リリア様の実力の一端と『従者』
お久し振りです。
待っていた方はどうぞ。
「さて・・」
俺がなんとか紙一重でもぎ取った試合も終わり、リリア様が一言言うと早速試合をする陣の中に入って行った。
「え、そんなあっさり行くんですか?」
「儂が戦う相手は知り合いじゃから問題ないのじゃ。呼び出すのに利用しただけじゃからな。それに万が一にも負けわせんから心配せんでもよい」
そう言ってリリア様は指定されている定位置まで足を進めた。
リリア様が定位置に着くと、目の前に光がシャドーウルフ同様に立ち上り、そこに一人の緑髪の美しい女性が現れた・・・・・・とても安眠状態で・・。
「・・・むにゃ」
鞄を枕にし、掛け布団代わりのローブを体に被り寝ている姿はとても敵の姿とは思えなかった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
リリア様以外の自分を含めた三人は流石にフリーズしてしまい、何も言葉が出てこなかった。
「面倒な時に呼んでしまったのじゃ。よりによって睡眠時とは・・・」
リリア様がその寝ている女性を見てぼやく。
溜め息を1つつくと足を女性の方に踏み出す。
すると途端に彼女の周囲に魔方陣らしきものが複数展開されたかと思うと、四方に電撃が散らばった。
「『マウテラ』」
リリア様杖を地面に当てるて『テラ』系統を発動。
目の前に天井に届きそうな壁が出現する。
電撃を弾いた後瞬時に壁が消えるとリリア様は再び歩き出す。
すると今度は巨大な魔方陣が展開され、見上げる程の大きさのハルバートらしき物を持った鎧が出現した。
素早くハルバートがリリア様に向かって降り下ろされる。
「『セクレトゥムアナ』」
これもリプレイを見ている様に同じ動作で杖を地面に付けると、杖の先から青色の波動が地面を伝って鎧を包む。
ハルバートがリリア様に当たる直前鎧が静止する。
静止して数秒間無音が支配した後、突然鎧はばらばらになり光となって消えた。
「俺も数ヶ月一緒にいて分かっていた事だけどリリア様凄すぎますよ・・・」
俺はおもわずボソリと呟く。
「私も賢者って存在は凄い存在だと教えられていても、会った事は無かったから実際に目の当たりにするとすさまじいわね。まさにレベルが違う」
そう言うファイリスさんはリリア様を見て魔法一つ一つに驚愕しているようだ。
そうこうしているうちにリリア様が、一歩近付く度に繰り出されるさまざまな魔法を魔法で対処していく。
とうとう目の前迄来たところでリリア様が膝まずく。
「『楽天守護解除』」
そう呟いた後女性を揺り起こしはじめた。
「これアマネア起きんか」
寝ている女性はアマネアという名前らしく、名前を呼びながら更に激しく身体を揺する。
「ん?・・・んん・・・・えぇっ!?」
パチリと目を開くと、驚愕したのか大声を出して震えだした。
「やっと起きたか」
「り、り、り、リリア様!!?」
「顔を忘れたと言うなら思い出すまで見てもよいぞ?」
「いえいえ!結構です!」
アマネアはぶんぶんと首と手をを振り後ずさると、しゅたっ、と直立不動で立ち上がり敬礼した。
「リリア様大変お久し振りです。約5年振りですね」
何とか取り繕う事に成功したのか慌てた様子が無くなり、笑顔で対応してきた。
張り付けた様な笑顔なのと、頬がひきつってなければ完璧だったんだけど・・・・。
「何を白々しい。ここ数日づっとついてきておったではないか」
「・・・・ばれてたんですね。結界魔法や探索魔法には触らない様についていってたのに」
ガックリとその場に膝と手をついて絶望しているようだった。
「お主寝るときに守護魔法が発動しているのを忘れとるのか。賢者の従者という自覚があるのかのう」
「あ・・・・・」
とうとう膝をつく気力すら無くなってしまったのか完全に倒れてしまった。
30分後・・・
「改めまして、私はアマネア・リース。『楽天』の賢者サリネテス様に仕える『従者』です」
「俺は黒木統夜っていいます。今は訳あってリリア様のお世話になっている者です」
お互いに向き合って頭を下げあう。
俺の自己紹介を聞いた途端に顔を上げてこちらをじっと見てくる。
「なっなんですか?」
「・・・リリア様の『従者』じゃないんですか?」
ん?『従者』?
