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放課後、俺達、現代社会研究部のメンバーは、アリサ会長と共に、会長行きつけの喫茶店に来ていた。
すると、道中もずっと黙っていたほのかが口を開いた。
「はるくん。私達でみんなでケーキでも食べようって言うなら、私は構わないし、全然理解できるんですよ?......なのに、なんで星羅院会長が居るんです?それも、仲よさそうに、はるくんの隣に座って」
ここに来るまで他のメンバーは全員無言だったので、俺は内心困っていた。
ほのかが話し始めてくれて、安心はした。
しかし、よく見ると、顔は確かにニコニコしているようだが......目がどうやら怒っている。
お、俺、なんかしたのか?
「いや、実は今日はみんなに、話さないといけないことがあってさ。それが......えっと」
俺が口ごもっていると、隣に座っていたアリサ会長が見かねた様子で話し始める。
「まあ、この話は春翔くんはしづらいでしょうから、私が話しますわ、それはーー」
アリサ会長が話し始めると皆、ピクッと反応した後、俺の方を睨んで来る。
あの、本当に俺、何かしましたかね?
すると、アリサ会長はみんなに話を聞いてもらえていないと思ったのか、咳払いをしている。
「こ、こほん。皆さん聞いていますの? 今日皆さんを集めていただいた理由、それは、大変言いにくいことなのですが......皆さんのうちの誰かが、我が学園の生徒会庶務、梅野桜子を殺した。ーーそういう噂が学内で流れている、ということをみなさんにお伝えするためですわ」
アリサ会長の言葉を聞くと、殺伐としていながらも暖かい雰囲気でいたみんなの雰囲気が、瞬時に冷たいものへと変わった。
そして、暫しの沈黙の後、今度は刹那先輩が無表情で口を開く。
「それは、随分な言いがかり。なんで、私達が梅野桜子を殺さなければならないの」
刹那先輩はアリサ会長を睨みつけている。
それは、そうだろう。
身に覚えのない疑いをかけられ、しかもそれが学園中に知られているとなれば、そういう反応をしてしまうのもうなづける。
「さあ、私もそこまでは知りませんわ。それにただの噂ですし、気にすることもないと思います。ただ、そういう噂が流れている、そのことはお伝えしておくべきでしょう?」
アリサ会長がそう言うと、今度は風莉さんが普段とは違った真剣な目でアリサ会長を見つめている。
「まあまあ。さしずめ、最近春翔さんを引き入れようとしている生徒会に対する報復。その噂の理由はそんな風に言われているんでしょうけど......なんて随分な言いがかりですかね。根も葉もない噂ですし、そもそも、それで人を 殺すだなんて意味がわかりません」
確かに、風莉さんの言う通り、そもそもこの噂は意味が分からない。
道理も何もあったもんじゃないだろう。
人1人を殺す理由ーーそれが常識的に考えて、こんなに軽いものであるはずがない。
今日はなんでそんな噂が流れてしまったのか、そして、流れてしまった噂への対応策を考えるべきだとアリサ会長と昼休みに話していたことを思い出す。
「そう。それで今日はーー」
俺が話し合いの舵を取ろうとした時、突然、杏里が手を挙げる。
「はいっ!はるにい。ちょっと待って!」
先程から不思議そうな顔をしていた杏梨までが話に加わってきた。
一体、何の話だろうか。
「そもそもさ、梅野さん、だっけ?その人が殺されたって言われているならさ。僕たちなんかよりもずーっと、会長さんの方が怪しくない? 生徒会の事情についてははボクあんまり知らないけどさ、少しくらい問題ごととかありそーじゃん!?ねえ、みんなもそう思うでしょー?」
なっ!?杏梨......?何を......?
「お、おい、何を言ってるんだ杏里!!今日はそんなことを話に来たんじゃなくて、その事実に対して対策をーー」
「まあまあ。確かにそうですね。そっちの方が信憑性があります!」
ちょっ!?風莉さんまで?一体何を考えて......
「そうだね。あんりにしては、冴えてる。私も、その通りだと思う。星羅院の方が、怪しいよ」
「そうです!きっとこいつが犯人です!だとしたらはるくん。今すぐ星羅院会長から離れてください!人殺しの隣なんて、危ないですよ!!!」
ちょっと、みんな。急にどうしたんだ。何を......言ってるんだ?
「ちょっと待てよ! 今日はそんなことを話しに来たんじゃーー」
俺は再度話の方向性を変えようと、言葉を発する。
しかし、会長の様子を見て、言葉を詰まらせてしまった。
「私が......私が、梅野を殺した。そう言いたいんですの?」
アリサ会長は目に涙を浮かべ、体を震わせている。
だが、ほのか達はそれに気づいていないかのような態度で、アリサ会長をまくしたてている。
「そう、だよ。お前が殺した。それでそれを私達になすりつけようとしてる」
「あらあら。随分と白々しいですわね?」
「星羅院会長、早くその汚い手を、はるくんから離してください!」
「はるにい。そいつ、血の匂いがする。早く離れてよっ!」
くそ、こいつら、何を考えてっ!!!?
