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インフレ!!!  作者: おまんじゅう
4/13

観戦者

インフレとローウェルの対戦を見届ける二人。

一般観客席より更に上の特別観戦席。ガラス張りから試合会場を見下ろしている。

選手、大会関係者のみが入室することのできるこの個室に二人、観戦者として存在していた。



「おや、何か思いついたようですね。この試合もそろそろおしまいのようですね」


低めの声、落ち着いた雰囲気、丁寧な言葉使い。整った顔立ち、白い長髪を後ろに一つで束ね、カプセルのエンブレムをつけたスーツ姿の男が一人。


「そう・・・ですか」


覇気のない声で答える少年が一人。男は興味なさげな態度に気づきながらもそこには触れることもなく、優しく少年を見つめた。そんな男の視線など気づきもせず、思いつめたようにその試合を見つめている少年。興味なさげにそれでも一点を見つめるように視線だけは試合会場に向けられていた。

歓声が上がる、それはガラス張りの観戦室を揺さんとばかりにぶつかる。そしてそれをきっかけにようやく少年は我に返ると自分に向けられた視線に微笑みを返した。


「インフレさん、勝てますか?」


そんな当り障りのないことを少年は聞いた。


「そうですね、最短昇格Aランカーの実力は申し分ありません。少なくとも彼にはその資格があると判断されたようです。きっと勝ちます。そうしてもらわなければ私が困ります」


「私が・・・ですか?」


すでに視線は試合に向けられている。歓声の中の静寂が二人の間を一瞬支配したが、すぐに男はそれを打ち消した。


「失礼しました。私達が、でしたね」


少年は訂正をさせておきながらもそのことに満足するわけでもなく飄々とした態度を保っている。自分が置かれている状況を完全に把握しているかのように、悟っているかのように、自分に起きる未来すらすでに見えているかのように落ち着いた雰囲気で、それは少年という言葉に違和感を覚えるほどだ。


「インフレさん覚えててくれますかね?思ったほど騒ぎなってなかったみたいですし」


見下ろす先、雌雄を決すべき奮闘する両者の攻防。彼らはまだ気づいていない。気づくすべも知る由もなく、ただ目の前にあるもののみに集中している。脇芽も触れず、観客の声援すら耳に届かない。そんな彼らに二人の思惑など届くわけはなかったのだ。


「三ヶ月後。あなたはインフレと戦うことになります」


「はい・・・でも、どうして彼なんですか?僕はだれでも」


「あのイベントはあれでよかったのです。エリカの対応は計算済みのこと。失礼、エリカというのはインフレのマネージャーです。要するにあそこで仇討ちの騒動を起こすという行為そのものが目的ではなく、もちろんその相手がインフレである必要もなかったのです。必要だったのは彼を担当したのがエリカであるということ、あのイベントを指揮していたのが彼女だったということだけです。彼女は狡猾な人間です。彼女が担当すれば自ずと注目を集める新鋭となれる、それほどまでに彼女のマネージング能力は秀でています。それは運営も認めています。そう、運営のお墨付きなのです。それを利用します」


「そうですか、でももし万が一、あの一件を事件として処理されていたらどうするつもりだったんですか?」


「・・・・・・意地悪ですね。私が言えるのは今こうしてあなたはカプセルの選手としてここに存在しているということだけです。なぜ法律で仇討ちが禁止されているかご存じですか?この仇の連鎖を利用して永久的に選手を集めるためです。あなたはそこに付け入る以外に方法はなかった。経歴を偽り、名を偽り、仇を討つという名目を借りて今ここに存在しているのです・・・・・・ただ、ただ一つだけ謝らせていただきたいことがあります。私がもう少し、ここでの地位を確立できていたのならば、エリカがインフレを引き上げたようにあなたを無条件でここに引き入れることができた、それだけは私の力不足です。お許し下さい」


頭を下げる男をよそに少年は試合会場を覗き込んでいる。


「決着。ついたみたいですね」


大きなどよめきが会場を包んでいた。久しくなかったAランカーの敗北宣言。ローウェル・マクナイトは自ら敗北を認める言葉を口にしていた。


「この中の一体何名がこの試合の意味を理解できたのでしょうね?ごくごく一部、僅かな者しかこの意味を理解できていないはずです。しかしその小さな声はすぐに掻き消される。そしてAランカーから敗北宣言を勝ち取ったインフレはさらなる高みへと登ることになるでしょう・・・・・・。行きましょう、あなたには時間がない。やることは山程あります」


いつの間にか頭をあげていた男はどよめきが歓声に変わりつつある会場を眺めながら、微かに声に力を込めながら意気込むと観戦室を足早に立ち去った。


「ローウェル・マクナイトさん、面白い人だ。一度会ってみたいなー」


少年はこれから始まる自分の運命をおそらく知っている。知っていて、それでも前に進む。ひっそりと人知れず始まったそれはやがてインフレを巻き込んだ大きな渦を引き起こすことになる。

しかし、今、そのことに彼らは気づくすべも知る由もない。










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