初めての戦闘と魔物
バトルとタグにありますが筆者は戦闘描写が苦手です。
それをふまえて生暖かくご覧ください。
「この辺のはずじゃ」
本来村に向かう筈の街道を少し外れて林に入る。
嫌に静かだ。
「静か・・・ですね?」
「普通の野生動物逹は魔物の気配に気付いて逃げてしまったのじゃろう」
話をしつつもどんどん奥に進んで行く。
野生の勘何てものと皆無の生活をしていた俺でもわかるくらい、不穏な気配を感じる。
「そろそろじゃから油断だけはしないよう気を付けておくんじゃぞ」
「気を付けてって言われても困るんですけど・・・」
どうしろというのだろうか?
こちとら只の一般人に毛が生えた程度なんだけども。
「何を言うておるか、戦うのはお主なんじゃぞ?」
「はぁっ!!?」
ちょ、聞いてないんですけど!!
「お主は干渉系魔法の使い手じゃ。基礎は完璧に近い位に出来ておるし、『アストラ』を使えばそんじょそこらの魔物に負けはしない」
「そんな事を言われても戦闘技術なんて持ち合わせてませんよ俺?」
「魔法使いとしては肉体的な戦闘技術は必要としないんじゃ。『ファウラ』系は遠距離で戦うにはもってこいの魔法じゃ、支援もするから安心して戦うのじゃ」
そこまで言われたらやってみようという気にもなるけど、不安な事にかわりはない。
「本当に嫌なら無理にとは言わんが・・・。お主にそのつもりは無くとも弟子として扱ったつもりだったんじゃが」
リリア様は申し訳なさそうに俯く。
「いえ、やります」
折角ここまでお膳立てしてもらったのにやらないのはあり得ないし、リリア様にこんな顔をさせるなんて男として格好悪い。
「そうか、やるからには厳しくいくから覚悟しておくのじゃ」
「望むところです!!」
俺が決意を言葉にしたところで完全に周囲の空気が変わった。
昼間であるにもかかわらず辺りは暗くなった様に感じる。
「うむ、予想通り『のこりもの』じゃな」
「『のこりもの』?」
「動物の死体が人の悪意等を吸い込んで成長した魔物の一種じゃ。大した力は無いが比較的発生しやすく周囲に悪影響を及ぼしやすい」
話しているうちに目の前に影の様な黒い塊が現れる。
「『アストラ』」
まずは忠告通り『アストラ』の魔法を自分にかけ、相手から距離をとる。
「この魔物は動物とそう変わらないが狂暴さが極まっておる上に、必ず人間に襲いかかるのじゃ」
先手必勝!!
「『ファウラ』!!」
手を魔物に向けて叫ぶと軽い突風が起こる。
意外にも簡単に魔法は命中した。
『ガァァァァ!!!』
腹の底に響く様な叫び声が上がると、物凄い勢いで俺に飛び掛かる。
四本の脚で移動している事を考えても速い。
恐らく狼かそれに類する動物だと思うけど全身が影に覆われているため推察する事しか出来ない。
「余計な事を考えてる暇は無いのじゃ!!」
リリア様の声に緊張から考え過ぎてた頭が元に戻る。
しかし一瞬遅く前足らしき物に殴られてしまう。
「うぉ!?」
吹き飛んで近くの樹に背中から思い切りぶつかる。
「いってぇ」
で、済んでいるのが凄いですねはい。
普通死んでますね。
魔法が凄いのはわかってたけど殊更実感するわ。
「ほれまた余計な事を考えておるな」
「うおわ!?」
気付いたら追撃が来ていたので咄嗟にしゃがんで避ける。
「『アーナ』!」
今度は水を発生させて爆発させる。
『グルァァ!?』
魔物は先程同様に吹き飛ぶが『ファウラ』の時と違ってゴロゴロと転がっていく。
「よし!」
今度は油断せずに起き上がった魔物を観察しつつ警戒する。
すると何を思ったのかこちらを睨んでいた魔物がリリア様の方に向かって駆け出す。
「リリア様!?」
「愚か者め死に急ぐ事もなかろうに」
リリア様が軽く杖を振る。
「『イルグラキアス』」
空中に大量の氷柱が出現し、そのまま魔物を串刺しにした。
魔物は地面に倒れると同時に黒い影は霧散し姿が現になる。
「まあ最初にしては上出来なのじゃ」
今回は倒せなかったが及第点は貰えたようでなによりかな。
ちょっと悔しいけど。
「これが正体か」
それは小ギツネだった。
「明らかにさっきより小さい気がするんですが?」
「肉体が肥大していたのでは無く、纏っていた悪意が大きく見せていただけなのじゃ。肉体は変質し、精神は狂暴化する」
リリア様はしゃがみこむと小ギツネを抱き抱えた。
「すまんのじゃ」
「リリア様・・・」
「さ、少し離れておれ」
リリア様は再び小ギツネを地面に置くと杖を振るった。
「『イグナス』」
リリア様は小ギツネの死体を燃やした。
「このままでは埋めてもまた魔物化してしまうのでな」
ん?『イグナス』?
「さて、行くとするかの」
気を取り直してと言うように笑顔で俺の方を向く。
「あの、一個聞きたいんですけど」
「ん?なんじゃ?」
「リリア様属性いくつ使えるんですか?」
するとリリア様ニヤリと笑った。
「儂に出来ない魔法は基本的に無いのじゃ」
物凄くドヤ顔である。
改めて大賢者というのは規格外なんだなと思った。
「賢者達も似たようなものじゃからこれで驚いていたら大変じゃぞ」
賢者はみんな規格外らしいですね。
「頑張ります」
俺はこれからを想像して若干うんざりしかけたのだった。




