適正
肩まで伸びた純白のストレートヘア、覗き込むと引きずり込まれそうな漆黒の瞳、ベージュの肌に薄紅色の唇、端整な顔つき、そのバランスから触れるのを躊躇する焼物の磁器を思い浮かばせる。
ピンと伸びた背筋と動作に揺らぎがない立ち振る舞いから訓練を受けているパイロットであることが伺えた。
しかし、その表情には覇気が無く人を殺めることなど決してできないだろうと思わせた。
白衣の男は手招きで少女を呼び寄せた。
彼の斜め後方に立った少女は誰とも目を合わせなかった。
それ以前に、囚人が目の前に並んでいることに気が付いているかも疑わしかった。
「見ての通り、開発中なので戦力になりませんよ」
表情を変えず説明する白衣の男に、再び二枚目の彼が、
「他には無いんですか」と念を押したが、首を横に振られるだけだった。
「うまく占拠できたんですか」と眼鏡の彼が合流した。
「そっちは何とかなったんや、でも当てにしていた兵器がな……」とMSを見上げる細目の彼。
「削岩車を搬入したときに目に入ったので、もしやと思いましたが、はやり……」
「最悪は削岩車で暴れるしかないさ」
「削岩車ですか」二人の会話を聞いていた白衣の男が
「あれですね」と削岩車へ近寄っていく。
採掘プラントから持ち出した削岩車が少し離れた所に停車されていた。
片手を顎の下に当て何か思案している様子に、二枚目の彼が
「なにか気になるんですか」と声をかけた。
「足代わりにはなるかもしれません」と左右の腕を広げMSと削岩車を指差した。
「おぉ!」と光明を得た囚人たちの表情が明るくなった。
「しかしですね、もう1点問題が」
「おぉ?」とブレーカーを落としたように消灯する囚人たち。
「パイロットがいないのですよ」
「彼女がいるじゃないですか」と先ほどの少女を見る二枚目の彼。
「MSは複座なのですよ」
「それなら操縦を覚えます」若干熱くなっている二枚目の彼。
――このチャンスを逃したら脱獄できないのでは――という思いから食い気味に白衣の男にアピールしている。
「覚える必要はありません」
パイロットへの立候補を足蹴にされたと感じた二枚目の彼は更にヒートアップし、
「俺では不服だと!」
「そうではないのですよ、操縦はあの子がします」
納得いかない顔の二枚目を見つつ
「そうですね……、例えるなら包丁の扱いがスペシャリストのコックにレシピを教えて欲しいのですよ」
意味が判らず固まったままの二枚目に、
「指揮官が欲しいのですよ」と改めて説明すると、ある程度納得したらしくヒートアップした前傾姿勢を直立に戻す二枚目だった。
――まあ、正しく理解する必要はありませんよ。今はね……。
と説明する意欲を失った白衣の男は少女を見つめた。
「指揮官なら誰でもいいじゃねえか」と、いつも五月蝿い大男。
「それがこの新兵器のポイントで適正が無ければ指揮官になれないのですよ」
既に説明が面倒になった白衣の男は話の矛先を細目の彼に移そうとした。
「彼には適正テストを受けてもらいましたね。――残念ですが適正不足でしたよ」
細目の彼は残念とも安心とも思える表情をした。
「希望者は全員適正テストを受けられてはいかがですか」