第十一話 燃え盛れ!炎人間
「短い間でしたが、御世話になりました」
「まあ、あんなことされちゃ、怖いのも無理ないよ」
今日が桐原の最後の出勤だった。
引退する戦士は最後に仮想空間にて、意識と仮想空間上の体のデータ同期を解除しなければならない。
その作業を終え、頑と話す桐原。
「優樹くんと、園さんには言ったの?」
「はい、昨日」
頑は今晩の戦闘を控えていた。
「そっか。これからはどうするつもり?」
「実家が靴屋なので、とりあえずはそっちの手伝いですかね」
「なるほど。まあ、頑張ってね」
「はい」
頑は悔しかった。
足がすくみ、一歩も動けず、ただ仲間が殺られていくのを見ていた。
あの時、もっと勇気があれば、もっと力があれば、桐原が辞めるようなことにはならなかったと。
「ネコさん。気負わないでください。わあしの責任です」
頑も藤高もお互いに責任を感じていた。
「でも、私があの時、少しでも攻撃すれば、理生ちゃんの傷は浅くすんだかも」
「いえ、わあしの読みの甘さです。ロロにこちらの情報を流し、油断させて倒す。それは理生さんも理解してやってくれました〜。でもわあしはロロが倒されたことによるララの変化を読んでいませんでした」
「あんなのどうしょうもないよ」
「……勝ちましょう。今日の戦闘」
「理生ちゃんに捧ぐ勝利だね」
「はい」
「さあ!今晩もやってきましたよ!理解不能な能力者!百万馬力の機械!心さえ震わす怪物!そんな挑戦者に立ちはだかる勇猛果敢、百戦錬磨の戦士たち!始まる激闘!ピーナッツ!!」
頑 願子はララとロロとの激闘後、2勝し7連勝中、あと2勝で勝率が50%になる。
しかし、世の中は16連勝中でかつ無敗の河合や、桐原の引退に注目、頑の50%など気づく人はいなかった。
「実況は私、清水 武雄、解説は古長 進一さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「本日は綾木戦闘所所属 頑 願子!少し前のララとロロとの戦闘でも黒尾さんや桐原、河合と共に活躍しました。本部からの発表ですとララにトドメを刺したのはこの頑ということですが、いかがですか?」
「そうですね。戦闘技術は確かですが。桐原の不自然な引退といい、あの戦闘に何があったのかは想像もできませんね」
「なるほど」
発表がされた後も頑がララを倒したのだと信じる人は少なかった。映像の公開もされていない。
無敗の河合や、ロロを倒した桐原がいた、視聴者が頑だと信じないもの当然といえば当然だ。
「対するのはレベル2 燃え盛る!灼熱の炎人間!26歳男性 会社員の挑戦です。人型の火炎、炎のパンチと瞬間的に火力をあげ爆発する攻撃が主だそうです。これはレベル2ではかなり手ごわい相手ですよね」
「そうですね。レベル2ではナイフと拳銃しか支給されませんからね。どう戦うか見ものですね」
「現在7連勝中の頑。期待したいところです」
さて、始まるな。
真っ白な世界、そこに現れる私の意識と身体。
青い工具箱の中から拳銃とナイフを取り出す。
「ネコさん。準備ができたら始めます」
勝つために全力を尽くす。当たり前だが、それが難しい。
「大丈夫、始めて」
「は〜い」
相手が強ければ強いほど、勝ち目がなければないほど、怖ければ怖いほど。しかし、今回は話が違う。
理生ちゃんへ送るのは勝利だ。
どんな相手だろうと、負ける訳にはいかない。
ララの時に動けなかった、その贖罪をする。
目の前に人型の火が現れた。
パアアアアァァァン!!パアアアアァァァン!!パアアアアァァァン!!
