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「はるくん......っ!!」
ほのかは包丁を落とすと、俺の胸に飛び込んで来る。ほのかの顔を見ると、涙でぐちゃぐちゃになっている。
「全く、勘違いしすぎだぞ? 心配させやがって......」
「ううんっ......こちらこそすみませんっ、はるくんは、私のこと信じてくれてたのに.......」
さて、これでとりあえず、ほのかの件は一件落着ーー
ダァンッ!!
目の前のほのかの額から鮮血が飛び散った。
「私のものにならないなら、あなたも、もういらない」
「......え?」
ダァンッダァンッ!!
目の前の状況に目を疑っていると、聞いたこともないような低い声が聞こえた。その後俺の後頭部に強い衝撃が走る。
俺はそのまま、意識を失った。
ーーーーーーーーーー
「あ、はるくん。起きましたか?ごめんなさい、聞かないとまずいと思ってちょっと多めに睡眠薬入れておいたので多少頭痛がするかもしれません」
「......え?」
目を覚ますと手足や胴体を拘束され、ベットの上に寝かされていた。
「あぁ、はるくん。ごめんね?本当はもうちょっと痛くないようにしたかったんだけどちゃんと強度があってっていうのだと、手持ちのお金でこれくらいしか用意できなくて......」
「ほのかっ!!」
俺が叫ぶとほのかは驚いた顔をしている。そりゃそうだ、普通なら、目を覚ましたら手足を拘束されているなんて、まともに話せないくらいの状況だろうからな。
「俺は、梅野さん殺しの犯人は、ほのか以外の誰かだと思っている」
「......え?」
ーーーーーーーーーー
俺が頼むと、ほのかはすんなりと拘束を解除してくれた。ほのかは自分が犯人だと疑われている、その事にショックを受けて狂行を起こしたんだ。
ならば、俺がほのかを信頼していると安心させてあげれば、正気に戻ってくれるだろう、という俺の推測は正解だったようだ。
それにしても......
やはり、朝の時点に戻っている。まさかとは思ったが......
あの時、ダァンッ!!という音とともに俺の後頭部に強い衝撃が走った。あの大きな音は、おそらくーー拳銃か何かだろう。
拳銃なんて、そうそう手に入る物じゃない。それに......くそっ、拳銃を至近距離で打たれたせいで耳が馬鹿になっていたのか、一体誰の声だったか聞き取れなかった。
「あ、あの、はるくん......ごめんね?私......」
「いや、ほのかは俺を守ろうとしてくれたんだろ?気にしなくていいよ。それより、梅野さん殺しの犯人が誰か、それを明らかにするのを手伝って欲しい、手紙のこともーー」
「手紙? はるくん、なんでそのこと知ってるの?」
しまった。確かに、今の情況だとなんで俺が手紙の事を知ってるのか、その説明がつかない。
「ほ、ほら、俺がほのかのことで、知らない事なんてあるわけ無いだろ?」
いや、うん。自分でも意味が分からない。雰囲気で爽やかな笑顔を作ってそんな事を言ってしまった。流石にほのかも怪しんでーー
「そ、そっか......そうだよねっ! えへへ......」
え〜。 納得しちゃうの〜?あれ〜?
俺がげんなりしているとした表情を浮かべていると、突然玄関からダン!ダン!ダン!とドアを叩く音が聞こえる。
もしかして、刹那先輩か?確か、俺のことを心配してくれて助けに来てくれたんだよな......そう考えているとーー
「はるにい!?? はるにい!いるの!? 大丈夫!??」
......あれ?
この声は杏梨、だよな......刹那先輩じゃないのか?
俺はとりあえずほのかには部屋に居るように伝え、玄関へと降りて行った。
ドアスコープから外を見ると、杏梨が額に汗を滲ませながら、心配そうな顔でこちらを見ている。
「あ、杏梨?どうかしたのか?」
ドアを開けて、俺は出来るだけ普段通りの様子になるように努めて杏梨に話しかける。
「あ、あれ?? はるにい? 特に......何もないの?」
「ん? 何のことだ? 何もないって......何が?」
「そ、そっか? あっれー?おかしいなーっ。
せっちゃんからさ、『ほのかがはるとに何かしたかもしれない』って、さっき電話かかって来たんだけどー?何かあったんじゃないかって、心配で走って来たんだよ」
......刹那先輩から? いや、それはおかしい。
前回の朝、刹那先輩は俺が杏梨たちに連絡がつかない事について、俺の前では不思議そうな顔をしていた。
そもそも、なんで、ほのかがうちにいる事を、刹那先輩は知っていたんだ......?




