2
「さあ、今日こそ決着をつけますわよ。現代社会研究部」
そこには我らが学園の生徒会長、星羅院アリサが座っていた。
彼女こそが、皇の言う「学園五大美女」のうちの、最後の一人である。
母親がロシア人である彼女は、母親譲りの鮮やかな銀髪をなびかせ、そして透き通るような碧色の瞳でこちらを睨みつけていた。
「今日あなた達に来てもらった理由、分かっていますね。現代社会研究部、その活動内容に関してのことです。なんなんですか、この活動報告書は!!」
そう言うと、彼女はいつも刹那先輩が担任の先生に提出していた、我が現代社会研究部の活動報告書を机の上に放り出す。
「えっと、会長、俺らはなにか、問題になるような事を、しでかしたり...しちゃって......ますか...?」
俺は黙り込んでいた四人を代表して、恐る恐る会長に質問をしてみる。
くっ...それにしても、一個上とは思えない。すごい迫力だっ。
俺がそういうと、星羅院会長は長いため息をついてから、こう話を続けた。
「問題も何も、そもそも問題になるようなことすらしていない。この現状が問題なんです。創部当初はまだよかったものの、最近の活動内容はなんですか!!」
星羅院会長は、活動報告書の表紙を指差しながらこちらを睨みつけてくる。
なになに.....
『大手食品企業の神凪町進出と地域土着店への影響及び所見についての報告』
............ん??なんだこれ?
俺の頭の上にはてながのっているのがわかったのか、星羅院会長は、再度深いため息をついてから話を再開する。
「大層な名前と、小難しい文章で書かれては居ますが、書かれている内容は『最近出店して来たス◯パラと商店街のケーキ屋さん、どちらの方が我が学園の生徒から人気が出るのか』だなんて事を、主観的に書いているだけではないですか!!現代社会とは何の関係もないことです!!他の人は騙せても、私は騙されませんよ!!」
刹那先輩。あんた、そんなものを部活の活動内容としてあげて居たのか。
まあ、内容を全然確認していなかった俺たちの方が悪いのだが......
「ん。むう。担任供はコロッと騙せたのに」
......何やら刹那先輩は酷い事を言っている。
「とにかく。このような活動もろくにしない、非生産的な部活に部室と予算は与えられませんわ。そもそも!あなたたちは、頑張って部活をやっている人たちに、失礼だとは思わないのですか?熱意はあるのに、あなた達より小さな部室で頑張っている人たちもいるのですよ?」
「......ぐ、ぐむ。こいつ、正論だ。はると、どうしよう」
刹那先輩は俺に助けを求めてくる。
......確かに星羅院会長の言うことは正しい。我が学園は中小様々な部活が存在して居る。それも学園長の生徒の自主性を重んじる、という方針によるものである。
もちろん、星羅院会長の言っていることは正しい。
正しいの、だが......なんだろうか?
さっきから、何かが引っかかる。
「春翔さん。もし、会長さんがあまりうるさいようでしたらお父様にでも相談してーー」
風莉さんが恐ろしいことを言ってくる。確かに、風莉さんの、祁答院家の力を使えば......だけど......
「ダメだ、風莉さん。それは俺達に、本当に打つ手がなくなった時の手段だ。それに、それで会長を黙らせることが出来ても、俺たちは両手をあげて、喜べる?」
「ですが、このままでは....」
今までも、何回かこういう注意をされることもあったが、今回の星羅院会長の様子は本気だ。
このままでは、予算どころか、部室も取り上げられてしまうかもしれない。
だが、なんで、現代社会研究部だけ?
うち以外にだって、そんな緩い部活いくらでも.....
......まさか。
理由には心当たりがある。俺も最近言われていて、辟易していたことだ。
そんなこと、考えたくないが、星羅院会長がここまで現代社会研究部を目の敵にする理由。
それは......