頑は即座に発砲したが、銃弾は火をすり抜け貫通した。
「当たらないか」
火は頑に向かって走りだす。
「走ったぁぁ!!頑!たまらず逃げる」
「火ですからね……」
「そうですね、全身が武器!炎人間!ひたすら走る」
「でも、頑の方が足が速いですね。持久戦になりますかね」
観戦中は園田 戦と満島 薫所長だ。
「これは強いですね」
「銃がきかないとなると、結構どうしようもない感じがしません?」
「そうですね、レベル2では確かに苦しいですね」
息はまだ保つが、どうする、攻撃できないなんてレベル2でありなのかよ?
強すぎる。
相手は体力を消耗している素振りを見せない。無尽蔵だとすれば、焼かれるのは時間の問題。
それまでになんとか攻撃方法を考えねば。
頑は走る。
足を止めれば、火炎が襲う。
ゴウオオオオオオオオ!!
火は走れば走るほど空気を含み、火力を増している。
「炎人間!頑を追い回す!一方的な戦闘展開になりましたね」
「そうですね。ですが、頑は追い詰められてから勝機を見出す戦士なので、まだ、なんとも言えないですね」
「なるほど、しかし、この場合、攻撃が当たらないとなると、どうしても勝ち目がないように見えてしまうんですが……」
「いえいえ、レベル2でこの強さなので、タネさえわかれば簡単に崩せると思いますよ。彼女にそのセンスや技術があるかどうかはわかりませんが……」
「ある!ネコちゃんならやってくれる!」
「そうですねぇ。フラグパもララも、なんやかんやで倒してくれましたからね」
仲間からの信頼厚い頑は、まだ、走っている。
マズイな、軍を抜けてからロクに運動していなかったせいか、10分も走ってないのに息が切れてきた。運動不足がここで祟るとは……。
後ろにはマラソン選手のような炎。
とにかく、現状維持は自分の首しか締めてない。
何かしなければ。
頑は力を振り絞り猛ダッシュした。
火と距離を置いた頑は銃を撃つ。
パアアアアァァァン!!パアアアアァァァン!!パアアアアァァァン!!。パアアアアァァァン!!。カッキイン!
「弾切れか」
一発も当たらず。
火は頑に飛びかかる。
とっさに身構えた頑、その目の前に着地した火。
「!!」
ゴゴウオアアアアアアアアアァァァァァ!!!!
「炎人間の大爆発!!!灼熱の火炎が頑を包む!これはひとたまりもない!!」
「苦しいですかね」
熱すぎる。
皮膚が溶けるのがわかる。
痛え。
頑は真っ白な地面に崩れ落ちた。
火は頑へ、トドメを浴びせようとしている。
負ける……。
いや、諦める訳にはいかない。
「頑、最後の力で立ち上がる!目の前には燃え盛る強者!」
「戦闘終了ギリギリの怪我ですよ、これは」
「頑、走ったあ!!!」
服が燃えている。
脱がなきゃ焼け死ぬ。
頑は走りながら戦闘服のジャージの上を脱いだ。
下の白いTシャツには血が滲み、溶けた皮膚が張り付いていたが、そのおかげで、くっついた皮膚をはがしながらジャージを脱ぐことはなかった。
ジャージは燃えているが。
「ダメもとだ」
頑は立ち止まり、振り向きざまに、すぐ後ろを追ってきていた火にジャージの上をかぶせた。
「やっぱりそんなことか」
ジャージで浮き彫りになった火の正体は、マッチ棒のように細い本体だった。
どおりで銃弾が当たらない訳だ。
火はジャージを払おうともたついている。
その細さ、レベル2、耐久力がある訳ない。
「その首、切れろ……」
頑は腰に装備していたナイフを、水平に火の首元へ投げた。
ブザーが鳴った。
「炎人間の首がとんだああ!!!頑 願子!!8連勝!!いやあ、ギリギリの戦いでしたね」
「そうですね、もうダメだと思いましたが。諦めませんでしたね。流石です」
「桐原のような闘志でしたね。さて、明日の戦闘はスコール戦闘所所属、生きる伝説!黒尾 武彦!対するはレベル3!20メートルライオン!伝説の足技か!?巨大な爪か!?」