畏怖
ハンガーの整備台に直立するG。
今はハイドラの手足が装着されていた。
クラブの足、クロウの腕は損傷が激しいため廃棄された。
全高は14m、ようやく人型らしい姿になった。
博士からの連絡では今日、新たなMSが来訪するらしい。
ハンガー横の待機室で、スノーとリーマンが離れてベンチに腰掛けていた。
コミュ障のスノー。
極端に口数の少ないリーマン。
普通、話下手な2人が個室に放り込まれると空気が重くなるものだが、この2人に限っては周囲の事など全く気にしてない様子だった。
「今回のMSは輝いています。ナイトと呼称します。がんばってください」
博士の明るい声が放送された。
待機室からスノー、少し間を置いてリーマンが退室した。
いつもの出撃準備が整った。
Gのコックピットハッチが閉まる。
「レディ……リンケージ……」
※※※※※※※※※※
革張りのゆったりしたソファーに腹の出た中年男性。
その背後には鍛えられたSPが2名。
秘書らしい男が目の前の机にアタッシュケースを置いた。
開かれたアタッシュケースの中は敷き詰められた金塊だった。
「ピッ」
ライフルのスコープを覗き込む。
ビルの1階から出てくる男性。先ほどの男ではない。
立派なSPが4人、周囲を警戒している。
男性の体がガクリと揺れると、足から崩れ落ちた。
――!。
「ピッ」
ライフルのスコープを覗き込む。
数十人が集まる集会場。その前には演台が設置されている。
手を振りながら男性が歩いてくる。
段差を登ったところで躓いたようだ。
起き上がらない。
――!。
「ピッ」
深夜、男性が郊外を歩いている。
背後から素早く近寄る。
男性の首が90度以上ありえない方向へ曲がる。
――!。
「ピッ」
日の挿す繁華街を男性が歩いている。
ゆっくりと背後から忍び寄る。
細長い針が男性の背中に差し込まれ、すぐ引き抜かれる。
――!。
「ピッ」
――!。
「ピッ」
――!。
「ピッ」
数百件のビジョンが再生された。
鮮やかな手口から残酷な手口まで。
ただし、どのビジョンも命を奪う以外の行為は記録されていない。
子供はターゲットに含まれていなかった。
※※※※※※※※※※
「ヴゲェッ――」
スノーのクチから昼食が返却された。
ビシャビシャと落ちる具材がコックピットの床にトッピングされた。
室内に漂う爽やかな酸味の香り。
殺しのテクニックが滝のような勢いで脳裏に流し込まれた。
タイガーの時に感じたどす黒い欲望でもなく、スターの悲しみでもなく、ネギの苦しみでもない。
感情が全く含まれていなかった、それが更なる恐怖をスノーに与えた。
自分だけが知り得る情報、もし彼に悟られたら確実に殺される。
ハンガーから出撃したGがナイトに近づく、およそ100m手前で停止した。
博士がナイトと名付けたのに相応しくプラチナホワイトの機体だった。
ボディの至る所にゴールドのライン、手には5mほどの剣が握られていた。
全高はGと同じぐらい、細身のバランスで整ったボディーはスピート系を予測させる。
ナイトの外部スピーカーから声が聞こえる。
「私は――」
Gが地面を蹴ったのと同時に足のスラスタとバーニアが最大出力で噴出した。
突進してくるGに対処できないナイト。
剣を振り上げるよりも早く通り過ぎ、体の向きを反転し背後をとるG。
ナイトの脹脛に蹴りを入れ、膝を落とさせる。
頭部の顔と後頭部を持ち回転させる、顔が真後ろを向く頃には首が簡単に外れた。
ナイトの腕を持ち、時計の針のように下、裏、上と回転させると腕も外れた。
落ちている剣を拾い股関節へ差し込むと足も外れた。
一呼吸で今までの流れをこなし、ナイトを5個のパーツに分解してしまった。
「スノー、――さんと仰いましたか」
心拍数が跳ね上がる。
リーマンが初めて声を発した。何の特徴も無い声だ。
威圧感も殺意も無い。
「先ほどからの態度、何か感づきましたか」
さらに早まる鼓動。
「安心してください。《仕事》以外の殺しはしません」
さらに早まる鼓動。
「あなたが私の敵にならなければ、ね」
緊張と恐怖が限界点を突破した。
体中の筋肉が弛緩し、彼女は気を失った。




