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魔法少女のお姉ちゃんは変質者-SER.とりあえず殺しておくか。  作者: モコ田モコ助
第3章 新しい敵

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5.さようならカゲール君。あなたの事はなるべく忘れない。

 最近、ピョン太が話しかけてこない。


 今日も妹の部屋に入り浸りだ。

 てっきりセクハラ行為に目覚めたのかと思ってたのだけど、妹の足下でお昼寝するばかり。


 スカートの中を見上げようともしないし、足をペロペロする事も無い。

 可愛さと犬という、恵まれた立場を利用しようとしない。


 誰だって利用するだろう。あたしだって利用する。

 解せぬ。


 あ、いや、これは妹の身を守る為の監視であって、邪な情念によるものではない!

 部屋に仕掛けた監視カメラだって防犯目的だ!

 ましてや姉妹、女子同士。なんらセクハラ要素は無い!



 おかしいおかしいと、気になって悶々する日々が過ぎていくある日のことである。

 ピョン太があたしの部屋にやってきた。

 妹がいつものコンビニへ出かけた時間を使って。


「やあ、元気でしたか?」

「元気でしたかはないでしょう? マーゾックの情報を聞き出そうとしてたのに」


 ピョン太こと元3幹部の一人、カゲールは、机の上に飛び上がった。

 腰を下ろし、後ろ足で顎の下をボリボリとひっかく。


「ずいぶん犬の動作が様になってきたわね」

「……だろうね。そこが悩みでもあるし、……まあいいでしょう。そんな事は」


 おやおや、ずいぶんとシリアスな犬ですこと。


「ピョン太の表面に出てこられる時間が短くなってきました」


 え? どういうこと?


「あなた、カゲールの意識を持って転生したんじゃなかったの?」


 カゲールは首を振った。

「どうやら、そこまで都合の良い話じゃ無かったようです」


「まさか、お前……」

「そう。一説によると、全ての赤子は、前世の記憶を持って生まれ出るよも事です」


「それを証明したのでしょう?」


 また首を振った。


「その説では、転生しても、前世の記憶を保持できるのは7日間だけだとされています」

「7日どころじゃないでしょ? 今日で何週間よ?」


「前世が前世だっただけに特別だったのでしょう」


 あれか? マーゾックだった事や、妹たちに魂を浄化された事が起因して、長い間意識を保てていた、ということかな?


 カゲールは、長めの溜息をついている。犬のくせに。


「初めはずっと意識を保てていましたが、そのうち半日だけになり、数時間に減り、一日おきになり、いまでは2、3日おきになってしまいました」


「それって、もしかして?」

「そうでしょうね」


 今日、初めて首を縦に振った。


「カゲールとしての意識が本来の犬であるピョン太に統合される日が近い。残された時間が少ない、ということでしょう」


「おいおい、そうならないうちに――」

「話す事は全て話しましたよ。残された時間は、私の好きに使わせてください。そのお願いに来たのです」


 うーん、そう言われると強制し辛いな。


「普通の生物に生まれ変わって、この世界が、生物が、生の営みという楽しさを感じる事ができた気がします」


 解る。


 生きてればこその、パンツを頭から被ったり、食器を洗うフリして嘗め回したりできるというもの。妹のね。


「特に、妹さんには幸せになってもらいたい。生き抜いてもらいたい。だから、お姉ちゃんに託したいのです」 


「なかなか良い事を言うじゃないか。前から見所のある犬だと思っていたぞ! どうやら、あたしの目に狂いは無かったようだ!」


 だが、妹はあたしの物だ!


「先代のマジカルキューティの遺物。イエローのバトンを持っているでしょう? あれを出してください」


 マーゾック空間に落ちていた、あの折れたバトンか? 


「お姉ちゃん、バトン持ってないでしょう?」

「欲しい! バトン欲しい!」


 妹たちが持っていて、あたしが持ってない物。それはマジカルバトン!

 欲しい! あれ絶対欲しい!


「私の、残された力を使ってお姉ちゃん用に作り替えてあげましょう」

「我が主と認める」


 机の引き出しの隅から、ゴミ……イエロー・バトンを取り出した。


「闇の力と聖なる力の両方を持つ、今の私なら、自称マジカルブラック用に改造可能です」


 おいおいおい! 神降臨かよ!


「お姉ちゃんらしく、黒を基調とした――」

「ピンクで!」


「え?」

「妹と、お揃いのピンクでお願いしまーす! とぅ!」


 これがっ! 命のジャンピング土下座だー!


「いや、そこまでして頂かなくとも、……違和感溢れまくりますが……え? 大丈夫? あなたがそれでかまわないなら、それでいいのでしょうけど……いきますよ! 気が変わったら言ってくださいよ」


 ピョン太の毛が逆立ち、目が光った。

 黄色かったバトンが、ピンク色に変化。

 折れていた部分からニョキニョキと再生していく。

 先端に黄色いお星様が形成される。クリスマスツリーの天辺に取り付けられるアレそっくりでファンシー!


「はぁはぁはぁ! 色の変化で余計な力を使ってしまいました」

 小さい舌を出してハッハッハッしてる。


「これ、どうやって使うの? ビーム出るの?」

「つ、使い方は、……ああ、意識が……自分で探してください」


 小さい体を震わせ、目を閉じる。


「おい! 大丈夫か?」


 両手で持ち上げて上下に振った。死にかけた金魚はこうすると息を吹き返すんだ!


「いや、あの……げふぅ!」


 カゲールは力尽きた。

 息は――ある。心臓も動いている。

 眠っただけのようだな。


 もうすぐ妹が帰ってくる。


 それまで、あたしのベッドで……死んだら責任問題なので、妹のベッドに忍ばせておいた。




 ピョン太はすぐに目を覚ました。

 知性の感じられないクリクリ目で妹を認識したら、千切れそうな勢いで尻尾を振り回した。


 カゲールの意識はどこへ行ったやら。


 クリクリした目で妹を追いかけている。




 翌日の夜。

 阪ネ申・臣人戦を見ていた時だ。

 あたしの横で、妹の腕にピョン太が抱かれていたときだ。


 ピョン太の目が知的な光を帯び、あたしを見上げた。

 そして、すぐにいつものクリクリ目に戻る。


 以後、カゲールの意識が表に出る事は無かった






 さようなら、カゲール。

 


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