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「はると。なにを、しているの?」
「え?」
後ろには刹那先輩が立っていた。物音1つたてず後ろに立っていたからだろうか。全然気付かなかった。
「......あぁ、いや、電話しまったら、なんか物音っていうか、人の声?みたいなのがこの部屋からしたんで何か気になって......」
すると、刹那先輩は不思議そうな顔をしている。
「物音?なんのこと?
......しない、よ?そもそもそこ、お父さんとお母さんの、物置だよ?物音なんて、するはずない」
本当だ。改めて聞いてみると特に変わった物音はしない。緊急事態で神経過敏になっていたのかもしれない。そもそも、人のうちの物置を勝手に物色すると言うのはかなり失礼だろう。
「あ、そうだったんですね。いや、他人の家の物置開けようとするって、俺って結構失礼だな〜」
「ん?他人......?」
刹那先輩は顎に手をあて不思議そうな顔をしている。
「......? 物置のことは、えっと、ごめんなさい。刹那先輩、それで準備っていうのは?」
俺がそう尋ねると、刹那先輩は、ああ、といった様子で顎から手を離し、俺の手を引く。
「ん。一応気休めかもしれないけど、ちょっと、部屋来て」
刹那先輩に言う通り部屋に戻ると、普段は見慣れない黒いベストのような物があった。
「先輩?これって......」
「ん。これは防刃チョッキ。はるとの家確認したら、包丁何本か減ってたから、たぶんほのかが持って行ってる。危ないかもしれないから、一応ね」
こんな物まで持ってるのか......まあ、持っていても不思議ではないよな。
刹那先輩の両親は基本的には家にはいない、そのため刹那先輩は一人暮らしをしている。
なんでも、両親2人とも戦場カメラマンなんだそうで、戦場で出会い、恋に落ち、そのまま結婚したのだと言う。話によると、劇的な出会いだったとか何とか。
そんなアブノーマルなご両親の影響もあってか、刹那先輩は相当な運動音痴にも関わらずなかなかのサバイバル技術や道具を持っていたりする。
今出してくれた防刃チョッキも、朝比奈家ではおそらく一般的な代物なんだろう。
「ありがとうございます。そ、そんなものまで持ってたんですね」
「備えあれば憂いなし、だよ。ただ、首とか手とか足とか、そこは守れないから、気をつけてね?
.....ねえ、はると。本当に、ほのかを説得に、行くの?」
刹那先輩は心配そうな顔をしている。確かに、ほのかの様子を聞けば心配になるのも頷ける。俺だって他の知らない奴がそんな凶行に及んだらまず間違いなく警察に届けるだろう。けどーー
「はるとも、分かってると思うけど。今のほのか、ちょっとおかしい。この状況だと、梅野って子のことも、ほのかが犯人かも。いくらはるとでも、危ないかもよ?」
確かに、ほのかは俺が今まで見たことがないほどに錯乱している。だが、そんな状態になるには何かしらの理由があるはずだ。
それに俺はまだほのかの口からは何も聞いていない。なんで、俺にあんな事をしたのか。ほのかが本当に梅野さんを殺した犯人なのか。ほのかの口から真実を聞くまで俺は納得できないと思う。
「ここで逃げるわけには行かないよ。ほのかは俺にとって大切な家族だから。理由もちゃんと聞かないで見捨てるなんて出来ない。
ーーそれに、今のほのかを止める出来るのは、俺だけな気がするから」
「ん、分かった。それなら私は、全力でサポートするよ、はると」
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取り敢えず、ほのかと話をするにしてもほのかが何処にいるのかが分からなければどうしようもない。
時計を見ればもう8時を回っていた。俺は皇にほのかが登校してきたらそれを報告する様に伝え、ほのかの居場所を探し始める事にした。
まだ学校に来ていないとすれば、思いつく居場所はほのかの家か俺の家くらいしかない。もちろん、ほのかが狙っていると言っていた、アリサ会長の家に張り込んでいる可能性も考えた。
だが、そもそも俺たちはアリサ会長の家が何処にあるのか知らない。この個人情報の管理がうるさい現代で、学校だってみだりに住所など教えるわけもなく、ほのかがそこにいる可能性は低いだろうと思う。
ほのかが登校中という可能性もある。俺と刹那先輩は二手に分かれると、俺はほのかの家と自分の家に、刹那先輩には急いで学校に向かってもらった。先輩にはほのかを見つけても俺に連絡するだけと頼み、了承して貰えたのでとりあえず安心だろう。
「それじゃあ、刹那先輩、行動開始としましょう!気をつけてください」
「うん、はるとも、気をつけて」




