獣人村騒動【9】
視点【統夜】
「ちょっとー!!俺達が死ぬのを待つ魔獣じゃなかったんですかノノさん!?」
「そんなこと言ったってー!!魔獣の生態なんて完全に把握されてないんだから仕方ないのよー!!」
「ノノ様そっちもう危ないです!!私の方に来て下さい!!」
「キャー!!」
今俺達がどういう状況かと言えば魔獣に溶かされかけていた。
厳密に言えば腹にある別空間らしいがそんなこと小難しい事分からないし。
俺達が呑まれて30分位たった頃だろうか、急に足元からマグマ状の物が吹き出し始め、周囲を溶かしながら飲み込みだしたのだ。
「これ助けてもらうのを待ってるとか言ってられる状況じゃなくなったんじゃないですか!?」
「でもそれ以外手立てがないよー!」
「トーヤお前何とか出来ないのか!?」
「無茶言うなよ!!」
俺達が困りまくるなか、頭に声が響く。
『トーヤ、そこにおるのか?』
『リリア様!?』
ヤバいこの状況での連絡とか惚れます。
感動でテンパる俺を無視する様にリリア様は続ける。
『今からそちらに向かって空間に穴を開ける。その穴から出たら振り返らずまっすぐ逃げるのじゃ。よいな?』
『はい!!』
実は何で連絡出来たのかとか気になるけど、今はそんな余裕は全くない。
それにリリア様なら敵がわかれば何をしても不思議はないと思った。
「二人共今からリリア様が助ける為にどこかに穴を開けるから!穴から外に出たら振り返らずにまっすぐ逃げる事!分かった人!?」
「「はい!!」」
最早逃げ場が後数秒後には無くなる二人は即答である。
疑問を挟む余地なく聞き分けもいい。
『ではゆくぞ?ディバインアーツ!!』
リリア様の声が聞こえると、まるで金切り声の様な音をたてながら空間に斜めに裂け目が出来ていく。
「よしいまっ・・!」
「ノノ様!!!」
今まさに脱出と言う所でノノ様が足を滑らせる。
「くっ!」
俺は助けに飛び出そうとしたマナを裂け目に蹴り飛ばした。
「何し・・・!?」
あっという間にマナは裂け目に吸い込まれ見えなくなる。
俺は落ちる寸前のノノ様に手を伸ばし辛うじて掴む事に成功する。
しかしもう本当に時間がない。
「歯を食い縛って!!」
「っっっ!」
ノノ様を抱き寄せて頭を抱える。
「アルファウラ!!」
自分を風で思い切り吹き飛ばす。
「間に合え!」
ギリギリ届くか届かないかの距離まで来て手を伸ばす。
無理か!?
諦めかけた瞬間ノノ様が叫ぶ。
「『手は届いたーー』!!」
その瞬間自分達は裂け目に到達したのだろう、景色がマグマの空間から森になり地面に転がる。
考える暇も無くなんとか起き上がると、そのまま駆け出す。
「なるべく離れるのじゃトーヤ!!」
目の前にいたリリア様がこちらに向かって叫ぶ。
「グラキアリス!!」
リリア様が魔獣の樹に手をかざし唱える。
振り向くと魔獣が一瞬にして凍り付き、瞬間姿が変わった。
「終わりじゃ」
リリア様は杖で二回コンコンと地面を突く。
『ギギィィィィ!!!』
その瞬間氷は砕けちり魔獣は断末魔らしき鳴き声を上げると動かなくなった。
「終わったんですか?」
「ああもう心配ない。それよりノノをもう放してやるのじゃ。目を回しておるぞ?」
「あ・・・・」
咄嗟に抱き締めていた両手を離す。
「にゃー・・・・・」
初めて聞く実に猫らしい鳴き声を上げた後に、ノノ様は真っ赤な顔で目を回し倒れた。
「と、とにかく一件落着ですかね?」
恐る恐るリリア様の方を見ると、いつの間にか隣にはマナも立っておりこちらを見ていた。
「お主は説教に」
「決まってるだろ?」
二人で俺への死刑宣告を言い渡した。




