーツの下には鉄の心!定戦闘所所属!河合 優也!!!」

 真っ白な仮想空間に、同化する真っ白なスーツ。

 河合 優也が立つ。

「17戦8勝!絶好調の元陸軍軍曹!やられたらやり返す!綾木戦闘所所属!頑 願子!!!」



 真っ白な仮想空間に、ダサいジャージ。

 頑 願子が立つ。

 河合は頑に駆け寄った。

「頑さん、聞きましたよ。おめでとうございます」

「河合さんにまで話が入ってたんですか!?」

「はい。……正直、やりにくいです。妊婦さんが相手なんて」

「でも、別に体は妊娠前のデータを使ってるから、仮想空間上だと妊婦じゃないよ」

「そうなんですか!?まあ、僕も連勝ストップさせたくないので、手加減するつもりはありませんでしたけど」

「正々堂々。ってのは河合さんの戦闘スタイルだと無理か。まあ、恨みっこなしで……」

「はい。お互いに勝つことだけを考えてやりましょう」

「もちろん」


「なお、今回はレベル3の条件での戦闘ですが。拳銃・短刀は支給されません。各戦闘所の特殊武器が支給されます。定戦闘所の河合には遠隔衝撃パワーグローブが支給され、綾木戦闘所の頑にはパワーグローブ・パワーブーツが支給されます。さて、桐原さん、どうでしょうか?」

「レベルが1や2なら間違い無くネコさんだと思います。戦闘技術は軍でもずば抜けてたそうで、現にピーナッツでも一目置く人は多くいます。ですが、今回はレベル3なので、そうなると、戦略や容赦ない攻撃が得意な河合さんは一気に強くなる印象があります。お互いにどこまで特殊武器を生かして戦えるかだと思います」

「なるほど、技術の頑か、戦略の河合か」



 もちろん頑を応援する園田と吉野。

「よっしゃー、ネコちゃんがんばれー」

「やっちまえー」



 戦闘が開始された。

 河合さんと私の最大の違いは、パワーブーツの有無だ。

 定戦闘所の特殊武器、遠隔衝撃パワーグローブは強い。起動させるための輪っかを引く動作は必要とせず、チャージすれば溜まり続ける衝撃を放てる。しかもチャージ中の能力制限は一切ないのだ。

