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 キーンコーンカーンコーン



 チャイムがなったので、俺は星羅院会長と話を終えると帰りの支度を始めた。


 一人で帰ろうとしたのだが、星羅院会長はまだ俺に話があると言うので二人で帰る事になる。


 そうして帰っていると、立ち話もなんだからと言うことで、俺達は近所の喫茶店に入ることになった。


 あれ?ここって、確か刹那先輩の出した報告書に書いてあった喫茶店だよな?


「あの、星羅院会長?ここって確か刹那先輩がーー」


 俺がそういうと、星羅院会長は咳払いをしている。


「こ、こほん。いいから、早く何か頼みましょう。癪ですが、ここのケーキは本当にスポンジはやわらかく、クリームはふわふわでして、本っ当に絶品でっ!......って、なんですか。神宮寺春跳。そのだらしない顔は」


 どうやら、俺はだらしない顔をしていたらしい。それはそうだろう。あの星羅院会長が、だ。

 

「いや、意外でした。星羅院会長って、意外と乙女なんだなと思って......って、いたっ!」



 星羅院会長は木製のメニューで俺の頭を思いっきりをなぐってきた。


 い、痛い。


 今、ぶつかったの完全にメニューの角だったぞ!?



「あなたは一体、私をなんだと思ってるんですの?私だってケーキを好むくらい人並みに乙女ですわ......って、そんな話をしに来たのではないのです」


 そう言うと星羅院会長は店員に手慣れた様子でメニューを頼んでいる。


 頼み終えると、突然こんな事を言い出した。



「神宮寺春翔。あなた、好きな人は、居ますの?」




えっ?



えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!????



 俺がドギマギした様子で慌てていると、どうやら星羅院会長もようやく自分の言った事の意味に気付いたらしい。


 顔を赤くしながら、慌てて撤回して来る。



「ち、違いますわ!そうではなくて、あなたは幼馴染四人との今の関係をどう思っているのか、それを聞いているんですのよ!別に、あなた口説いているわけではないですわ!」


 いや、俺もそこまでは言ってないです。はい。


「........まったく。あなたという人は!!.........でも、考えておいた方がいいですわよ?生徒会室でも話しましたが、もうあなたも高校二年生なんですから。誰かと、そういう事になってもおかしくはないでしょう?」



 そういう事、星羅院会長が言いたいのはつまり、四人のうち誰かと彼氏彼女の関係にーーつまり、付き合うつもりがあるのかという事だろう。


 みんなの事は好きだ、好きなんだけど......



「確かに、それはそう、なんですけど......俺にとって、四人はそういうんじゃなくてもっと特別な、そう、家族みたいなものなんで。付き合う月あわないとかは、今は考えられないですよ」


 俺がそういうと、星羅院会長は一息ついている。


「そう......まあ、遅かれ早かれそういう事になる可能性はあるんだからしっかりと考えておいた方がいいわ」


 そんな事を話しているうちに、頼んでいたものが出来上がったようでウェイターさんがケーキとコーヒーを持ってきてくれた。



「さあ、食べますわよー今日は特別に奢ってさしあげますわ。あなたも一口食べれば気持ちがわかります。さあさあっ!!」


「は、はぁ......」




ーーーーーーーーーー



 ケーキと紅茶を平らげた後、いい加減遅い時間になってしまったと気付いた俺達は、帰り道を急いでいた。



「今日はその、ありがとうございました。色々、俺達のこと気にかけてくれてたみたいで......って、あれ?それよりこんな遅くまで大丈夫だったんですか?俺は全然いいんですけど、星羅院会長、お嬢様っぽいし、親御さんとか心配してるんじゃーー」



 俺は言葉の途中で口籠る。


 それは、星羅院会長が、今まで見たこともないような、思いつめた顔をしていたからだ。


 俺が何を いうかためらっている様子を察したのか、星羅院会長は慌てて笑顔を作り、こちらに微笑みかけてくる。



「いえ、家には、できればその......あまり、帰りたくないので。それはいつもーー」


「ケ、ケーキ!!」


 俺がそういうと、星羅院会長はポカンとした顔をして、目を丸くしている。


「......え??えっと、何を......」


「ケーキ、美味しかったですね!!また食べたいです。星羅院会長、もしよかったらまたケーキ一緒に食べましょう!」


「......」


「せ、星羅院会長?」


 どうしたのだろう、黙り込んでしまった。さっきの様子からして、まさか何か地雷を踏んでしまったのかな?あーっ。俺のバカ。ほのか達から普段デリカシーがないとか言われてるから気をつけてたんだけどな。



 俺が頭を抱えていると、星羅院会長は顔を赤くしてこちらを見つめてくる。な、なんだ??


「アリサ」



「え?」


 俺が聞き返すと、星羅院会長はキッとこちらを睨んでくる。え、え?何!??


