新システム3
「さすが、ノリにノってるエースは違う!運も持ち合わせています!フジオ選手の挑発とも取れるいきなりのランダムチョイスに受けて立たんとばかりに即座にランダムチョイス!その軍配はインフレ選手にもたらされた模様です!さぁこの試合どうなってしまうのでしょうか!!!」
A級の武器、速射砲ミストルテインを引き当てたインフレは片手を突き上げる。その態勢を待っていたかのように、ミストルテインは実体化し始めた。肩口から覆うようにその装備はインフレに装着されていく。
「っち!実況も皮肉なことを言いやがる、俺はお前と違ってノってないってさ!俺はいつでもノリノリだ、楽しんでるぞ!なぁインフレ」
「ふっ」
口から空気音を漏らしながらシャドーボクシングをするフジオを晴れた顔で見ながら装着されたミストルテインで彼に照準を合わせてみせた。
フジオはその行動の意味を察したのか、拳を向けて応戦した。
「で、その武器は俺にくれるんだろ?さっきのお返しに」
あえて思ってもないことを口にしたフジオはニンマリと笑って見せた。インフレの顔つきが先ほどまでとは違っていることがそうさせたのである。
「ふん!断る!」
真剣な表情で応えるインフレ。そしてそれに呼応するフジオ。ようやく二人の戦いが始まろうとしていた。
「それじゃ、お待たせしまた、観客様がた!いっちょイカせていただきますか!!」
ファイティングポーズを取り直し、軽いフットワークで2,3回ジャンプすると着地と同時一気に間合いをつめ駆けよる。
「所有権破棄、エリカ頼む」
つぶやくインフレの言葉が届くか届かないうちにミストルテインは姿を消し、応戦するためかけ出していたインフレだったが、それよりも早く攻撃モーションに移っていたフジオの渾身の一撃を真正面から受けると、その凄まじい衝撃でもといた場所まで吹き飛ばされた。
「っち!なめやがって」
そんな言葉を吐きながらフジオは笑いながら軽くステップを踏んでいる。撃ち込んだ拳の感触でその一撃は不発に終わったと自覚しながらも、不意を突かれたその行動に別の手応えを感じていた。
インフレは起き上がった。
腕に盾を装着している。そしてもう片手には2本の回復ドリンク。
「ホラ!お返し!」
態勢を整えインフレの放ったそれをパンチするように受け取ると、それを上下に振り始めた。
「な、なんということでしょう!!さきほど折角手に入れたA級武器を放棄して自ら課金してアイテムを相手に返す!そして二人は!互いに交換し合った回復ドリンクに手をかけておりまああああっす!!」
沸き立つ観客をよそにフジオは忠告する。
「よく振ってから飲めよ。下の方に白い粉が残るからな!どうやら回復の成分はその粉のほうで飲み物自体は普通のジュースらしいぞ」
「ふーん、覚えとく」
素直にドリンクを振り、一気に飲み干す。
「じゃあその代わりと言っちゃあなんだが、この際どうだ?アイテム無しの肉弾戦勝負ってのは!」
「断る!絶対に勝てん!生身であんなパンチ打てる人間を見たのは二人目だ」
「ほう、奇遇だな俺も知ってる、できれば思い出したくないが、ここでは嫌でもついて回る。あいつが王者でいる限りな」
フジオが見上げる視線の先、そこには特別観戦席で腰掛けるアレクサンダーの姿があった。
「あの目だ、あの時から全く変わってねー。一体何を考えてんだか一切わからんあの目。俺は正直、好かん!これはあいつにボッコボコにされたから言ってんじゃねーぞ、インフレ!自慢にもなんねーがあいつと戦って生き残った奴はここ数年で俺しかいねーんだぞ!」
「俺もあいつは嫌いだ。見下されてる気がする!俺はぜってーあいつに勝つ!」
「いや、勝つのは俺だ!俺のパンチはあの時よりさらに強い!!」
「いや俺だ!!」
「うっせーぽっと出のガキ!!調子に乗んな!さっきまで仏頂面してた野郎がよ!!」
「なんだとフジオこらあああ!」
「「待ってろ!王者このやろう!お前を倒すのはこの俺だ!!」」
同時に同じセリフを王者にぶつけた両者。
どよめく会場と停滞した試合に困惑する実況をよそに二人はしばらく特別観戦席を睨み続けた。