準備
「まずは研究所側の要望を聞いて頂きます」キツネを見ながら博士は話を続けた。
「研究所及び所属職員は監獄とは関係ありません、看守ではありませんので皆さんを逮捕、拘束することはありません。逆の言い方をすれば、皆さんが監獄側に捕まろうと荒野でのたれ死のうと一向に構わないと言うことです」
「ドライな関係やね、問題ないさ」
「所長として職員たちに囚人と楽しく過ごしなさいとは言えませんので、基本的に双方接触はしないようにお願いします。それに伴い連絡は私からキツネさんを通して行うというのでよろしいですか」
「まあ当然やね、不当な扱いを受けないだけマシさ」
「研究所の目的は、前に説明したとおり新兵器の開発です。そのプランは今も変更されていません。ここにいる適合者の皆さんは貴重なテストサンプルなのです。よって皆さんが協力してくれる限り研究所もMSの出動に関しては尽力します」
「ギブアンドテイク、願っても無いさ」
「基本的な要望は以上です。皆さん側から要望はありますか」
「ここにいない者も含めて、どこにいればいい」
手を上げつつスターが質問した。
「それでは、この研究所についてお話しましょう」正面モニターを操作しながら博士が解説を続けた。
モニターには以下の説明が見取り図付きで表示された。
・開発区
ブリッジ、ハンガー、工作室
・資材区
食料備蓄室、資材保管庫
・居住区
寝室、食堂、診察室、ブリーフィングルーム
「大きく3ブロックで構成されています。進行方向から開発区、資材区、居住区です。皆さんが入れるスペースといえば工作室ぐらいなのでそこで待機して頂きましょう。基本的に開発区から出ないということでよろしいかな」
「了解した」
「……他に無いようですね。次は今後訪れるであろう監獄側の追手について話ましょう」
博士はモニターを操作し研究所周辺のマップを表示させた。
「この惑星は特殊な粒子の濃度が非常に濃く、電波による無線通信やレーダー波による索敵ができません。幸いなことにビーム兵器も霧散するため遠距離からの砲撃で倒される心配はありません。実弾による射撃は高価なため囚人捕獲に使用するのは考えにくい、よって近接格闘になると私は予測しています」
適合者たちは自分が関係する事だと気づいたらしく今迄より少し真剣に耳を傾けていた。
「こちらの戦力は未完成のMSに削岩車だけ。――ああ、後ほど改修のための設計図が仕上がるので囚人の皆さんにも力仕事を手伝って頂きます」
「オッケー、伝えとくさ」とキツネが返事した。
「MSが移動できるようになると言ってもキャタピラです、相手に動き回られては対処できません。そこで――ここに誘い込みます」
モニターの地図を拡大させ現在地にほど近い渓谷を表示させた。
「この渓谷は深く、易々とMSが超えられる高さではありません。幅も狭く迎え撃つには最適でしょう。追手は研究所のキャタピラ跡を追従するしかありませんので到着まで数日あるでしょう、それまでに準備を済ませましょう」
話を終えた博士は退室しようと動き出した足を止め、
「そうそう開発中のMSですが、Gと呼んでください」
研究所の進路が渓谷に向けられ、Gの改修が職員と囚人総出で行われた。