「アリサでいいですわっ!!!」



 そういうと、俺を置いていったまま、星羅院会長は、暗闇の中を走って行った。


ーーーーーーーーーー


「あ、家の明かりついてるな......ただいまー!」



 家に帰ってみると、家の明かりがついていた。あれ?家の鍵開けっ放しだったかな?


 不思議に思いながら家に入ると、ほのかがリビングから出迎えてくれる。


「あ、はるくん。お帰りなさい!!今、夕飯作ってるから、ちょっと待ってて下さいー!......ところで、ハルくん。今日は、何でこんなに遅くなったの?」


 ほのかが理由を聞いてきた。


 おおよそ、アリサ会長とちょっと話したら、すぐに帰ると思って居たんだろう。


 まあ、変に嘘つく必要もないし、ここは正直に答えておくべきだよな。

 

 何もやましいことはないんだし。



「いや、それがさ、アリサ会長と現社研のこれからについて話してたらこんな時間になっちゃって。なんだかんだあって今までのことも、俺が生徒会に入って真面目にやってるってアピールすれば不問に伏してくれるってさ」


 俺がそういうと、ほのかは何か、目を泳がせている。


「ア、アリサ.......へぇ、そっか、随分仲良くなったんですね。星羅院会長と......」


「まあ、なんだかんだいい人でさ。俺も俺も結構話があって、楽しかっーー」


「あ、火を掛けっぱなしだったので、見てきます!」


 そういうとほのかは俺が話している最中だというのに、台所の方に戻って行ってしまった。


 あー。せっかく夕飯作ってくれてるのに、邪魔しちゃって悪いことしたかな?


 そう思いながら、俺は今日あった事を部活のみんなに連絡しつつ、自分の部屋に上がって行った。







 うーん。やっぱり家の鍵って、掛けといたような......?









「..........一回だけだよ。はるくん」



ーーーーーーーーーー



 次の日、みんなと学校に登校し、いつもの様にほのかと教室に入ると、皇が肩を組んで来る。



「おいおい、聞いたぜ。遂にあのハーレム王、神宮寺春跳様が学園五大美女、星羅院アリサに手を出したってよ!!」



「は!??おい、なんだそれ!!!」


 俺は身に覚えのないことを聞いて、つい声を大きくしてしまった。



「おい、落ち着けよ。いや、お前のことだから、根も葉もない噂だって否定しといてやったから、噂は広まることはないと思うからよ。ただ......お前、気をつけろよ?」



 気をつけろ。それは、アリサ会長のファンには気をつけろ、ということだろうか。


 我が悪友、皇賢人はなんだかんだいい奴だ。今のことも、否定しといてくれたらしいし、普段だって、本気で俺がハーレムを作っているとかそういう風には思っていないらしい。


 いわゆる、ジョークと言った奴か。


 女の子達にあれだけモテる理由も、わからなくはない。仲のいい奴にこそいちいち気を利かせてくれる。


 そういうところが、こいつのいいところだしな。



「ああ、ありがとう。気をつけるよ」


 俺がそういうと、皇は頭を書きながら首を傾げている。


「んー。イマイチわかってない気がするけど。まあ、いいのかな?」



 俺たちがそんな風に話していると、その光景が珍しかったんだろうか。


 ほのかは不思議なものを見る様な目でこちらを見てくる。



「どうしたんですか?はるくん。今日は珍しく、やけに皇君と仲良いですね、何話してるの?」



 ほのかが話しかけて来ると、今度はすめらぎが抱きついて来た。うっ、なんか暑苦しい......


「ほのかちゃん。これは男と男の間でしか語り得ない、男同士の話って奴なのさ!!いくら、ほのかちゃんでも、俺たちの間には入り込めないぜ!!!」


「おい、やめろ、暑苦しい」


「そ、そうなんだね。はるくん、皇君ごゆっくり......」


 ほら、お前のせいでほのかがちょっと引いてるぞ、どうしてくれるんだよ。



ーーーーーーーーーー



「くぅー。やっと四限終わったかー!」



 俺はしばし、1日の最後の授業からの解放感に浸っていた。



「はるくん。お昼、今日は本当に作ってこなくてよかったんですか?」



 ほのかが心配そうな顔でこちらを覗き込んで来る。そうだ、俺もあんまりのんびりしてる場合じゃない。



「ああ、みんなと食べれるんならほのかのお弁当、すごくありがたいんだけど。流石に生徒会の初顔合わせにほのかのお弁当持参、ってわけにも行かないだろ?今日はさっきコンビニで買ったパン、テキトーに持って行くから、大丈夫。放課後はちゃんと部室行くから、みんなによろしく言っといて」



 そういうと、ほのかは「そうですか......」と言って黙ってしまう。なんか、最近ほのかに気を遣わせてばっかでわるいな。今度埋め合わせしよう。


 そんなことを思いながら、俺は時計を確認して慌てて生徒会室へと向かった。



ーーーーーーーーーー


 