俺はある程度、理由の見当をつけると自分が今考えつく、最善の言葉を風莉さんにかける。
「それに、大丈夫、心配しないで風莉さん。俺に少し考えがあるから。ーー会長、少し、二人きりで話したいことがあります。他のみんなは帰らせてもらっても良いでしょうか」
俺がそういうと、杏里が慌てて口を挟んでくる。
「は、はるにい!??一体何を!?二人っきりって、もしかして会長さんに告白とかってわぶっ...!??」
「杏梨さん。少し静かにしましょうね?刹那さんも、会長さんを、睨まないで?」
流石は風莉さん、俺の考えている事までは読めていないようだが、場の空気を読んで杏梨と刹那先輩を黙らせてくれた。
「ふっ、なるほど。良いでしょう。神宮寺春翔。あなただけはもう少し生徒会室に残って頂きます。他四名は帰っていただいても構わないですわ」
ーーーーーーーーーー
ほのか達が帰った後、俺は星羅院会長に話を切り出した。
「星羅院会長、話っていうのは、本当は現代社会研究部の活動内容について、ではないですよね?」
そういうと星羅院会長は少し驚いた顔をする。
それくらい俺でも気付く。
うちみたいな緩い部活は、他にもこの学園にはたくさんある。なんでも学園長の、「生徒の自主性を重んじる」という方針のためだそうだ。
そのため、そのような全部勝つならまだしも、俺たちだけが呼び出されると言うことは理にかなっていない。
普段から公正平等をうたう星羅院会長としてはあるまじき行為なのだ。
それならば、なぜ、星羅院会長はうちの部活だけを目の敵にするのか。
それはつまり......
「あなた、思ったより察しがいいですのね。神宮寺春翔。それに、私、てっきり勘違いしていましたわ。あなたは、何らかの手を使ってあの三人を籠絡しているものかと......さっきの様子を見る限り、どちらかと言えば他の四人が、あなたに依存しているように見えましたわね。そこに関しては勘違いでした謝罪いたします。ですがーー」
そう言うと星羅院会長は一呼吸起き、真剣な眼差しで話し続ける。
「巷で、あなた達五人組は神宮寺ハーレムなどと呼ばれている、ということは、あなたも知っていますね?」
やはり、その話だったか......
「言葉はキツイですが、あなた達はあまり、周りから良くは思われてはいませんわ。どこの運動部でも喉から手が出るほど欲しい人材である芒野ほのか、天才的な頭脳を持つ朝比奈刹那、地元の名士祁答院家の一人娘祁答院風莉。来栖杏梨は......まあ、いいでしょう」
おい。
「と、とにかく。あなたは多くの生徒に、才能溢れる彼女らを独占し、学園の美少女を現代社会研究部の部室に、つまり自分のハーレムに囲っている。そう思われています」
「それは.....」
それは、分かっていることだった。俺の幼馴染達は皆一芸に秀でている、その才能を俺は潰してしまっているのではないか、それは今まで何度も悩んだことであり、俺はつい顔をしかめてしまう。
「あなた達が、幼馴染であることは知っています。私も、先ほどの様子を見て、あなたがそれほど悪い人には、思えませんでした。ですが、やはり、あのベタベタとした様子は、側から見ると異常ですわ。小中学生くらいならまだしも、あなた達は、もう高校生なんですから......」
星羅院会長は視線を伏せる。
「自分の今いる、慣れた暖かい環境に浸っている、それは別に悪いことではないですし、むしろ昔からの絆を大事にする、それはとても良いことですわ」
そう言うと、星羅院会長は今までの厳しい表情を和らげる。いつも張り詰めている様子を見ているせいか、まるで別人のようだ。
「ーー別に、一切関係を切りなさいとは、言ってないんですのよ。ただ、もう少し適切な距離を保ちなさい、と言うことですわ......友情と依存は違うのよ、神宮寺春翔。」
それは、俺も分かっている。俺は多分、あの時から、四人に依存している。
かつて、両親が亡くなった時、その孤独から救ってくれたのはほのか達だ。
俺はその時からずっと、無意識に俺の周りに常にいてくれる四人の幼馴染たちに依存していたのかもしれない。
「確かに、会長の言う通りでは、あります。俺だって、分かっていない訳じゃないんです。でも、もう少し距離を取れって言われても......別に俺は他に部活とかにも入ってないし。そんな、あからさまに距離を置くだなんてこと......」
俺がそう言うと、星羅院会長はじっと考える様子を見せた後、ひらめいた!と言う様子で手を打つ。
「それなら、生徒会に入って下さらない?ちょうど、書記が一人転校してしまって困っていたのよ。生徒会長である私になら、四人も文句は言えなでしょう!」
星羅院会長は意地悪そうなしている。うわ、これはやられた。
そしてその日、晴れて俺は生徒会の書記に任命されたのであった。