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監獄惑星  作者: 猫文
神父
24/28

混沌

研究所のブリッジ。


奥歯を噛み締める博士、その表情は無念だけであった。

スノーの身を案じていない、研究が半ば失敗したことによる後悔だけが彼の体から滲み出ていた。


工作室。


「スノー!、神父!」

思わず叫んだスター。心配が勝手に声になって出てくる。


――駄目、か……。

脱獄計画が失敗に終わり落胆するモノクル。

外れた眼鏡の奥には、絶望に枯れた瞳があった。






「G動きます!、――パイロットランプ、レッド!」

ブリッジのオペレータが少し興奮した声で報告した。


無線通信が行えないため、Gの状態を外へ表示する必要があった。

パイロットランプはそれの1つでスノーの状態を表していた。

その色は、操縦席で何らかのトラブルが発生した場合、フィードバックシステムが機動したことを意味していた。


――レッド……

博士はにやりと笑った。まだ行けると。


フィードバックシステム、それは適合者と接続が切断され、操縦指示が受けられない状態で発動する保護機能である。

入力元が適合者からスノーに切り替わる。

要するに自分の思考を自分で読み取るのである。




※※※※※※※※※※




タイガーの記憶。

スターの記憶。

ネギの記憶。

リーマンの記憶。


今まで見てきた適合者の記憶が入り混じり、次々とスノーの脳裏で再生される。

既に自分の記憶なのか、他人の記憶なのかも曖昧になっていた。


感情の渦が、感覚の波が、欲望の洪水が、木の葉のように揺れる彼女を押し流し続けていた。




※※※※※※※※※※




ゆっくりと立ち上がるG。


両脇の排気口からは絶えずエアーが吐き出している。

冷却システムが追いついていない。


胸部装甲と一緒に錨がドスンと地面に落ちる。


開いた穴からスノーがうっすらと見える。

見えるはずの適合者はもういない。




アンカーは手元のスイッチを操作した。

巻き上げられる鎖、引きずられる錨、途中でGの胸部装甲が剥がれた。


再び回転を始めるアンカー。

装填完了。

錨の砲弾がGを襲う。



直撃!――したように見えた。

まるで荒野の蜃気楼、ゆらりとGの姿が歪み消えた。


リーマンが魅せた突進力。

スラスタとバーニアをフルバーストさせ一直線にアンカーへ向かう。


放たれた鎖が伸びきった。

その鎖を両手で鷲掴みにするG。

推進力を鎖へ伝達させる、その衝撃で両手の指が吹き飛んだ。


若干衰えた推進力だがアンカーを襲うのには十分だった。


重装甲のアンカーは回避を考えていない、

正面衝突上等でアッパーカットを繰り出す。


スターの魅せたダッキング。

攻撃を紙一重で回避し、その勢いのまま地面を強く蹴りつけた。


Gの飛び膝蹴りがアンカーの分厚い胸部装甲へ直撃する。

胸部装甲がへし曲がりながら上方へ飛んでいく。

Gもそのまま上昇。

足は衝撃に耐えられず膝から下が取れてしまう。


そこへ追い討ちをかけるよう、錨が飛んできた。

装甲が剥がれ、薄くなったその体へ、錨が深く飲み込まれていく。


後ろへ倒れ込むアンカー。

片足で着地したGは体を反転させ再びジャンプした。

アンカーの胸に刺さる錨、それを残った足でさらに踏み込む。

タイガーのしつこさが乗り移ったように――。


片足ではバランスが取れず、そのまま横転した。



パイロットランプが消えた。

それはスノーの意識が消えたことを意味していた。


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