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 ゴーン ゴーン ゴーン





 遠くから、鐘の音が聞こえる。



 俺は誰かにお腹を刺され、その後頭を潰されたらしい。



 くそっ、体に力が入らない。相手が何か言っているようだが、鐘の音がうるさくて聞こえない。


 起き上がることすらできないなら、せめて、せめてを刺した奴の顔だけでも......




ーーーーーーーーーー



「え、あ、はるくん、お、おはよう」


「......え?」




 気がつくと目の前には、ほのかがいた。


「な......っ!?いや、さっき、俺は刺されて、死んで..........あ、うぅっ......」



 先ほどの状況を思い出すと、胃の中の物が逆流しそうになる。


 口を手で押さえて吐きそうになっているのを堪えていると、ほのかは慌てた様子で謝ってくる。



「あ、や、はる......くん?ご、ごめんっ、なさいっ、そんな、起きてたって気付かなくて、えっと.....きゃっ!?......あ、あれ?はるくん?」



 俺は、先程の死の恐怖から逃れるために、みっともなくもほのかに抱きついてしまっていた。



ーーーーーーーーーー



「はるくん?落ち着きました?」



 しばらくした後、俺がほのかから離れるとほのかは心配そうな目で俺のことを見つめてくる。


 やばい、状況が状況だったとはいえ、何これ、もの凄く恥ずかしい。朝起きて急に抱きついて、さっきまで頭を撫でられてたとか.......うわあ。



「わ、悪かった、ほのか。その......変な夢見ちゃってさ。ところで、変なこと聞くようで悪いんだけど、今日って何月何日だか、わかるか?後、今何時だ!?一応、西暦もつけて、教えてくれ」


 すると、ほのかは不思議そうな顔で首をかしげる。


「どうしたんですか?はるくん。えっと、今、ですか? 時間はまだ6時半で、日にちは2016年の11月10日ですよ?」


 ......まさか。


 夢、いや、そんなはずはない。


 俺は確かに、2016年11月10日を既に『一度』体験している。


 そう、さっきまで、俺が刺されて意識を失うまで、俺は2016年の11月10日に生活をしていたのだ。


 そしかし、俺ははっきり言って、さっき自身に起こった死の体験が、偽物であるとは到底思えなかった。


 異物ようなものが体の繊維を切り裂き体内に入り込んでくる感覚。


 そして、胃からは血が逆流し、傷口から流れ出る生暖かい血の感覚も、正しく本物だったように思える。


 あれが夢であったはずがない。



 だけど、ほのかが教えてくれた日時は、さっき俺が刺された日の朝。一体、なにが起こったのか。



「は、はるくん? あの、顔色も悪いですし、今日は学校はお休みしますか?皇君にでも連絡してノート取っておいて貰えばーー」


「いや、大丈夫。本当に悪い夢を見ただけ。心配かけて悪かったな。それより、急がないと学校遅刻しちゃうな、ほら、お前がいると、俺は着替えられないだろ?着替えるから、ほのかは出てった出てった!」



 俺はどうにか心配するほのかを部屋の外に出し、制服へと着替え始める。


 はっきり言って、学校になど行きたい気分ではない。


 だが、そうも言っていられない。もしさっきまでのことが夢だとしたら、今日は確認しなければならないことがある。



 そう、もし夢だったなら、梅野さんは亡くなってなんかいないはずなのだから。



ーーーーーーーーーー



 学校に行くと、校門にはやはり人混みが出来ていた。


 やっぱり、そうだったか......


 俺は、見覚えのある光景に、思わずため息をつく。


 本当に今日の朝にタイムスリップしてしまったみたいだ。


 俺はあたりを確認し、前回と同じ位置に皇の姿を見つける。


「皇、なにがあったんだ」

 

 俺がそう聞くと、皇は前回と同様、神妙な面持ちで、事件の詳細を語り始める


「神宮寺、ああ、じつはーー」



 皇から話を聞くと、やはり俺が意識を失う前と同じ状況であることがわかった。


「まあ、そうは言っても、ちょっと気になる事があるんだよな......そうだ、この事ーー」



「待ってくれ、気になること、気になることって、何なんだ?」


 俺は前回聞き流してしまったことを、皇に聞き返した。この前はそれほど気にしてはいなかったが、状況が状況だ。


 どんな情報でも逃すことはできない。


 俺がそうたずねると、皇はバツの悪そうな顔をしている。



「いや、な、実はなんでかよく分からない噂が流れてるんだ........なんでも、今回の事件、実は自殺じゃなくて殺されたんじゃないか。しかもその犯人ていうのが.......」


 そこで皇は口ごもってしまう。


 なんだ、なんだっていうんだ?



