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「う……疲れた……」


「……?そうですか?そこまで重くはないと思いますけど…..」


 俺はアリサ先輩へのお詫びとして、買い物の荷物運びを手伝っていた。


 いたのだが……


「いや、これはーー」


 もう何件回ったんだろうか。


 別に、特に荷物が重いというわけではない。


 ただ、アリサ会長はお財布にとても堅実な人らしいということは分かった。


 一つのものを買うのに何件も回るのである。


「いや、まあ、悪いことではないと思うんですけどね、アリサ先輩の夫になる人って、幸せ者だろうなーと」


「お、夫にっ!???そ、そんなこと……っ!??」


 ほのかのことも大概だと思ってたけど、食材の買い物にここまで気合を入れてるとなるとな……すごい執念。



「そ、そんなことより春翔くん!今日のお礼も兼ねて、何かお礼をしたいと思うんですが……」


 俺がそんなことを考えていると、アリサ先輩はそんなことを言い出した。



「お、お礼って、いや、今回は俺がアリサ先輩へのお詫びってことで手伝ってるんですから、そんなお礼なんて……」


「お詫び……?なんのことですの?」


 あ、そうか、俺が勝手にそう思ってやってただけだしな。うーん。


「とにかく!ハルトくんが嫌でなければ、なのですが、今日の夜の7時にいつものケーキ屋さんの前に来ていただけませんか?」


 今日の夜か……特に用事はないけれど……


 はっきり言って、今はそういう気分でもないんだよな。


 あんなこともあったばかりだし、そもそも刹那先輩のことだって。


 俺が考え込んでいると、アリサ先輩は俺が持っていた荷物をすっと手に取ると、そのままかけて行ってしまう。


「来られないなら来られないでいいんですの!ただ、私はその時間、その場所で待っていますので!!それではっ!!」



「あ、ちょっと、アリサ先輩!??......って、もう行っちゃったよ」


 どうしたもんかな……まあ、一応連絡先なんかはこの前もらったわけだし、後で行くことができない旨を伝えておこう。


 そこまでして待ってるとも思えないしな。


「……っていうか、今何時だ?」



 アリサ先輩の手伝いをしていたら、結構時間が経ってしまった。


 携帯を開いて時間を確認すると、ちょうど3時を回った頃だった。


 着信を見ると、ほのかから何件か安全を確認するメールが来ている。


 やっぱり、心配させちゃってたか。ちゃんと何もないって連絡をしておこう。


 俺はメールの内容にざっと目を通そうと確認していると、刹那先輩からも連絡が来ていることに気づく。

 内容は、やっぱり今日のうちにどうしても謝りたいから、家に来て欲しいというもの。


「刹那……先輩……」


 送られてきた文章の内容を読む限り、刹那先輩の必死さが容易に見て取れる。


 自分がどうかしていた。ほんの出来心だった。俺の前ではつい、なんでもないことの ように言ってしまった。反省している。


 そんなことがいつもの刹那先輩らしくない、必死な様子で描かれている。



「……行くか」


 刹那先輩も、やっぱりわかっていたんだろう。ただ、ことがことなだけに、すぐには悪いことだと認められなかったのか。


 梅野さんの事件について、俺が関心を持っているということも、昨日の様子の一つの理由かもしれない。


 あの温厚なほのかですら、俺に疑われていると知ってあそこまでの凶行に及んだんだ。


 刹那先輩だって、俺に疑われることの内容に、自分を取り繕った結果が、昨日のあの様子だったのかもしれない。



 俺は、一応ほのかに刹那先輩の家に向かう旨をメールで送ると、刹那先輩の家へと向かうことにした。



ーーーーーーーーーー


 あれ?おかしいな。


ピンポーンピンポーン


 マンションの入り口から普通に入れたから、刹那先輩は中にいると思ったんけどな。


「……あれ?」


 俺は試しにドアノブに手を伸ばし、ひねってみた。


 すると、ガチャリという音とともに、ドアが開いてしまう。


「……刹那先輩ー??いるんですか?刹那せんぱーい!??」



 俺が問いかけても、部屋の中からは応答がない。


 鍵を開けっ放しにして、出て行ってしまったのか?


 俺が来ると分かっているのに、何のために……?


「まさか……っ!!」


 嫌な予感がする。俺は慌てて刹那先輩のいるはずのに入る。


「刹那先輩っ!??いるんでしょ!?隠れてるんなら出てきてくださいよ!今なら俺も怒らないです……から……」


 刹那先輩の家のリビングルームの部屋を開けた時、俺はその光景を見て、ただひたすらに後悔をした。


 部屋の中は、真っ赤に染まっている。


 その中心には、ついこの前まで、俺と冗談を言って笑っていた、刹那先輩がこちらに顔を向けながら倒れている。


 目には既に光がなく、その右手には、以前護身用と言っていたスタンガンを持っていた。


 体には刺し傷が無数にあることから、犯人と争った後、ナイフのようなもので滅多刺しにされたのかもしれない。


「うっ……ぐっ、おぉっ」


 胃から内容物がこみ上げてくる。


 あまりの光景に、俺は思わず口を押さえてうずくまってしまった。



 ……くそっ!!!皇だって、言っていたではないか。


 ーー俺が思うに、その盗撮の犯人は、今回の事件とは関係ないと思うぜ?ーー


 それなのに俺は、カメラのことで刹那先輩にビビって……


 俺が刹那先輩のうちに来るのがもう少し早かったら、もしかしたらこんなことにはならなかったのかもしれない。



 今はそんなことを考えていても仕方がない。


 俺は刹那先輩の手首に指を当てて脈を確認すると、やはり既に脈はないようだとわかった。


 俺はどうにか、その光景から目をそらし、携帯電話から110の番号を押した。




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