「お、おい、ちょっとみんな待てよ!! そりゃ、いきなり殺人犯に疑われてるってことを知らされて、気分悪いのは分かるけど、いくらなんでもそれは横暴だろ!??」
俺は、店の中だというのに思わず大声をあげてしまった。
だが、俺は間違っていないはずだ。
いくら自分たちが疑われて、気分が悪いとはいえ、いきなりその噂を伝えてくれた人を犯人扱いって......何を考えているんだ!!
だが、アリサ会長は涙を制服の袖でぬぐうと、いつもの毅然とした態度に戻っている。
「いえ、大丈夫ですわ。春翔くん。これではっきりいたしました」
そう言うとアリサ会長は、みんなのことを見ることなく、店の外へと出て行ってしまった。
俺が追いかけようとすると、隣のほのかに袖を掴まれる。
「はるくん待ってください!どこに行くんですか?あんな女、どうだっていいじゃないですか!! あの女は私達からはるくんを引き離そうとしてるんですよ!?そもそも、そんな人1人死んだくらいで、何をいちいちーー」
「っ!!!」
俺は、気付くと俺の制服をつかむほのかの手を、思いっきり振り払っていた。
他のメンバーを見ても、ほのかと同様に俺に「なぜ?」という目を向けている。
「みんな、ちょっとおかしいよ!!アリサ会長は、みんなが噂の被害を受けずに済むように話し合いをしようって。今日のこの時間を作ってくれたのに.......っ!!」
俺はみんなにそう言うと、急いでアリサ会長の元へと向かった。
ーーーーーーーーーー
「......はあ。はるくんに怒られちゃいましたね.......それで、実際あの目障りな生徒会役員を殺したのは、誰なんです?」
芒野ほのかは、春翔が店を出て行くのを確認してから、残りのメンバー三人にそう問いかけた。
「私、じゃないよ。確かにはるとによりつく虫は、排除したいけど、それではるとが悲しむなら、私はしない。だって、のことを思っての、行動だからね。........もしかして、その、梅野って子を殺したのは、ほのか、なの?」
朝比奈刹那が疑いの目を向けながら、芒野ほのかに問いかける。
「違いますよ。私だって、同じ気持ちなんです。はるくんに寄り付く悪い虫は排除しなきゃいけない。だけど、それではるくんが悲しむのは見たくない。逆に、そんなことをするやつのほうが、私は許せません......ですが、せっちゃんの話を信じると、犯人は風莉さんか、あんちゃんってことになりますね。さっきは『噂』とか言われてましたけど、根も葉もない噂が広まるっていうのは、あまり考えにくいでしょう?もしかしたら、誰かがその姿を見ていた。だとか......」
芒野ほのかがそういうと、今度は来栖杏里がほのかに疑いの目を向けている。
「さっきからさ、ほのちゃん、ずいぶんとたくさんしゃべるよねー。なんか怪しいなーっ。疑わしい人ほど、よく喋るって言うじゃん?それに、もちろん犯人はボクじゃないよーっ。はるにいになんかうざいのがくっついてきてたのは知ってたけど、さすがのボクも、そこまでしないかな。はるにいに、嫌われちゃったら嫌だもん」
しかし、先ほどから黙っていた祁答院風莉は、来栖杏里を見つめている。
「あらあら。そうですか?私は杏里さんならやりかねないと思ってましたのに......杏里さんは、暴走することが多いですから。今回のことも、杏里さんが春翔さんのことを思って、暴走してしまったのかと......」
「だから!!ボクはそんなこと、しないってば!!!」
杏里がそういうと、全員が暫しの間沈黙を守っている
「私は、その犯人を許しません。あのお邪魔虫を消してくれたのはありがたいことですが、はるくんはわたしのはるくんです。もしこの中にいるなら、余計なお節介はやめて下さい」
芒野ほのかがそういうと、他のメンバーは全員顔をしかめる。
「なにいってるのー?はるにいはボクのだよ?ほのねえは黙っててよ」
「なにをいってるのか。はるとは私の。みんなは手を出さないで」
「あらあら。春翔さんは私とは運命の相手ですよ?皆さんなにを勘違いしているんですの?」
「はあ......長年こうなんですから、わかってはいましたが、これでは埒があきませんね。ですが......どうでしょう?この際、その犯人を見つけ出し、警察に突き出してやりませんか?犯人以外は、そうやってはるくんを悲しませることは許せないみたいですし。それで一件落着でしょう?」