「おい、どうしたんだよ、そこまで言ったなら聞かせてくれよ」



 俺がそういうと皇は決心したかのように真剣な目になる。


「聞いても怒るなよ。もちろん、俺はそう思ってはいないんだからな?噂っていうのは......お前ら、現代社会研究部の誰かが、梅野さんを殺したんじゃない............そういうことだよ」



 ......なっ!?なんだって!?



「な、なんなんだよそれっ!??」



 俺は思わず声を荒げる。噂にしてもそんなこと、ふざけている。だが、皇は真剣な顔で話を続ける。



「いや、もちろんそんなはずはない。気になることっていうのはつまり、そんな噂を誰が流したのかって話しだ。 お前らに気付かれる前に噂の元を潰そうかとも思ってたが、まあ、お前も当事者だしな。一応話しておくべき、と思って今話しただけだ。」


「あ、あぁ、そう、だったのか。声を荒げて悪い......ちなみに噂の内容って、どんなものなんだ?もう少し詳しく教えてくれるか?」




 皇の話によると、噂の内容はこうだ。



 生徒会は現代社会研究部に対して、廃部勧告を行った。


 現代社会研究部の1人が引き抜きに応じて、生徒会に入ることで話は無くなったが、その他の部員が生徒会役員を逆恨みして自殺に見せかけて殺した。


 皇によると、聞くたびに少し話は違うらしいが、おおよそそんなところだという。



 はっきり言って意味がわからない。


 そもそも、「廃部勧告を受けた事から人を殺す」という発想は、話が飛躍しすぎだし、もしそうだとしたなら、狙われるのは生徒会のトップ、アリサ会長のはずだろう。



「だから言ったろ? この噂に整合性なんてもんはない。だけど......流石の俺も、大切な友達を、そんなたちの噂で苦しめようとしている奴がいるなんて......ってな。俺はそれを許せないんだよ」


 ......こいつは。


「皇......ありがとうな。......ちょっと、俺のこと好き過ぎて気持ち悪いけど、感謝してる」



「なっ......!? なんだと!?俺は本当に心配してやってるのに、てめえー!」


「はははっ!」




 状況は訳がわからないが、俺達を貶めようとしている奴が居る、それは分かった。


 なんで1回死んだはずの俺が眼を覚ますと無傷で、しかもその日の朝にタイムスリップしてるのか、わからないことだらけではあるが、それはそれで都合がいい。


 謎は多く不安だらけだが、そのまま校門の前でつっ立っているわけにもいかない。


 俺は、ほのか達や皇とともに、そのまま教室へと向かって行った。



ーーーーーーーーーー



 午前中の授業が終わると、俺はそのまま生徒会室へと向かっていた。


 ほのか達には心配されたが、彼女らは梅野さんの死に全く興味を持っていない。


 いくら俺が話したところで不思議な顔をされて終わるだけだろう。


 少々強引だったが俺はどうにか彼女達を説得し、教室を出た。




 生徒会室の前には鍵を開ける最中のアリサ会長がいた。


 俺に気付くとにっこりと微笑んでくる。


 やはり、前回と同じく、目の下にはクマができていて疲れているようだ。



 皇から聞いた話によると、朝の時点でアリサ会長は梅野さんの件について警察や学校から話を聞かれていたようなので、その疲れもあるんだろう。と俺は推測する。



「あら、神宮寺春翔。どうしたのですか?」



 アリサ会長は自分の両頰を、手でペチンと叩くと、先程の疲れている様子など全く感じさせない素振りで俺に話しかけてくる。


 あ、どうしよう。用なんて考えないで、とりあえずなんとなく、で来てしまった。



「あー、いや、えっと......アリサ会長。ご飯、一緒に食べません?」




ーーーーーーーーーー



 俺は生徒会室に入った後、しばらくはアリサ会長との談笑を楽しみつつ昼食を取っていた。


 だが、いい加減しびれを切らしたのだろう、アリサ会長が俺に尋ねてくる。



「それで、神宮寺春翔。私に何か用があったのではなくて?」


「はい......実は、梅野さんのことなんですけど......」



 俺がその話をすると、アリサ会長は少し顔をしかめる。



「俺、梅野さんが自殺したって信じられなくて......だって、昨日だってあんなに楽しそうにしてましたし、初めて会いましたけど、そんなことするようには見えなかったんですよね.....」


