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私は、はるくんに疑われている。それは私にとって人生で一番辛いことだった。他の誰に何と思われてもいい、ただ、はるくん。はるくんだけには嫌われたくない。
......こんな事になってしまったのも、誰かが余計な事をしてくれたからだ。
確かに、はるくんに近づいて来る余計な虫は排除しなければならない、今までも皆でそうして来た。それは正しい。
だが、それははるくんのことを思っての行動のはずだ。はるくんに必要な人を、はるくんが大切に思っている人を傷つけてはいけない。
はるくんは、優しいから。私が知ってる人の中で、ダントツに、一番優しい男の子。例え知らない子でも、困っていれば助けの手を伸ばしてしまう。あの時の私に、そうしてくれた様に。
そんな優しいはるくんの事だ。例え一度でも話をした子が不審な死をとげれば、心を痛めるに決まっている。傷つくに決まっている。
私ははるくんを傷つける奴は許さない。私からはるくんを奪おうとする人を許さない。
ああ、でもはるくんには悪いことをしたな。安全のためとはいえ、拘束されて、痛かっただろうな。あの様子だと私の事、嫌いになったかもしれないな......
......でも、私が真犯人をどうにかすれば、またいつもの様に明るく笑いかけてくれるはずだよね。
はるくん、あと少しだからね、私、頑張るよ。
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「そ、そうだ、そんなことより、今の時間はっ!!」
俺は手紙をポケットに入れ、代わりに携帯を取り出すと時刻を確認する。
今は九時五十分か。
この距離なら、走れば十分もあれば間に合うかもしれない。
ほのかと犯人の一騎打ち、いや、一騎打ちとは限らない。何らかの方法で罠を仕掛け、真犯人がほのかを処分しようとして来るかもしれない。
俺はほのかの家を後にすると、指定の場所へ慌てて駆け出した。
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携帯を確認する。十時ぴったり、頼む、間に合ってくれっ!!
俺は指定の場所、町外れの廃屋へとたどり着いた。すると、そこに居たのはーー
「な、なんで、みんなが......」
そこに居たのは、俺の幼馴染4人、ほのかに杏梨、刹那先輩、風莉さん、そして、本来なら家で身を潜めているはずのアリサ会長だった。
アリサ会長はほのかに捕まっている様子で、首に包丁を突きつけられている。
「ほ、ほのか!!何やってるんだ!包丁を下ろすんだ!!」
俺が声を上げると他のメンバーは驚いてこちらを見ている。俺が来るとは思わなかったのか、ほのかも俺を見ると驚いた顔をしている。
「な、なんで、はるくんが。家にいるはずじゃ.......」
しかしほのかは驚いた様子を見せた後、すぐに険しい表情に変わる。
「ち、近寄らないでください!!」
ほのかは油断して居たであろうアリサ会長を羽交い締めにした。首にはやはり包丁を押し付けている。
「こいつを......こいつを始末すればっ! こいつがっ、こいつが犯人なんですよっ!! はるくんを傷つけて、わたしはっ、だからっ!!」
まずい、俺が急に出て来たのが悪かったのか、ほのかは錯乱している。くそっ......
「落ち着くんだ! ほのか、落ち着いて! 俺はっ、俺はお前をーー」
「言わないで下さいっ!! 分かってます。はるくんは、私が梅野さん殺しの犯人だと思ってるんですよね......昨日だって、この女の心配してたし......分かってます、分かってるんです......
でもね、私はそんなことしないよ?私ははるくんに危害が及ばない限り、誰かを傷つけたりなんてしないんだよ?今だって、この女が犯人だって、私分かるから、だから、本当ははるくんの知らないところで始末しようと思ってたのに。
はるくん優しいからね、こんな殺人犯でも可哀想だって思っちゃうよね、分かるーー」
「分かってないっ!!!!」
俺は、ほのかの言葉を遮るように、力一杯叫んだ。今まで、ここまで大きな声を出したことは人生で一度もないだろう。
俺が叫ぶと、ほのかは怯えた様な顔をしている。何故自分が怒鳴られているのか、わからない様だ。バカなやつだ、ほのかは俺のことを何も分かってない。
「全然、全然わかってねえよ!! ほのかは俺のこと、何も分かってない!! 俺が、俺がいつお前が犯人だなんて疑ったよ!!」
「......え??」
こいつめ。やっぱり全然分かってないな。俺がなんで今怒っているのか、それすら不思議そうな顔をしている。
「誰だか知らない奴からの手紙に、俺がお前を疑ってるって書いてあったから、だから俺がお前を疑ってるって? ふざけんな!!俺がお前を本気で疑った事はねえよ!」
「え、だって、そんな......っ!! そ、それに今だって! 今だって、私がこの女を傷つけようとしてるから、だから怒ってーー」
「このバカ!!俺が怒ってるのは、アリサ会長を傷つけようとしてるからじゃないだろ!! お前が、俺たちの中で一番心優しいお前が今大変なことをしようとしてる、その事に俺は怒ってるんだよ!!」
「え、そんな、だって、私.......わたしはっ......!!」
ほのかは包丁を落とした。




