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「んんん......」



 俺は今日、珍しくほのかに起こされる前に目が覚めた。......ん?なんだ、目の前に、誰かの顔が......



「......え?あっ、はるくん、お、おはよう」


 ほのかだ。目がさめると、目の前にほのかがいた。ん?ほのか?なんでほのか?


 俺は寝ぼけ眼をこすると、冷静になって今の状況を考える。



「おい、ほのか。なんで、ほのかが俺の部屋の中にいるんだ?」



 俺がそう指摘すると、ほのかは何やらあたふたと慌てている。


「いや、あのねっ!今日はちょっと早めに起こそうかなーって思ってはるくんの部屋の前に来たら、ドア開けっ放しだったんですよ!!それで!どうせならサプライズ〜て感じで起こそうかなー?なんてーー」


「分かった分かった、いいから、思春期の男子の部屋に勝手に入るな。着替えるから出てけ」


 こいつ、たまに俺の部屋に忍び込んでくるんだよなー......

 俺は半ば強引にほのかを部屋の外に押し出し出す。


 そして、服を着替える前に軽くベットを整えようと今まで寝ていたベットに戻ると、自分の枕の状況に唖然とする。


 そういえばなんか口元によだれが、枕もちょっと汚れてるし......よだれ垂らしながら寝るって.....俺って一体どんな寝顔を......



 そんな自己嫌悪と、その顔をほのかに見られたのではないかという羞恥心を感じながら、今日も俺の1日は始まるのだった。




ーーーーーーーーーー



 いつもの様にみんなと登校してると、何やら校門には普段からは考えられない程の人だかりが出来ている。


 そこには黄色いテープが張り巡らされていて、見慣れない人たちも大勢いる。どうしたんだ?一体何があったんだ?


「ん。なんだろね。めっちゃ、人いる」


「まあまあ。確かに刹那さんのいう通り、すごい人だかりですわ....」


 刹那先輩と風莉さんも、その様子に気付いたらしい。


 しばらく人だかりを見ていると、俺は人ごみの中に皇がいることに気がついた。


 皇はいつになく真剣な表情をしていて、何か考え込んでいる様だった。


 こう言うなんかあったっぽい時は、皇に聞くのが一番早いだろう。


 俺はほのか達に少し待ってもらえる様に伝えると、1人皇の元に駆け寄った。



「よう、皇。なんだ?朝っぱらからみんな集まって何をしてるんだ?......って、おい!」



 声をかけても気づいていない様だったので肩を叩くと、皇はようやく俺がいることに気づいたみたいだ。


 軽く声をかけたつもりだったのだが、皇の表情からして、結構重い話なのかもしれないと俺も身構える。


 すると、皇は神妙な面持ちで事の次第について説明しはじめた。



 どうやら、昨日の夜から明け方の間に、我が校の生徒が校舎内に忍び込んでいたらしい。朝、後者の守衛が学園の裏門が壊されていたことによってそれが発覚した。


 だが、それだけなら、確かに大きな問題だが、物が盗まれた形跡もなかったことから、この学校の守衛が少し上司からいびられるくらいの、そんな程度のささいな話だったんだろう。



 しかし、今朝3年C組の担任が、自分が顧問をしているというサッカー部の朝練をしている時、間違って飛んで行ってしまったボールを花壇へと拾いに行ったマネージャーの悲鳴を聞いたことから、重大な事態が発覚した。


 ーーなんと、花壇にはこの学園の生徒の死体があったのだ。



 もちろん、今朝警察が来て捜査を行ったらしい。


 その調査によると、ちょうどその花壇の上の、校舎の屋上のへりのところには、亡くなった生徒の靴が揃えて並べられていたという。


 警察はその事実から、この事件は自殺の線が濃厚だろうと判定しているらしい、と皇は言う。



「まあ、警察はそう言ってるらしいんだけど、俺はちょっと気になる事があるんだよな......あ、ていうか、この事、あんま他の人たちに言うなよ?たまたまそのマネージャーが、俺と仲いい子だったからここまで詳しいってだけで、まだ警察もそこまで公開してないからな?」


 なるほど。確かに、そんな話を生徒みんなが知っていたら問題になるだろう。変に口を滑らせないように気をつけよう。


「あ、あぁ、わかったよ。ところで、さ。その、亡くなった生徒の名前って分かるか?興味本位で聞くのがあんまり良くないってのはわかるけど、知ってる奴かもしれないと思うと、名前くらいは気になってさ」


