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小仙女――わけありで汚れ役の傷ものヒロインがけなげに頑張る  作者: 壺中天
第1章 壺中の灯火(こちゅうのともしび)
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妖面道士

女児のため妖術師は薬草を煎じる

 

 目覚めると夢の記憶は薄れた。


 様々な薬と煮炊きの混然とした臭いがする。

 山猫のような瞳孔が光の加減を調節する。

 ほどよい温もりと空腹感を覚えながら伸びをした。

 上から乾燥させた薬草が吊り下がっている。

 隠者のいおりの中のようでもあり、魔女の洞窟のようでもあった。

 質素な木の寝台に寝かされ、素裸のからだに毛布が掛かっている。


 パチパチと炎の燃えはじける音のする方をみやった。

 黒衣を纏った長身痩躯の人物が、かまどに懸かった鍋を掻き回している後ろ姿が目に入る。

 腰まである漆黒の髪を無造作に束ねており、その挙措は老賢者のように落ち着いていた。

「気が付いたな、丁度薬草粥やくそうがゆが出来た」

 意外に若々しい動作で振り向く。


「ひっ」

 女児は息を呑む。

 その相貌は苦行僧か死神のように髑髏じみて肉の削げ落ち、半面が邪悪な文様のような赤痣あかあざで覆われていたからだ。

 いや、顔ばかりではあるまい。黒衣から覗く片手片肘、片脛片足、おそらくは躰の片側すべてに纏わり付いているのだろう。

 それはあたかも炎の魔法ルーンででもあるかのようだった。“燃える炎の枝レーヴァテイン”、そんな言葉が思い浮かんだ。かつて、世界を焼き滅ぼしたといわれる破壊呪文である。

 まさかな、と首を振る。

「どうした、怖じ気たか。女子供向きの相好ではないが、我には似合いだ」

 低く嘲ける。

「あんたは何者?」

 女児は問う。隠者、僧、女衒、楽人。商人、盗賊、詐欺師、暗殺者。その印象が奇妙に揺らいで捉え難い。


「何であろうと我は我よ。我が名はローラン、“知識の盗人”と呼ぶ者もいる」

 このとき、女児の腹が鳴った。


「食うが良い」

 死神もどきが湯気の立つ椀を差し出す。

 女児は顔の半分を突っ込んだ。

「アヒーッ」

 猫舌であった。

 喉と胃の腑を焼く熱さに悶え、涙とはなみずをたらしながら、それでもすすりつづける。

 味などわからない。だが、うまいような気がした。

 調理したものを最後に口にしたのはいつだったろう。

 昔は薬草粥など不味くて大嫌いだった。何故か、懐かしい。

 忌々しいとしか思わなかった尼僧達の顔、自分の殺した見習いの少女が脳裡に浮かぶ。

 やさしかったことだってあった。けれど、拒んでばかりいた。

 全部、自分で踏みにじった。


「うっ、うぇっ……」

 女児は泣きつづけた。

 

次話 壺中の灯火 魔術談義


妖術師が魔法の杖を使わないわけ

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