 つまり、起動しっぱなしで、なおかつノーリスクで高火力な遠距離攻撃ができるパワーグローブってわけだ。

 それに引き替え、綾木戦闘所のパワーグローブ・パワーブーツは起動時間が15秒の制限付きで、かつなんの特殊効果もない。

 ただの脳筋武器なのだ。

 それでも、武器の格差は五分。

 なぜなら、各特殊武器には範囲で補正がかかるからだ。

 パワーグローブ・パワーブーツは起動してようがしてまいが、少々衝撃を軽減する効果がある。

 これは各特殊武器にもあるが、パワーグローブ・パワーブーツはグローブ・ブーツから離れた腹部あたりは補正が薄いが、全身に補正がかかる。

 それに比べると、他二つ、遠隔衝撃パワーグローブ、衝撃吸収パワーブーツは完全に補正かかからない部分がある。

 遠隔衝撃パワーグローブは足元、衝撃吸収パワーブーツは頭部と手先。

 要は、河合さんの弱点は見切ってるんだぜ。ってことだ。ってことだが、河合さんがそれを考えていないはずがない。

 まずは頭から攻めるか。

 意識を上に無理やり持ってきたところで、下を狙う。



「頑!すぐさまパワーグローブ・パワーブーツを起動し!河合へ一直線だ!!」

「ネコさんはまず近づかないと攻撃ができないですからね」



 レベル3の場合、遠隔衝撃パワーグローブは衝撃を放つチャージに最低10秒ほどかかる。

 つまり、遠距離とはいえ連射できず、距離が取りにくいのだ。

 そして何より、10秒のチャージで撃ってしまうのは効率が悪い。

 10秒チャージ3発より30秒チャージ一発の方がダメージが多いからだ。

 よって、頑には初っ端から撃たれないという、確信があった。

 それと、早く終わらせなければ、温存されればされるほど不利になるという焦りから、頑の攻めは凄まじかった。

 河合の正面で、ビタッと立ち止まり、かすかに下の守りを意識させるように、下から振り上げるような左ハイキックを繰り出す頑。

 さすがに受け止める河合だが、間髪入れずに喉を狙った右ストレート。

 とっさに受ければ、頑のミドルキックが河合の脇腹へ入り、吹き飛ぶ河合。

「ゴアッ!」

 すぐさま、頑はパワーグローブ・パワーブーツを起動し直し、起き上がろうとする河合めがけ飛びかかった。

 頭に受ければ一撃、そんなかかと落としをかわした河合だが、そのかかとで踏み込み、勢いのついた頑の蹴り上げが、起き上がれない河合の胴体を再び吹き飛ばす。



「これは一方的だ!頑は攻撃を続け、河合は攻撃を受け続ける!」

「高度な駆け引きと戦術です」

「と言いますと?」

「河合さんは手が出せないんじゃなく、遠隔衝撃グローブのチャージを待っているんです。そして、ネコさんがミスでグローブ・ブーツの起動を忘れた瞬間に撃って形勢逆転を狙ってます。河合さんは確実にネコさんの一撃目を受けています、これはカウンターのタイミングを見ています」

「なるほど。つまりは……」

「ネコさんはそれをわかって、絶えず攻撃してますが、体力の減りも早いし、追い込まれているのはネコさんですね」

「策士!河合!!頑!この状況をどう崩すか」



 まずいな、このままじゃ必ずどっかで狩られる。

 ただ、まだ、足元を狙っても避けられるだけだろう。

「さすがに、強いですね。頑さんは」

「そっちも、嫌な狙いの澄まし方で」

「アハハ、それだけ、頑さんの戦闘技術が怖いんですよ。いつ寝技にもっていかれて、ボコボコにされるかとヒヤヒヤしてるんですよ」

「そのグローブは銃口のない銃です。そんなのに寝技なんかできたもんじゃない」

 頑はパワーグローブ・パワーブーツを起動した。

「それもそうか」

「それに、関節技は正直好きじゃない」

「そうなんですか?軍人時代とても強かったって聞きましたけど」

「私が戦場で生き残ったのは、武器兵器の扱いと、相手より早く攻撃することに長けていたからです。」

「そうだったんですねー」

 河合さんはネクタイを外し、ジャケットを脱いだ。

 Yシャツ姿の河合さん、動きやすくなったようだ。

「はあー。再開しましょうか」

「どうして、話しかけてきたんです?」

「頑さんの体力を心配してですよ」

 嘘だ。勝つことだけを考えてやろうといってきたのは、河合さんだ。

 時間稼ぎか。いや、それなら攻撃を受け続けたほうが、私が体力を消費していく分、得のはず。

 何を狙ってるんだ?。

 ……もう何も狙っていないんじゃないか?

 最初からチャージしているとすれば、それなりに溜まっているはず。

 こうなる前に落としたかったが、河合 優也を相手にそうぬるくはないか。

 攻め方を変えるしかないな、こっちから仕掛けて、河合さんなら隙を見せれば確実に反撃してくる。それにカウンターを決めよう。



「頑!攻めを継続する。これを河合は受け続ける形!」

「何か話していましたね。話術的には河合さんのほうが上手なので、状況が変わるかもしれませんね」



 ジャブのような拳で、牽制しつつ、たまに足元を狙い、振りの少ない軽いローキックを繰り出す頑。

 そのジャブを受け、かわし、ローキックはしっかり距離をとって避ける河合。

 どちらも動きを最小限に、体力温存が目に見えてわかるような戦い。

 しかし、桐原の言う通り、状況は急激に変わった。

 河合の反撃である。

 一瞬、息を吐き頑の猛攻に穴が空いた。その隙を見逃さない河合。

 頑は待ってましたというように、河合の左ストレートに右ストレートを合わせクロスカウンターを決めたが、河合の左手の中にはネクタイが握られていた。

 河合はすぐさま、頑の首後ろにネクタイを通し、両手で両端を握り、そのまま、大ぶりに振った。

 頑は首ごと体を持っていかれ体制を崩す。

「グッ」

 河合はネクタイの両端を右手に持ち替え、左拳を勢いのまま、頑の振り回される頭に打ち付けた。

 ッダアアアアアァァンン!!!!

