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監獄惑星  作者: 猫文
ネギ
19/28

蹴球

ブリッジから外を眺める博士。


「来ました、トレーラーです」

オペレータが来客を告げた。


砂嵐の晴れた日はレーザー通信が使用可能だった。

数日前、博士はシャトル発射場の責任者と話し、今日ここで対峙する計画を相談していた。


トレーラーの荷台にはシートが被せられていた。

作業員らしき男達が下車し、シートを取り除いていく。


MSが機動し立ち上がった。


ワインレッドの機体、所々黒が混じっているがほぼ赤。

人型。特徴的なのは足だろう、すねはスポーツ選手が足に装着するレガ-スに似ていた。

脹脛ふくらはぎには大型のスラスタ(推進器)、かかとにはバーニア(副推進器)が取り付けられていた。



「お客様が来ました。ハイドラと呼称します。ネギ君、おもてなししてください」

室内放送スピーカーから博士の声が響いてきた。




――ハイドラ?何だろう。

ハンガーにいたスターは外を見ていなかった。

真っ赤な消火栓を捩ったことに後から気づくのだった。


スターとモノクルは荷物を引きずっていた。

歩行機能が付いているはずだが、今は電源か切れているらしい。

整備台のエレベータを上昇させGのコックピットに荷物を押し込める。

操縦席に座らせ、ヘルメットをかぶせ、シートベルトをロックした。


「ふぅ~」と2人は息を漏らす。


――悪いな。

スターは暴れたネギのボディーに一撃入れた事に謝った。

コックピットへ放り込んだ行為には悪気は無かった。


――もしGに乗らなければ問答無用で囚人を放り出すだろう、博士はそんな人種だ。

モノクルも目的達成のために手段を選んではいなかった。


整備台のエレベーターが遠ざかると、静かにコックピットハッチが閉じた。


「レディ……リンケージ……」


まだネギの意識は戻っていなかった。



研究所の正面ハッチが開いた。

しかしGが出てくる気配はまったく無い。




「ヘイ、ヘイ!、ヘイ!!、ヘイ!!!」

ハイドラの外部スピーカーが苦情を撒き散らす。


「話はついてるんだろ、いつまで待たせんだ。気の長い俺でもインスタントラーメンが出来上がるぐらいは待てるんだ」


――短気なヤツだな。

スターは同類だと感じていた。


1分経過した。


「そうかい、食い終わるまで待てってか。――待てるかボケェ!」

そう言い終えると向かってきた。


――3分も経ってないだろ。

おれ以上短気なやつがいるんだとスターは嬉しくなっていた。




ハイドラは研究所のハンガーへ入ってきた。


蜘蛛の子を散らしたようにハンガーから避難する職員と囚人。


「安心しな、おれはコレを壊すよう命じられただけだ。この施設には手出しはしない」

ハイドラはGの足を持ち外へ引きずり出していた。


Gの足はクラブのまま。

足先の杭がハンガーの床を引っ掻いた。

黒板を爪で引っ掻く音の強烈版がハンガーに鳴り響いた。


その超音波を聞いたネギはようやく目を覚ましたのだった。


――暗い、狭い、揺れている。


状況を把握できないネギは混乱していた。

少しずつ意識が覚醒し周囲を観察できるようになったネギは、ここがコックピットだと理解した。




ライン引きで線を描いたように、Gの引きずったあとが描かれていた。

研究所から少し離れた所で手を放したハイドラ。


「よう蜘蛛野郎、パイロットは乗ってるのか、あぁ?」

Gの名前までは説明を受けていないようだ。


「返事がないなあ、ま~~知ったことじゃないがな、壊せば仕事おわり、ボーナス頂きだ」


ハイドラの脚部スラスタが火を噴く。

「行くぜ、オラァァァァ」


強烈なケリがGを襲う。

水平に放たれたケリ足は、Gの側面を強打、若干上方の力も加わっていたため浮き上がり、Gを10mほど跳ね飛ばした。


ケリの衝撃、地面に叩きつけられた衝撃はGのコックピットにも届いていた。

人間の脳が頭蓋骨の中で浮いているように、Gのコックピットも浮遊構造になっていた。

ある程度の衝撃ならば吸収できるが、限界値を超えると障害が発生する。

それは脳もコックピットも同じであった。



