とある日の回想【ノノ・ルーイン・クリスタ】
仲間が増えると思いましたか?
残念ながらそうそう仲間は増えません。
これは【二人】の旅だからです(^^ゞ
一時加入はあるかもね。
三百年程前のとある日のお話。
とある街の路地裏を1人の獣人が走っていた。
何かから逃げている様に見える。
ぼろぼろの服に、服だけでなく手足や顔も汚れていた。
背中には布袋を背負い賢明に四足でかけている。
盗みでも働いたのだろう、背後の数百メートル先で獣人を探す様な声が所々から上がっている。
「ちっ」
舌打ちをした顔は忌々しげに歪められ逃げる道を探さそうと辺りを見渡す。
前からも微かにだが声がする様で、逃げる道は1つしかなさそうだった。
路地で唯一声と匂いのしない方角に曲がるとまた凄い速さで駆け出す。
追手の声も聞こえなくなった頃に獣人は速度を落とした。
いくら獣人とはいえあまりに長時間走り続けていた為に流石に疲労が表情に現れていた。
「やっと追い付いたのじゃ、なかなか早いよようじゃな獣人よ」
そう背後から声が聞こえ、即座にその場から飛び退く。
速度を緩めたとはいえ気を緩めたつもりはなかった獣人は、目の前に立つ幼い人間が只者ではない事を感じ取り臨戦体制をとる。
「てめぇあの人間達の仲間か?盗んだんだから追われんのは当然だ。だがあたしは捕まるつもりはないからな!じゃあな!」
すぐさま振り返り加速しようとしたが獣人は急ブレーキをかける。
何故なら目の前に巨大な壁が現れたからである。
「まあ待つのじゃ。儂はお主を捕らえに来たのでは無いのじゃ」
この壁を作ったのがこの人間だと分かった獣人は警戒を強めつつ話を聞く。
「あたしに何の用だ?」
「お主じゃろ?最近密輸されておる獣人の商人を襲って獣人を保護しておるのは?」
その言葉を聞いた瞬間獣人は人間に飛び掛かった。
子供だとか女だとか関係なくそれに関係しているなら生かしておかないという殺意に満ちた一撃だった。
普通の人間ならこれでズタズタに引き裂かれて終わりだった筈だ。
「お主話しは最後迄聞くものじゃぞ?」
しかし飛び掛かった方向とは逆方向、獣人の背後から声は聞こえた。
「っ!?」
しかも自分が全く身動き出来ない事に気付いた獣人は更に敵意を強めて声を上げる。
「てめぇ何もんだ!」
「儂は名乗っても信じてもらえんじゃろうから今は名乗らん。しかし密売人やら商人やらとか関係が無いのじゃ」
「あたしに何の用なんだよ?」
「やっと話を聞いてくれるか。では単刀直入に言うぞ。数の少なくなった獣人を集めて町を作って回っておる、そこのまとめ役をやってみんか?」
「!?」
それは獣人が幼いながらに夢見ていた事だった。
自分が無力だと思っていても諦めず、今の獣人の境遇を良くしたいと思っていた。
でもそんな事は今の世界の獣人が全員思っている事である。
迫害され、暴行され、殺され、飼われ、蔑まれてきた現状はそう簡単に覆せる物では無い。
「あんたに!!人間に!!あたしみたいな子供に!!何が出来るって言うんだ!!!」
それは現状を憂いていてもどうしようもない現実でもあった。
「お主にはある力の素質が見える。その存在を探していたのじゃがやっと見付けた。お主は『真名』を持てる獣人じゃ」
「『真名』!?」
それはこの世界に暮らしているなら誰もが聞いた事があるものだった。
「あんたが・・・『あの』大賢者だって言うのか?あんたみたいな子供が?」
賢者が外見で判断出来ないのは知っていても信じられないほど幼い容姿。
いったいどれほど幼い頃に大賢者となったのか・・・・。
「『あの』と言われても分からんが、儂が大賢者なのは事実じゃ。お主を動けなくしているのも壁を作ったのも儂じゃ」
「・・・・・・何であたしなんだよ・・・」
再度獣人は問い掛ける。
「さっきも言ったが『真名』を持ち特殊な力を持つ事が出来る才能があるからじゃ。お主の様な幼い者に重責を負わせるのは申し訳ないが、お主をそこらの人間に殺される訳にはいかんのでな。獣人の現状も楽観視出来るものでもなくなってきておる」
沈黙し何かを考えている様子の獣人。
大賢者を名乗る者も、答えを待つ様に口を出さずにいた。
暫くした後に獣人は顔を上げた。
それは決意を持った表情に見える。
「分かった。やるよ」
「お主の名前は?」
「ノノ・クリスタ」
「ではこれよりお主は名を改め、『ノノ・ルーイン・クリスタ』を名乗るのじゃ」
そう人間が言った一瞬ノノは光輝き、目をつむって立っていた。
「これでお主は歳をとることは無くなり、賢者と同等の力を持った。儂の直系になったのじゃ。魔法は感じるかの?」
「ああ感じるよ」
目は瞑ったままだ。
「ではお主は獣人の為に生きる事を儂に誓えるか?」
「誓う。皆が自由に暮らせる場所を大陸中に作り、迫害されない様な世界を作る為に力を使う事を誓う」
「では目を開き名前を言うのじゃ。その瞬間からお主は獣人達の希望になるのじゃ」
ノノは目を開き高らかに告げた。
「私はノノ・ルーイン・クリスタ!どんなにかかっても獣人を私の庇護なく暮らせる様になるまで守り続けると誓う!」
路地裏で起こったこの出来事を知る者はいない。
この場所にいた二人以外には。
ずっとずっと昔のお話。
とある二人の出会いのお話。




