不満
「刑期は満了しているんだ、それなのに……」
短く切り揃えられたブロンドの髪、人目を惹きつける二枚目、青い正義感丸出しの声、作業着の上からでも判断できる鍛えられた逆三角形の体、その全身から若々しさを溢れさせていた。
そんな彼が昼食を口にしながら愚痴をぼやいていた。
食堂の一角、6人掛け(3×2)のテーブルに二枚目の彼は腰掛けていた。
室内は食器、椅子、テーブル、人の声がオーケストラを奏で、落ち着いてランチを楽しむ雰囲気ではなかった。
「ここへ来て日が浅いのかい」
食事の乗ったプレートを運びつつ隣へ座った囚人が聞いてきた。
少し伸び始めているダークブラウンの髪、不精ヒゲ、優しさを含んだ落ち着いたトーンの声、少し背中を丸めているが二枚目の彼とはそれほど身長は違わない。年齢は5歳は離れているだろう。
一番の特徴は眼鏡の片方のレンズが外れているところだった。
「ここへ来た者は必ずその言葉をこぼすんだ、私は1年前だったけどね」
自嘲的な笑みを浮かべながら彼は続けて、
「看守にかけあっても相手にされない、追い返されるだけです。ここは同じ境遇の連中が集まっているんですよ……。皆さん死んだ魚のような目をしているでしょう、諦めてしまっているんです」と目を細くしながら淡々と語った。
「そんな事が許されるのか」
「許すも許さないもありません事実なんです、きっと親族には死んだと伝わっているんでしょうね」
――ああ、この人も諦めてしまったのか。
そんな事を考えながら二枚目の彼の拳はスプーンを硬く握り締めわなわなと震えていた。
「良くある光景だねえ」
食事の乗ったプレートを運びつつ2人の正面に座った囚人は、ニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
元気に立ち上がったライトブラウンの髪、いつも笑っているだろう上がった口角、常に人を小バカにしたような声、身長と年齢は二枚目の彼と大差なかった。
特徴的なのは、開いているのか閉じているのかわからない細い目だった。
「あ、気分を害したのなら謝るよ、私もその1人だったからさ」と、まだニヤニヤしながら話を続けた。
「その怒りの矛先これから探すんだろ、暴れてみるかい?、止めはしないよ発散は大事さ~。――反抗的な態度は刑期が延びるかも?、大丈夫さ~心配ない、ここの刑期は全員終身さ~」
慰めてるのか、貶しているのか、煽っているのか困惑している二枚目の彼を見つつ
「数ヶ月もすれば死んだ魚の仲間入りさ」
「俺は仲間になんてならない、諦めるものか」
叫びたいのを必死に耐えている様は、隣に座る眼鏡の彼にも共感できた。
「そこでだ、私に良い考えがあるのだけど」
人差し指をクイクイと動かし近くに寄れとジェスチャーをしている。
明らかに怪しいという表情を隠すことなく、しかし興味のある二枚目と眼鏡の男たちは顔を近づけた。
「脱獄しないか」