「俺は一応従者みたいなものですけど・・」
「いやそういう意味では無くって・・」
「アマネア。それは必要になったら儂が教えるのじゃ。それ以上の詮索はするでない」
大声を出した訳でも無いのに物凄い威圧感がある言葉で、俺に向けられた言葉では無かったにもかかわらず冷や汗が止まらなかった。
リリア様怖いよ。
「分かりました・・・」
アマネアは尚も俺の事を不思議そうに見つめていたが、不意に視線を切るとリリア様に向き直った。
「それでこれから神殿に向かうんですよね?」
「まあ折角直通の道を作れる場所におるのじゃ。神殿での用事を済ませてしまうとするかの」
ニーリスさんにさっき話を聞いたところ、主要な場所にはリリア様の許可さえあれば何処にでも出口を繋げられるらしく、ファイリスさんとテインさんは王都に帰るのだそうだ。
そこで俺とリリア様は向かう予定だったこの大陸の神殿に直線行ってしまうとの事だった。
「本来の予定とは異なってしまうのじゃがアマネアを放置していく訳にも・・・別にそれでも良いといえば良いの」
「リリア様~!?」
リリア様の容赦の無い言葉に若干涙目になりながらすがり付く。
神殿に行くつもりなのはさっき聞いているから単なる意地悪だろう。
ここ最近つけられていたらしいからその仕返しかもしれない。
「えぇい行くに決まっておろうが!冗談じゃから離れるのじゃ!」
魔法が無ければ非力なリリア様はすがり付くアマネアを振りほどけない様で、自分の体を振ったりぽかぽか音がしそうな小さな手で頭や体を叩いていた。
「神殿の方角とは違ってしまうからもうお別れだけど、もし王都に来ることがあったら歓迎するよ」
「出口が繋ぎ終わったみたいだから私達は一足先に行くわね」
「はい。短い間でしたがお世話になりました」
「いや君がいなきゃここを無事には出られなかったよ」
テインさんは頭に手を乗せながらお礼を言った。
「でもそもそも俺達に会わなければ巻き込まれる事も無かったかもしれないのに、ましてやお礼なんて」
俺が申し訳なさで謝るなかで、二人はニーリスが作った出口をくぐるまでお礼と笑顔を絶さなかった。
「儂等も行くとするかの」
二人を見送って直ぐに俺達も出発するのに、ニーリスが出口を繋げる数分に準備をしていた。
実は外しっぱなしだった指輪をはめ直した。
あれ?
そういえば迷宮の中で見えていた線が見えなくなっていた事に全く気付かなかった。
まああれは突然見えたもので、見えた理由も能力も正確に把握出来ていなかった代物だ。
便利ではあったけど、副作用や代償があっても怖いよから良かったのかもしれない。
「ニーリス、そのうち妖精郷の方にも顔を出すつもりじゃ。その時にでもザブ族全体の事はどうにかするように話をするつもりじゃから、それまで暫くは大人しくしておる事じゃ」
「はい。その時は妖精郷の方に私も出向きますのでよろしくお願いいたします」
ニーリスはゲーム中に見た様子は鳴りを潜め、一族の代表として全てを背負っている険しい表情をしていた。
そうこうしているうちに目の前に出口が開く。
「ではの」
そう言ってリリア様は出口へ向かう。
俺達三人が出口をくぐる瞬間迄ニーリスは頭を下げ続けていた。
「っ」
いままで過度な光が当たっている所にいなかったせいか、強烈な光が視界を埋めつくした瞬間目を瞑り腕で影を作った。
「思ったより時間がかかってしまったのじゃ」
「太陽の光が眩しいです」
「やっと帰ってこられました」
三者三様の反応を示しつつ神殿らしきものを見上げる。
周囲を見渡すとそこは山の頂上に位置する、ギリシャにありそうな正に神殿という感じの建造物だった。
白を基調として青色が混じった色合いの建物で、石、というか大理石の様な材質で正面には太い柱が沢山建っており、そこに硝子が嵌め込まれている屋根が乗っている。
柱の中を覗くとそこには明らかに過剰にでかいこれまた大理石っぽい扉があった。
「こんなの開けられないんじゃ・・・」
「『開門』」
リリア様が言葉を呟くと、大きな音を発てて扉がひとりでに開いていった。
奥に進むと大きな広間がある空間にたどり着いた。
更に奥はどうなっているか分からないが、広間には玉座の様な椅子と大きな鏡が1つあるだけだ。
そしてその椅子に真っ赤な長髪と金色の目をした少女が足を組んで座っていた。
「遅かったじゃないアマネア」
にやり、と笑ってとても楽しそうに言ってきた。
「サリネテス。お主の性格は理解しておるが、些か悪趣味が過ぎるぞ。従者であるアマネアを自分の楽しみの為に神殿から離れさせるのは本末転倒じゃぞ」
リリア様が渋い顔で恐らくこの少女が賢者なのだろう、サリネテスと呼ばれた少女に苦言を口にした。
「良いじゃないちょっと位。毎日暇なんだしさ」
「暇が聞いて呆れるのじゃ。ここに来る迄に二ヶ所も魔獣になる瞬間にであったぞ」
「・・・・本当に?」
リリア様のその言葉を聞いた途端に、さっきまでのにやにやした表情がひきつった。
「サリネテス様本当のようです」
「いくら私が真面目さにかけるとはいえ、いくらなんでもそんな状態を放置はしないけどなぁ」
おかしいなぁ、という様に頭を掻いている。
「まあその詳しい話しは後でするのじゃ。一日はここに滞在する事になる。部屋の用意を頼む。トーヤ、サリネテスに挨拶するのじゃ」
リリア様に呼ばれたのでサリネテス様の前に立った。
「あんたがリリア様の連れか。間近で見るのは初めてだけどやっぱり普通の人間みたいね」
「リリア様と一緒に旅をさせてもらっている、黒木統夜といいます。よろしくお願いします」
俺は頭を下げる。
俺が挨拶をしている間にアマネアがサリネテス様に近づき、耳元で何かを囁いていた。
「クロキトーヤ・・ね。しかも『従者』でも無くただ連れ歩いてるだけ・・・ね」
俺には聞こえなかったがアマネアが囁いた内容を聞いて、小さく何かを呟いた。
「まあとりあえずザブ族の件では疲れたでしょ?ゆっくりしてってくれ」
サリネテス様は立ち上がり玉座より更に奥のへと促す。
「はいお世話になります」
俺は再度サリネテス様に頭を下げると、リリア様と共に後ろを着いていった。