 そして、ゼロ距離からの衝撃波の追撃。

 バッッダアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!

 頑は吹き飛ばされる。



「河合!!容赦のない攻撃!!ネクタイを利用した奇襲攻撃!これには頑、対応できず!!」

「河合さんには、チャージした右手の衝撃波がもう一発あります。ネコさんにはきつい状況です」

「さあ!河合!戦いを終わらせようと、頑に向かい走る!」



 ……。

 頭の中で鉄の塊が暴れまわっているみたいだ。

 意識がはっきりしない。視界すらぼやける。

 確実なのは大ピンチだということ。

 でも、立たなくては。

 頑は、パワーグローブ・パワーブーツを起動し立ち上がる。

「頑さん、僕の勝ちです」

 声のする方に拳を振るう。



「抵抗する頑!だが、それも河合は見切っているッ!!」

 河合は突き出された頑の拳をかわしてつかむと、見事な一本背負投げを決めた。

 そして、頑の腕を左手で掴んだまま、開戦から溜め続けている右手のグローブの衝撃を、仰向けに倒れる頑にめがけ撃ちはなった。

 ブッドオオオオオオアアアアアァァァァァンンン!!!!!

「これは勝敗決したか!?いや、頑!かわしている!!しかし腕はあらぬ方へ曲がっている!」

 一瞬、時が止まったような静寂。状況を理解しているのは頑だけだった。

 頑はブーツで踏み込み、膝立ちのまま、河合の両足を左腕で払うように体当たりをかました。

 ズッバアアアアァァァァンン!!!

 河合はまえのめりに倒れ伏せ、頑は距離を取り立ち上がった。

「この執念深さが頑ァ!!倍返しが始まるのかアァァ!?」

「これで、戦況は逆転しましたね。河合さんが高威力の衝撃を打つには時間が必要です。もうピンチすぎますね」



「イッ。まさか、肩をはずして避けるなんて。無茶な戦い方をしますね。頑さん」

 なんとか座る河合さん。立つことはもうできない。

 当然だ、ブーツの踏み込みとグローブの攻撃が重なったこの特殊武器がレベル3で出せる最大威力の攻撃だ。生身の足に食らえば骨の一本や二本はたやすく折れる。

「利き腕の肩一個で、足二本なら安いもんですよ」

 私の肩は痛い。けれど河合さんの足よりマシだな。

 頭も治ってきた。視界も良好。

「河合さんは、もう立てないし、骨も二本折れてるし、あと一発でも殴ればブザーが鳴りますよね」

「そうですね。ここから逆転はもうないですね」

 頑は河合の方へ歩いていく。

 勝負は決まる。

「……とはいえ、諦めちゃいませんが」

 河合はグローブだけで頑に向かって飛び上がり、両手を頑に構え、衝撃を放った。

 しかし、その衝撃は遠隔衝撃グローブの最小威力の一撃。

 頑はグローブを起動し左手だけで衝撃を受けきると、河合が落下するより早くブーツを起動しながら、空中の河合のみぞおちにハイキックを決めた。

 河合は吹き飛ばされた。

 ブザーが鳴った。



「形勢逆転からの圧倒!!頑 願子!!9連勝!話題の新人対決は倍返しの黒猫、頑が制しました。いやあ、激闘でしたね」

「そうですね。河合さんのネクタイ奇襲から、ネコさんのまさに肉を切らせて骨を立つ攻撃、さすがの二人でしたね」

「この二人がこれからのピーナッツ界を担っていくのでしょうね。さて、明日は古長戦闘所所属、妖麗な魔女がごとく、相手を翻弄し続ける宮野 涼香!対するは、レベル3!現在3連勝中!金棒振るうえんじ色!赤鬼!魔女はどんな魔法を使いこの強敵を退けるのか!?」

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