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小仙女――わけありで汚れ役の傷ものヒロインがけなげに頑張る  作者: 壺中天
第2章 水底の指輪(みなそこのゆびわ)
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野盗退治

傭兵は小魔女を野盗から助ける

 

 我の“主人”なるものは幼い青さを残したほそやかな少女である。その未熟で固い果実を裂くように肢体をおしひらかせ、賊である三人の男達が蜘蛛のごとく覆い被さっている。


 一人は腫瘍の潰れた尻を剥き出し、百合の白をした我が主の腿の間で、忙しなく腰を揺すっていた。いま一人はやわげな腕を踏竹にしてしだき、小さくふくらんだ乳房を抑えつけている若造。残る一人は華奢な顎を長い後手で把み、中腰に肌蹴た股座の赤黒いものを、無理矢理に口腔へ突っ込もうと、瑜伽ゆが行者の如く妖しい恰好だった。

 悲惨ながらいつの世にも変わらぬ眺望よ。人とは命とはかくてありなん。


 我の魔力は彼奴らの名を知るがことさら明かすに及ぶまい。所詮消え行く雑魚に過ぎぬではないか。

 とはいえ我もいささか癇に障っていた。我は少女を導く使者にして少女は我が預かる希望、そうそうは穢げな逸物をあられもなく突っ込まれたらたまらん。


「やめんか!」

 駆けつけた傭兵が腹に据えかねたらしく大喝する。我にいわせればいらざることだ。ただに切り伏せればよい。

 後の二人には警告になったが腫れ物の尻は没我にある。尻のごとく双つになった頭から、下痢のように脳漿を飛び散らせ、少女の内に精を放って本望成就した。

 返す刃を偏平足の乳搾りがかわす。傭兵が踏み込んで袈裟懸けにした。

 仰け反る乳搾りの若造が胸を血の前垂れに変える。

 絹の手触りせる後髪を捲き取るように抓かみ、長肢ながあしの蜘蛛のような行者は少女のからだを引き起こす。

 滑らかな腿を赤い筋して流れるは返り血でもないようだ。


「おっと、旦那よ。ちょいでも動きゃよ、雌鳥ちゃんの喉頸のどくびが裂けちまうぜ」

 長肢蜘蛛あしながぐもめが淡い光の金をした髪を吊り上げ、白鳥まがいにほっそりとした頸部へ短刀を当てる。大した膂力だが娘も人ならず軽い。人ならざる半精霊半妖魔の巫女なればな。

「うぬ」

 傭兵が凝固する。我は音なく肩へ降りた。

「暇をゆるすとは手緩いわ。しぶとい雑魚がやるものよ」

 かくのごとく評する。


「かっ、鴉……化け物!」

 蜘蛛行者は片頬に余裕の笑みとも痙攣ともつかぬものを浮かべながら後退さる。




「構わないさ、一緒に叩っ切ってよ」

 少女が身を捩って藻掻き、獣の唸るようにいう。喉から憎悪のふつふつとたぎりたつ声に俺はむなわるくなった。

 少女は俺の躊躇ためらいを余所に、盛んに踵で蹴ったり肘撃ちをかます。狂ったような暴れように、痩せた男の腕が緩んだ。

 途端に下肢が跳ね上がり、奴の面を蹴飛ばした。勢いと反動はずみで少女の喉が掻き切られる。

 笛のような音色をたてる呼気と迸る鮮血にもかかわらず、少女は立っていた。噴き出る血が闇の色に変じるのみて、相手は及び腰になる。

「よくもやったね、くたばりな!」

 ほっそりとした躰が獣の攻撃姿勢になり、その髪がざわりと騒いで尖耳が覗ける。

「よせ、気取られるぞ。無制御な力を解き放てば、我も隠蔽しかねる。野盗風情より厄介な手合いを招くであろう」

 少女の肩に鴉が舞い降りて水をさした。

 ふくれあがった瘴気は抑えこまれが、男のきびすを返させるに充分だった。諸手で掴んだ石が叩きつけられ、彼の後頭部か熟柿のように爆ぜた。虫の息のところを岩に引摺り、さらに叩き潰す。それから虚脱したように座り込み、ぽろぽろと無防備に涙をこぼす。

 項垂れた百合に似た白い頸筋くびすじ疵痕きずあともなく癒えており、俺はそのほっそりとしたうなじを見詰めながら当惑していた。





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