 すると、アリサ会長も「ふう」とため息をついている。


「そう、ですわね。警察は自殺かもしれないと判断して居ますが、私もそうは思えませんわ。本当にーー」


 そう区切るとアリサ会長はこちらを見透かした様な眼を向けてこちらを見ている。



「誰かに殺されてしまったのではないか、とね?」



 やはり、アリサ会長もそう思っていたのか。



 だが、誰かに殺される、それはつまり、『殺される程、誰かに恨まれて居た』ということを意味していると俺は思う。


 もちろん、それだけではないのはわかっている。


 昨日、俺が殺されたこともあるしな。俺はこの17年の人生で、そこまで恨まれるようなことをしたつもりはない。


 だから、無差別殺人という線も否定はできないんだが......



「はい、俺もそう思っています。ただ、誰かに殺されるにしても、理由っていうのは、あると思うんです。例えば......梅野さんが恨まれていたとかって話は、アリサ会長は聞いたことがありますか?」


 俺がそう尋ねると、アリサ会長は顔を伏せる。


「......いいえ。彼女個人には、ない、と思うわ。ただ......」


「......ただ?」



 アリサ会長は口を閉じてしまった。しかし、しばし逡巡した様子を見せた後、再度口を開いた。



「あなたたち現代社会研究部のメンバーが私たち生徒会を恨んでいる、そういう噂がどこかから流れていますわ」



 また、その話か。


 俺はつい、ため息をついてしまう。


 くだらない。本当にありえない話だ。


 だが俺は、前回の様に、その噂を一笑に伏す事はできなかった。


 俺の、もう聞き飽きた、という様子を見てか、アリサ会長はすかさずフォローを入れてくる。



「......神宮寺春翔。私も信じられません。彼女たちがそんなことをするなんて、ありえないことです。ですが、この話は現代社会研究部メンバー全員の問題でしょう。メンバー間で誤解生んでしまうかもしれない問題ですわ。そんな噂でメンバー間で疑心暗鬼になる可能性もなくはありません。どうでしょう、一度、メンバー全員でこの話を話し合ってして見ては?」



 なるほど。


 アリサ会長のいうことも一理ある。


 実際、前回俺は1人で帰っていて何者かーーおそらく梅野さんを殺したであろう犯人に殺された。


 もちろん同一犯である確信があるわけではないが、この短期間に2人も人を殺そうとしている者がいるとはさすがに思えない。


 ほのかたちを危険に巻き込むのは気がひけるが、一人ならまだしも、五人なら何かしら対抗できる可能性もあるからな。


 よし、今日はそのまま皆と帰ることにしよう。



 俺が考え込んでいるのを不思議におもたのか、アリサ会長はこちらを心配そうに見つめている。


 俺は辛気臭い話ばかりしていても、と思い、話題を変えた。



「そ、そういえば、アリサ会長って俺のこと、いつも神宮寺春翔って、フルネームで呼びますけど、なんか面白いですよね?なんか、長いですし、呼ぶの大変じゃありませんか?」



 俺がそういうと、アリサ会長ははっとした表情をしている。


「そ、それは、そうですわね......」



 アリサ会長が黙り込んでしまった。


 あれ?なんか、ふる話題、間違えたかな?


 俺が反応に困っていると、アリサ会長は何やら、ごにょごにょと言っている。


「......るとくん」



「え?」



「は、春翔くん、そう呼んでも、いいでしょうか?」



 アリサ会長は、何故か顔を真っ赤にしながら聞いてくる。


「え、ええ。俺も、アリサ会長って呼んでる事ですし。なんて呼んでもらっても構わないですよ?」



「そ、それなら春翔くんと呼びますわね!!春翔くんっ!!また、放課後にっ!!」



 アリサ会長は、そういうと顔を真っ赤にしたまま、荷物を纏めて生徒会を出て行ってしまった。






 ......ん?放課後って??何?






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