幼い子供がボールを蹴って遊ぶように、少し前に蹴り追いかけ、また蹴って、と延々と追いかけっこを楽しんでいる光景が展開されていた。


Gが動き出した――が、攻撃ではない。

顔と体を腕で覆い隠し、足は畳んでコンパクトに。

まさに亀である。


「何だぃ、何だぃ!、何だぃ!!、乗ってんじゃん。動けるなら早く言えよぉ、一方的だとツマラナイだろ~が。かかって来いよぉ」


ケリの角度が今までと違う。

斜め上段から、斜め下段へ向かうケリ。

記号で例えるならスラッシュ(/)の軌跡。

空手家が立たせているバットをケリでへし折る時もこの軌道を描く、力が分散しないよう地面へ押し付けるのだ。


過去最大の衝撃。Gのコックピットが激しく揺れる。


「――」

ネギは悲鳴1つあげない。

Gと同じ亀のポーズのまま動かない。


次のケリがGの足に直撃する。

間接部分で千切れ1本少なくなる。

今度は反対側からのケリ、もう1本千切れ2本目も無くす。




※※※※※※※※※※




――いつまで続くの。


小学校だろうか、幼い子供が沢山いる。

皆、笑ってる。

ドッジボールで遊んでいるんだろう、ボールが飛んでくる。

敵味方の陣営が書いてない。

どうやら丸く囲われていて、その中心でボールを受けているようだ。


――もうやめて


「ピッ」


ゴミ箱かな。

でも上下左右の小部屋には綺麗な靴が並んでいる。


――どうして


「ピッ」


ゴミ箱かな。

そんな筈はない、これは机だ。


――何でボクだけ


「ピッ」


トイレの個室。

上から水がかけられる。


――酷い


「ピッ」


青く高い空、雲もまばらで良い天気だ。

誰か体の上に乗っているらしい、ニタニタと気持ちの悪い笑い顔が見えた。中学生ぐらいだろう。

拳が振り下ろされる。

さらに歪む笑い顔。

拳がまた振り下ろされる。


――痛い


「ピッ」


曇天模様の重い色。雨でも降るのかな。

誰かが体の上に乗っている。

前とは違う顔、高校生ぐらいだ。


でも同じ。

あの笑い顔は全員同じ。

ゴミを見る目、虫を見る目、獲物を見る目。

口角をあげてにやけるクチ。

歓喜の笑い、優越感の笑い、蹂躙する笑い、快楽の笑い。


――何で


おや、今まで笑っていた彼の顔が引きつっている。

岩を持つ手。


――そうだ


彼の額に岩がぶつかる。

尻餅をつき後ずさりする彼。

目線が高くなった。立ち上がったのだろう。


――いけ


四つん這いに逃げる彼。

後頭部に直撃する岩。


――もっとだ


何度も叩きつけられた岩、ペンキでもこぼしたような水溜り。

動かなくなった彼。


――自由だ!


「ピッ」


薄暗く汚いトイレ。

振り返るとタイガーがいる。

またあの笑い顔だ。


――どこも同じだ




※※※※※※※※※※




「死ねばいいのに」

雪のように冷たく掴むと消えてしまうような声でネギの耳を凍りつかせる。


突然、冷たい声に心を刺されたネギは錯乱した。


「い~や~だ~あ~~、嫌だ、嫌だ、嫌だあああ」

足をコックピットの床にガンガン打ちつける。


「何で、どうして、ボクだけが、生きてちゃいけないの?、いたら駄目なの?、なんで皆ボクを拒絶するの、何で!、何で!!」




Gは、残っている後足2本で、前へ飛翔する。

ハイドラの正面に体当たりが命中、そのまま後ろへ倒れこむ。

馬乗りになったGはクロウの爪をヒート状態にする。


振り下ろした爪がハイドラの顔面にめり込む。

周囲に金属の溶ける臭いが撒かれる。

離れる爪、どろりと溶けたハイドラの顔、装甲が剥がれ機械が剥き出しになっていた。


反対側の爪が振り下ろされた。胸にめり込む。

ヒート状態が解除され、爪がもとの色に戻る。


ハイドラの活動が停止した。




「どうして、どうしてだよ。ボクが何をしたって言うんだ」


「殺したじゃない」


背中に氷を入れられたかのように、びくりと背筋を伸ばすネギ。


「――彼を、――あなた自身を」



声を殺して涙を流すネギ。

誰も動く者がいなくなった荒野で。

聞こえるのは砂嵐の音だけ。





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