 俺がそう聞くと、皇は俺が思ってもみなかった名前を口にする。


「あ、あぁ、それはまあ、遅かれ早かれみんな知る事だろうしな。俺もあんまりよく知らない子なんだが......たしか、梅野、さん?梅野桜子って名前だったはずーーって、おい、神宮寺?どうした?」


「......え?あ、いやえっと......なんでも、ない」


 衝撃が顔に出てしまっただろうか。皇は俺の顔を心配そうに見てくる。


 そんな馬鹿な。自殺なんて、ありえない。


 梅野桜子。それは、俺が昨日初めて会った、生徒会庶務の後輩の女の子だった。




ーーーーーーーーーー



「きりーつ。れい。ちゃくせーき」


 午前の授業が終わり、昼休みになる。


 俺は、今日の授業の内容に、一切集中する事が出来ないでいた。


 まさか、あの子が......自殺なんてする訳がない。


 自殺を考えていた様な子が、あんな事を言うだろうか?



『......知ってますか?先輩に憧れてる女子結構いるんですよ?』




 そんなこと......やっぱり、ありえない!


 俺が1人で考えこんでいるのを不思議に思ったんだろうか。


 ほのかが心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。



「はるくん。大丈夫ですか?朝から元気ないみたいだけど......」


「あ、ああ、心配かけてごめん。別に、体調が悪いって訳じゃないんだ......って、それより、もう昼休みだよな。みんなも待っているだろうし、部室、行くか」



 もちろん、昨日初めて会ったとはいえ、知っている人が急に亡くなってしまって、いい気はしない。


 それにそもそも、自殺だなんて納得ができない。


 俺は、あまり気乗りしない気持ちを抑えつつ、ほのかと一緒にみんなの待つ部室へ行くために教室を後にした。




「ねえ、はるにい。どうしたの?さっきから、なんか元気ないよ?」


 杏梨が俺の様子に気づいたのか、話しかけてきた。


 幸い、ほのか達は話に夢中な様で俺の様子には気づいていない様だ。


 杏梨は頭はあまりよくない、というか、結構なアホの子だ。


 だが、なんというか、動物的なカンがものすごく鋭い鋭い。



「ん、あぁ、いやほら、今日亡くなったっていう子の事考えててさ」



 俺がそういうと、話に夢中になっていたほのか達もこっちを見てくる。


 俺は皇から聞いた話から、話しても問題のなさそうなところを抜粋して、杏梨達に話した。


 しばらく話をじっと聞いてくれていたみんなだが、俺が話し終えると、みんな首を傾げている。なんだ?



 しばらくすると、四人を代表してなのか、杏里が不思議そうな目をして尋ねてくる。


「それで、はるにいはどうしてそのことについてずっと考えてるの??」


「いや、だって普通に考えてておかしいだろ?生徒会に入る様な子だしいじめられてるって感じもしなかったし。いや、そりゃ気づいてなかっただけかもしれないけど急な自殺なんて考えられーー」



「い、いや、そうじゃなくてね?はるにい」


 俺が「いや」というと、今度は明確に、杏梨は俺の言葉を遮るように、自らの言葉を被せてくる。



「別に、そんな事どうだっていいじゃん」




 ......え?



