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 映像に映し出されていたのは、先程1階で見つけた映像記録と同じような取り調べ室の様子だった。


 ただ、そこに座っていたのは凶行を引き起こした犯人である幸福沢とは別の30代くらいの特徴のない冴えない男性だった。


 ここで見つけたもう一つの別の資料によると、この男は『日和見崎ひよりみざき ドル』という名前であり、この男こそがこの終末世界の根幹に関わる存在……とされている。


 一体この男に何があったのか……そんなつかさ達の気持ちを代弁するかのように、刑事が日和見崎に詰問していた。


「日和見崎……今回の事件では幸福沢によって多くの人達が苦しめられることになった。今回の事で家族や恋人、友人といった大事な存在を失った人達もいただろう。……お前はそんな中で、何故こんな馬鹿げた真似を仕出かしたんだ!?」


 刑事の問いかけに対して、日和見崎と呼ばれた男が心底言われた事が分からない、と言った様子で首を傾げる。


「……?刑事さん、馬鹿げた真似、というのは一体何の事でしょうか?」


「~~~ッ!!とぼけるな!幸福沢の凶行によって負傷していた7人もの被害者を、何故殺害したのかと聞いているんだ!!貴様は幸福沢と何か繋がりがあるのか!?さっさと洗いざらい知っている事を全て話せ!」


 ドンッ!!と机を叩く刑事。


 それに対して、日和見崎は初めて得心が行ったとばかりに「あぁ!!その事ですか!」と朗らかな笑みを浮かべながら、何度も頷いていた。


「いぃえ、違うのですよ刑事さん。それは誤解です。……私は今回の事件を起こしたとされるその、幸福沢さん?とは全くの面識もありませんし、彼がどのような心情であの行動を選んだのかも知りません」


「……なら、何故お前は負傷して動けなくなっている何の罪もない被害者達を殺害して回っていたんだ!?」


 幸福沢という卑劣な人間によって、引き起こされた凶悪事件。


 そんな中でも負傷を負いながらも何とか一命を取り留めた者達がいた。


 しかし、日和見崎という男はあろうことかそんな助けを待つ被害者達に対して、何を思ったのか手にした刃物でその息の根を止め、駆け付けた救助を懸命に妨害するなどというとてつもない凶行に及んだのだ。


 常人には理解できない凶行を糾弾されているというのに、この日和見崎という男は一向に笑みを崩そうとはしない。


 果たして、この男の真意とは一体……?


「……刑事さん、確かにあの事件を引き起こした幸福沢、という人物は許されない行為をしたかもしれません。ですが、彼が人生を賭けて挑んだ行為には何か尊い理由があるのかもしれないし、今は許せなくてもいつか私達は分かり合える時がくるかもしれません。……いいえ、きっと理解し合える未来が来るはずです!!何故なら、人間の根底にあるのは”優しさ”であり、私達は許し合うように出来ているからです!」


「……日和見崎、お前さんの言う事が本当だとして、じゃあ、被害者の人達はどうしろってんだ?その人達はお前の言う”分かり合える機会”すら、永遠に幸福沢に奪われたんだぞ!!」


「えぇ、ですから簡単な事ですよ刑事さん。『被害者』なんていう存在にはこの世界から綺麗さっぱり消えてもらえば良いんです」


 演技でもなく、それがごく当たり前の事だと言わんばかりに自然なまま口にする日和見崎。


 その言葉を聞いて、今まで数多の極悪人と向き合ってきたはずの刑事も思わず絶句していた。


 そんな刑事に「大丈夫ですか?」と気遣う素振りを見せながら、日和見崎が言葉を続ける。


「刑事さん、人が死んだり傷ついたりする事は確かに悲しい事ですが、それに固執するあまり現在進行形で懸命に生きている人間の尊厳を蔑ろにするのは間違いでしょう。……私達は幸福沢という個人の行為がどれだけ間違っていようとも、彼の意思を尊重し理解し合おうとする事に全力を注ぐべきなのです!!……彼のやり残した後始末・・・はキチンと私が済ませておきました。後は、私達が互いに悲しみを乗り越えて明るい未来を掴むだけなのですよ刑事さん!!……なに、きっと私達は彼と分かり合えますよ」


「……お前は」


 再び「……お前は」と言いながら、刑事が絞り出すように声を震わせて日和見崎を睨みつける。


「耳障りの良い言葉を口にしながら、結局自分の都合の良い理想に浸っていたいだけだろうが。お前が被害者をどれだけ切り捨てて明るい未来とかいう絵空事を吹聴したところで、その人達の家族やお前みたいな奴のふざけた態度に嫌悪して反発する人間がいる限り悲しみなんか絶対になくならないし、お前の妄言が現実になることなんか永遠にありえんよ」


「……フム、残念ですね。どうやら私と刑事さんはまだ交じり合う時ではないようです。……ですが、いつかきっと、私達は分かり合えますよ」


「……過去にそういう事を言ってきた人間がどのくらいいるのか知らないし、その内のどれだけの人間がそれを本気で信じてやってきたのかは俺には分からん。だが、人を殺めておきながらお前の言葉はどこまでも薄っぺらそのものだな。借り物の言葉で覆ってなきゃ自分が何を仕出かして何を言っているのかも分からないんだろう?」


「……仮にそうだとして刑事さん、貴方のその言葉が私に響くと思いますか?」


 刑事にとって、その言葉が述べられたときだけ、日和見崎という人間の真実が僅かながら浮き彫りになったような気がした。


 だが、日和見崎が言う通りこの場は自分達が分かり合う場所ではないし、これ以降もそんな時が訪れる事はないだろう。


 そう判断した刑事は相方の刑事を引き連れて取調室を退出していた。









「どうしますか、先輩。あの日和見崎って奴、幸福沢以上にヤバそうな奴なんですけど……」


「……どうやら、この件は俺達が扱い切れるような案件じゃないらしい。まずは上に報告だな」


 そのやり取りを最後に映像は終わった。


 つかさとナノは何とも言えない気持ちでデータを取り出す。


 そして、つかさはこの部屋で見つけたもう一つの続きの映像記録をセットするのだった。


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