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バイクに乗る事2時間近く。
つかさ達は今回の依頼の舞台である”MOTELニンジン”へと到着していた。
「ふぅ、休む間もなく到着したわけだけど……ナノ、調子は大丈夫?」
「うん、私はいつでもOKだよ、つかさちゃん!」
連戦という形になる者の、互いに体調はベストコンデションのようだ。
そう判断したつかさは、ナノを連れて入口へと入っていく--。
――MOTELニンジン・1階――
「ミルクさんからもらった資料によると、この先の部屋に重要な資料が保管されているらしいけど……そう簡単にはいかないようね!」
つかさの視線の先には、4メートルはあろうかという巨大なウツボカズラが廊下を塞ぐようにしながら、その巨体を左右にリズム良く振るっていた。
この奇妙な植物こそが”16の友達”の内が一種・”腰振り肉食系植物”である--!!
セクシーな腰振りダンスを連想させるリズミカルな動きで、男性を自身のもとへと引き寄せ、体内に取り込んで養分にするという恐るべき性質を持った怪物なのである。
この”腰振り肉食系植物”の餌食になった男性は数知れず、この人類退廃の時代を招いた大きな要因と言っても過言ではない危険な存在なのだ。
「ふーん」
だが、そんな事は関係ないと言わんばかりにつかさが素っ気なく引き金を引くと、パン、パン!という乾いた2発の銃声が辺りに鳴り響き、それと同時に巨大なウツボカズラが崩れ落ちる。
当然の事であるが、”腰振り肉食系植物”の誘惑に引っかかるのは性欲旺盛な男性のような存在であり、女性であり割とクールなつかさにその動きが意味を為すはずがない。
つかさは敵性存在を仕留めると、先へ促すために後ろのナノへと振り返る。
「さて、邪魔者も倒したところで早く先へ行くわよ……ってナノ、アンタ何やってるのよ!」
見れば、ナノは先ほどのウツボカズラと同じ大きさをしたヒトデと戯れていた。
クッションに寄りかかるかのように身体をヒトデに預けたナノは、弛緩しきった表情でくつろいでいたが、その全身はヒトデの体液まみれでベトベトになっていた。
「……あ~、つかさちゃん?この子の体液でマッサージされていると、すっごい気持ち良くてリラックスできるんだよ~!」
「それは”癒しもたらす魔の福音”って言って……あぁ、もう!言ってるそばから!」
そう言っている間に、グパァ……!!と口にあたる部分を開きながら、緩み切っていたナノを捕食しようとしていたヒトデを撃ち抜くつかさ。
この”癒しもたらす魔の福音”も先程のウツボカズラと同じように、対象者を回復効果のある自身の体液で油断させてから、一撃で捕食し命を奪い去るという獰猛な性質を持った危険な生物なのである。
”癒しもたらす魔の福音”を倒したつかさは、起き上がるのを手伝うためにナノへと手を差し出す。
「うぇぇ、これ凄いベトベト~!!考えたら、やっぱり気持ち悪いかも!……って、つかさちゃん?」
粘液にまみれた状態でへたれこみながら、困ったような声をあげていたナノ。
そして、そこから一転して何かがあったのかとキョトン、とした表情でつかさを見上げる仕草。
ナノのそんな姿を見て、つかさの胸が高鳴る。
(な、何よこの感情は……!!違う、私はあの”腰振り肉食系植物”の動きを見ても何ともなかったんだから、そんな人間のはずがないじゃない!!)
ナノとは長年の付き合いだが、それでもこんな姿を見た事はなかった。
それが自分にこんな普段はあり得ないような、心境の変化をもたらしているだけだと、つかさは自分に言い聞かせる。
だが、そうして落ち着きを取り戻している内に、今度は別の疑問が浮かび上がってきていた。
(……ナノのこんな姿を見たのが初めて、っていうくらい、この”癒しもたらす魔の福音”という相手は私達が生活するエリアとは縁がない海辺を拠点としているはずの”16の友達”。……なのに、そんな存在がこの陸地に平然と棲みついている辺り、やはりこの研究施設はマトモじゃないようね……!!)
「?つかさちゃん……?」
「……ナノ、この研究施設にはやはり依頼された事だけじゃない、何か重大な秘密があるのかもしれない。今すぐ、この先の部屋にある資料を調べるわよ!」
「う、うん!!分かった!」
そうして、強力な2体の”16の友達”を撃破した2人は、資料が保管されていると思わしき部屋の中へと入っていく--。