新システム2
「なんだ、浮かない顔だな。新入り」
試合開始を待つ対戦相手が唐突に口を開く。金髪オールバックで装飾品をこれでもかと装着した青年は慣れたように試合に望む。インフレはその言葉に反抗的な目線を返したが、口を開くことなく視線を逸らした。
「気に入らないのか?新システム。それともあれか?彼女にでもフラれたのか?ハッハ!」
伺うように、挑発でもするかのように覗きこんでくる相手に対して、これ以上の感情を出すことを馬鹿らしく感じたインフレはそのまま無反応を決め込んだ。
「まぁ理由はどうでもいい、お前がどんな理由でそんな面してても俺には知ったこっちゃーねえ。どうせ勝つのは俺だからな。環境に順応できない奴は淘汰されていくだけだ。お前はどうする?このまま不貞腐れて淘汰されていくのを待つか?」
見透かしたように言いたいことを言ってくる対戦相手。言い返したい衝動が、口を開かせようとしたが同時に鳴り響いた試合開始のゴングでそれは遮られた。
「いい忘れてたが、俺はフジオ、Aランカーだ。短い間だが、よろしくな!じゃあ、早速イカせてもらいますか!新システムランダムチョオオオオオオオオイッス!」
それまで保っていたファイティングポーズを試合開始直前に解くと、フジオは高々宣言した。一試合一度限りのランダムチョイスを実装された第一試合それも試合開始直後に叫んだフジオに対して観客は割れんばかりの歓声で応えた。盛り上がる会場と興奮する実況の中、巨大モニターに映しだされたスロット。
回転しながら切り替わるアイテムを眺めながら、観客も期待と興奮を押さえられない。実況に促されるようにしてストップ宣言をしたフジオは次第にゆっくりになるスロットを見つつ、視線を時折インフレに向けていた。
「おおおっっっと、これはなんと言っていいのでしょうか!新システム一発目!出たアイテムは
回復ドリンク200mlだ!」
当然ながらハズレの部類のアイテムというのは観客も瞬間的に把握し、どよめきと笑いが混じりあい異様な盛り上がりを見せた。
フジオはハズレを引いたことなど気にもとめず、観客の盛り上がり具合を眺めながら満足したのか満面の表情で手を差し出すとそこに立体化されていく回復ドリンクを掴んだ。
「っふ、まぁこんなもんだ!ホレ!」
掴んだドリンクをすかさず放おってよこしたフジオの行動に意表を突かれたインフレだったかなんとかそれを懐に収めると、フジオに改めて視線を向けた。
「やるよそれ。景気づけに一杯ヤレや!その浮かねー面も回復するかもな!」
呆然とするインフレの前にフジオは続ける。
「お前は何を見てる?どこを見てる?何を求めてここに来た?さっきはどうでもいいって言ったが。そんな面したヤツに勝っても気持よくねぇ!今ココいるのは俺だ!!俺しかいねーんだ!!新システム上等!ハズレ上等!運営なんてクソ食らえ!俺は俺だ!!俺を見ろやインフレ!!対戦相手はこのフジオ様だ!!!」
すべてをかき消さんとする勢いで飛ばしたその言葉はインフレを貫いた。
インフレは知った。
ここで戦う人間の覚悟を知った。
フジオはすべてを覚悟してそれでも命を賭けてここにいることを。
おもわずインフレは吹き出すように笑った。そしてそれを見守るようにフジオは満面の笑みを見せている。
「ランダムチョイス」
つぶやくように、しかし力強く発せられた言葉。インフレはまたも湧き上がる歓声と実況を前に吹っ切れたような顔でまっすぐフジオを視線に捉えていた。
「っと!きたああああああああああああ!!!!!来ましたあああああああああ!Aランク級の武器!速射砲ミストルテインだああああああああああああ!」