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ナノの放った魔導術の影響により、廊下は未だに激しく炎上していた。
そんな中、業火が滾る廊下をかいくぐりながら”盟約果たす白兎”の影響で苦しそうに息を切らせているナノを連れながら、つかさは目的の資料がある部屋に到着する事に成功した。
「ここに何とか辿り着く事は出来たけど……ナノの様子を見る限り、とても無事とは言えないようね……!!」
ナノの頬は見て分かるほどに赤くなっており、横たわりながら言葉を発する事もなくつかさを潤んだ瞳でじっと見つめている。
この事態の原因は、魔導術士特有の急激な魔力切れである。
”16の友達”の1種である”盟約果たす白兎”の能力によって、ナノは魔力が急激になくなっただけでなく、魔力の自然回復が出来なくなってしまっていた。
これがつかさのようなもともと大した魔力を持たず、それほど魔力を使用することのない人間だったのなら大した影響はなかったに違いないが、ナノのように魔力を常用的に使いこなす魔導術士にとっては魔力というモノは自身の身体の一部同然であり、それが急激になくなることはただ単に魔導術が使えなくなるだけでなく、生命活動に支障をきたすほどの異常を引き起こす事になるのだ。
(このまま放置しておいたら、ナノの生命が……!?だけど、いくらナノを救うためとはいえあんな事をするわけには……!!)
”盟約果たす白兎”から受けた効果は、生きている限り二度ともとに戻る事はない。
しかし、魔力を回復する方法が全くないわけではない。
ナノはあくまで自然治癒が出来なくなっただけであり、魔力を補充する器官が完全に失われたわけではないのである。
つまり、ナノが失った分の魔力を別の場所から補充すれば対処は出来るのである。
(でも、そのためには……私がナノに対してそういう行為をする、っていう事よね?)
つかさが危惧するのも無理はない。
魔力を補充する上で最も手っ取り早い方法が、『対象の相手と肌を重ねる』というモノだからだ。
この方法は余計な衣類を通さない事によって魔力の吸収率を上げるだけでなく、互いに淫気を催す事によってもともと内包している以上の魔力を発生させる、という利点があるのだ。
(……だけど、いくら効率を重視するからってナノの気持ちを無視してそんな事をするだなんて……!!)
そのように、つかさが悶々と苦悩していたそのときである--!!
「……私、つかさちゃんなら別に良いよ……?」
ナノがジッ……とこちらを覗き込んでいた。
その眼差しは熱に浮かされてはいるものの、根底には確かな強い意思が秘められていた。
「ナノ!?……あ、貴方、自分が何を言っているのか分かって……?」
「……うん、キチンと理解してるよ、つかさちゃん。そのうえで私はこの状態を何とかするために……うぅん、こういう状況すらも単なるきっかけにしちゃうくらい深いところで、私はつかさちゃんと一つになりたい、って思ってる……」
そう言いながら、ナノは普段の彼女からは想像もつかないような情欲の炎をくすぶらせた吐息を一つつき、つかさにそっと囁きかける。
「つかさちゃんは……私とそういう事するの、イヤ?」
「なっ……!?わ、私は……!!」
反論しようとするつかさに対して、その返事を言わせる間も与えずにナノの唇が重ねられる。
数瞬、思考が停止するつかさだったが、互いに激しい口づけを繰り返すうちに強くナノの身体を抱きしめながら、本能のままに官能に身を委ねていた-―。
「……私は何という事をしてしまったんだ……!!」
行為を終えてから、激しい後悔に襲われるつかさ。
必要に駆られていたとはいえ、長年のパートナーに対して情欲を剥きだしにしてしまうなど、冷静な自分らしくない!と自己嫌悪に押しつぶされそうになっていた。
「もぅ、つかさちゃんは細かい事気にしすぎ!早く、資料を探そうよ~!!」
そんなつかさとは対照的に、ナノはあっけらかんとした様子で率先して室内を探索していた。
割と子供っぽいところが多い彼女だが、こういう部分では割り切りが早いのか、とつかさは彼女の新しい側面を見つけて不思議と感慨深い気持ちになっていた。
(……結局、ナノの告白に対して私は答えられていないけれど、彼女はその事に対してどう思っているんだろう……?)
行為に没頭するあまり、自分の肝心の想いが伝えられていない。
だけれど、あまりにも急に物事が進み過ぎたため、自分の中でも上手く折り合いがついていない感情を言葉にしたところでそれはちぐはぐになるのではないか、ともつかさは考えていた。
そんな心ここにあらず、といった状態ながらも、的確に資料を見つけ出したのはつかさの方であった。
「え~!!今回、私の方が凄い頑張っていたのに~!」と文句を垂れるナノに苦笑しながら、つかさは見つけ出した映像データを早速再生することにした。