「ん。杏梨のいう通り、私も、なんではるとが『そんなこと』を気にしてるのかわからない」


「確かに、私もわかりませんわ。なぜ『そんなこと』に春翔さんが頭を悩ませているのでしょう」


「な、み、みんな、何言って......だって、現に人が死んで......ほのか、お前だって......」



 俺は唯一口を開いていなかったほのかに話しかけた。


 しかしほのかはやはりまた不思議そうな顔をしていてーー


「ごめんなさい、はるくん。私もちょっと......だって、それ、私たちと『関係ない』じゃないですか?」



「っ......!!」



 俺は、思わず部室から飛び出していた。




ーーーーーーーーーー



 気が付くと、俺は生徒会室の前に来ていた。扉に手を掛けると鍵が開いていることに気づく。



「あ、アリサ会長?」



 生徒会室にはアリサ会長が1人で座って昼食を取っていた。


 何やら目の下にはクマが出来ていているようで、少し疲れていいるようだ。


「ああ、神宮寺春翔ですか。どうしました?いつもの通り部室で皆さんと楽しく昼食でも食べているものかと」


 うーん。やっぱり、アリサ会長もいつもほど元気がないな。そりゃ、普通そうか。


「いえ、その......ちょっとそういう気分に気分になれなくて飛び出して来ちゃったと言いますか、ははは......」



 俺が頬をポリポリとかきながら気まずそうにしているとアリサ会長は優しく微笑む。



「いいですわ、話を聞いて差し上げます。話してみなさいな」



 俺は今日の部室での出来事をアリサ会長に話した。


 アリサ会長と話していて、改めて冷静になってさっきの状況を考えてみる。


 確かに、ほのか達は亡くなった生徒会庶務の梅野さんとは、ほとんど面識もなかった。


 俺だってまだ知り合ったばかりだ、そこまで気にすることじゃないというみんなの意見も分からなくはない。



 しかし、俺は4人の性格を知っている。


 褒められるものではないが、俺の知ってる4人は誰かが怪我をしたり風邪をひいたりしただけで、学校をサボってでも看病をしにくる様な、情の厚い、優しい性格だ。



 いくら自分の知らない人であっても、同じ学園の生徒が亡くなった、だなんて大きな問題を『そんなこと』だとか、『関係ない』などと平然と言えるだろうか?



 一通り話終えるとアリサ会長は難しい顔をして考え込んでいる。そして俺は、「それに」と言葉を付け加える。



「そもそも梅野さんだって自殺する様には見えないんですよ。確かにあったばかりですし、そんなに梅野さんの事知らないけど、昨日の梅野さんはすごく楽しそうで......その何時間か後に自殺する様な人のとる態度じゃなかった様に思えて」



 すると、アリサ会長は軽く何度か頷いている。



「私も、梅野の死は少し腑に落ちないです。梅野がいじめられているだとか、家庭に問題があるかどうかは生徒会役員になる際に調べましたし。ですが、自殺でないとするならば、それは......」


 話していると、アリサ会長も口ごもってしまう。やっぱり、会長も俺と同じ見解か。


「もしかしたら、梅野さんは誰かに殺されたのかもしれません。いや、何の証拠も無いんでそんなこと言ったら、笑われるかもしれないですけど」


 梅野さんは誰かに殺された。やっぱり、何度考えても、俺にはそうとしか思えない。


 すぐに笑われるかとも思っていたが、アリサ会長は、意外にも少し考え込んでいる。


 そしてしばらくした後、言いづらそうな顔をしながらこっちをみてるくる。何だろうか?



「言いづらいことなのですが、先ほどの話を聞いて、少し思ったことなのです......」



 言いづらいこと?先ほどの事??一体、何のことだ?



「もしかしたら、梅野を殺したのはあなたの幼馴染達のうちの、誰かかもしれませんわよ?」




ーーーーーーーーーー



 俺は今日、珍しく1人で帰っていた。



『もしかしたら、梅野を殺したのはあなたの幼馴染達のうちの誰かかもしれません』



 別にさっきのアリサ会長の言っていたことから皆を疑っていて、1人で帰っているわけではない。


 ただ、色々頭を整理する時間が欲しかった。


 さっき、アリサ会長にみんなが半になのかも、だなんてことを聞いて、俺は思わず笑い出してしまった。


 アリサ会長は真剣な顔で訴えてきたが、まさか、そんなわけはない。


 俺はみんなとは付き合いも長いし、どういう人なのかわかっているつもりだ。


 ほのか達は、どんな理由があるにせよ、人を殺せるような人たちじゃない。



「まさか......な」



 そんな風に、考え事をしていたのがいけないのだろう。


 角を曲がる人と、黒いジャーしに身を包んだ少し小柄な人に、ぶつかってしまった。


 俺は、ごめんなさい。そう声を掛けようとしていた。


 だが、思わず口から出たのはーー



「ご......ぶはぁっ!」


 俺は、一瞬何が起こったのかわからなかった。


 口を押さえた手を見ると、血で真っ赤に 染まっている。


 胃からは赤黒い液体が逆流し、溢れ出てくる、そして、なにやら脇腹が熱い。


 俺、今お腹を刺されて......っ!??

 

 そう思った瞬間、腹部に激痛が走った。


 痛みに耐えきれず、俺は思わず地面に伏してしまう。



「う、ぐっ.....ぐがぁ......」





「さよなら」



 俺は、黒ジャージの人物に頭へとナイフを振り下ろされる。









 そこで俺は意識を失った。



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