「じ、神宮寺春翔です。よ、よろしくお願いします」



 俺は生徒会室で軽く自己紹介をすると、他のメンバーから拍手を受ける。こういうのにはあまり慣れていないので、少し気恥ずかしい。



「ようこそですわ、神宮寺春翔。私たちはあなたを歓迎します」


 アリサ会長はどうやらご機嫌の様で、すごいニコニコしている。


 いや、今までは俺が勝手にとっつきにくいと思っていただけで、もしかしたらこのニコニコした方が素なのかもしれないな。



 生徒会メンバーは、俺を除くと女子3人、男子4人の全部で7人。俺が入って男子5人という感じだ。どの人も、気さくで話しやすい人ばかりだった。



 会話の内容は今は特に何の行事もなく暇だということで、大体は他のメンバーから俺に質問、という感じになってしまった。


 アリサ会長から生徒会に誘われた経緯なども聞かれたが、そこはアリサ会長がうまく誤魔化してくれた。


 それが余計に話の種になってしまい、副会長の先輩からは囃し立てられてしまったが、アリサ会長も嫌そうではなかったので、顔合わせはとても楽しい時間だった。



 楽しい時間はあっという間に過ぎ、昼休みも残りわずか、というところで会長がお開きにしようと言い出した。


 その後、俺は生徒会室の鍵の置き場所を教えるからと、庶務の後輩の女の子に連れられ二人で廊下を歩いていた。


 すると、庶務の後輩は俺に向かって意外なことを言ってくる。


「今日は、先輩と話せてよかったです。......知ってますか〜?実はこの学校に、先輩に憧れてる女子って結構いるんですよ?」



「......えっ?」


 俺は突然かけられた言葉に戸惑いながらも、そう答える。



「先輩って、かっこいいから、いつも可愛い女の子達に囲まれてたじゃないですか?普通の私たちじゃ近寄りづらくて...あ、鍵の場所ここです」



 後輩の女の子は、手慣れた手つきで生徒会室の鍵を所定の場所に戻す。


 すると、こちらに向き直り快活そうな笑顔をこちらに向けてくれる。


「それじゃ、先輩。私は上の階なので急ぎます!同じ生徒会役員同士、これから仲良くしてくださいね!」



 そういうと、後輩の女の子は風の様に階段をかけて行ってしまった。


 あ、憧れてるか、そんな事初めて言われたな......最初はびっくりしたけど、案外、悪いもんじゃないかも......


 俺は少し照れくさく思いながらも、教室へと戻った。




ーーーーーーーーーー



 放課後、ほのかと共に校門の前に行くと、いつもの様に刹那先輩達が待ってくれていた。



「遅い。まったく、はるとは今日は昼休みも部室に来ないし、何をしているんだ。それより昨日行くはずだったケーキ食べ放題、今日こそ行くよ」


「あらあらまあまあ。でも確かに刹那さんのいう通り。今日はすぐには帰しませんよ?」



 どうやら刹那さんと風莉さん。2人とも、昨日は俺抜きで帰らされたことに相当腹がたっていたらしい。


 となると......ああ、今日もまたケーキか。甘いものは好きだけど、2日連続となると......



「あ、小鳥さん達さよならーっ!」



 なんか1人、また小鳥達と戯れてる奴もいる。杏里は最近近所の鳥と仲がいいな。なにを話してたんだろう?今度聞いてみようかな。


「さあ、はると、早く行くよ?」



ーーーーーーーーーー



「あー今日はラッキーだったなー」


 生徒会庶務の梅野桜子は舞い上がっていた。学園二大アイドルの1人、神宮寺春翔とお近づきになれたからだ。


 桜子は二大アイドルのもう1人の皇賢人のようなチャラいタイプは好みではない。


 春翔のような素朴なタイプの方が好みであり、只今いままでの人生の中で、最高の気分で自分の幸運に浸っているところだった。


 最初は大学の推薦のためのご機嫌取りで生徒会に入った桜子だが、今では優秀な会長の元、誇りを持ってその役割に打ち込んでいる。


 その上、憧れの神宮寺春跳先輩とお近づきになれるかもしないなんて!


 そのように桜子はしばらく悦に浸っていたが、何やら金属を引きずるような音と、何者かの1人の人影に気づく。



「あ、あれ?あの......どうしたんですか?こんな夜に......それに......それ、持ってるのってバットじゃ......っ!?」



 ガンッ!という音と共に桜子は頭に強い衝撃を受ける。


 その瞬間、視界が赤く染まり、頭が熱くなる。


 まるで体中の熱が頭に移動してしまったかの様に頭が熱かった。


 そして、自分の流す血液に汚れながら、焼ける様に熱い頭とは対照的に、自分の体からはどんどん熱が失われて行くのを桜子は感じていた。



「なん......っでぇっ、こんな......こと......っ」






 その瞬間、バットを片手に持った少女は狂気の笑みを浮かべ、蔑む様な目で、縋り付く桜子を見つめている。






「私の春翔に近寄るな。汚い虫が」





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