08 人間じゃない
僕は空間を司る大精霊ジーク。
精霊の中でも希少な力を持って生まれた僕は将来有望なエリート精霊だ。
しかし、そんな僕も精霊の中ではまだまだ生まれたての子供で、舐められる事も多々あった。
だから僕は子供ながら考え、舐められぬよう喋り方から変える事にした。
威厳と高貴さを感じさせる喋り方によって周りの精霊達は僕に近付いてこなくなった。おそらく格の違いというものを感じとったのだろう。
油断すると、素に戻ってしまう時が多々あるけど、時間が解決してくれる問題だ。
そんな僕に精霊王様から命令が下される。ある本に宿り、必要な時に力を行使せよ、と。
精霊王様からの直々の命をうける事は名誉な事だ。僕は承諾し、本に宿り、その時を眠りながら待ち続けた。
ガリガリ
なんだ?
ガリガリ
い、いたい
ガリガリガリガリ
「い、痛い! 痛い! やめろぉぉ!」
僕は、痛みで眠りから醒めた。
眠りから起こしたのは、人間だった。
ただ、僕が知ってる人間と違い髪の毛と瞳が真っ黒だった。
まだまだ知らぬ世界があるのかと思いつつも、
「おい、お前! いきなり引っ掻くとは失礼じゃないかぁ! しかも痛かったぞ! まったく一体僕を誰だと思ってるんだか。この薄汚いない猿め! そもそもだね・・・・・・」
初めて味わう痛みに我を忘れ、高貴な僕としては珍しく声を荒げてしまった。
この時の事は後悔している。
過去に戻って説教を続ける自分に言ってやりたい。もう黙りなさいと。
そして気付きなさい、目の前の人間の表情が、険しくなっているのを。
目の前の人間・・・・・・いや、多分人間じゃないと思う。怒らせてはいけない人物を怒らせてしまった事に。
この時は、目の前の下等な猿が偉大なる大精霊の僕に暴言を吐いたので冷静な判断が出来なかったのは仕方ないと思う。
ここで謝れば、あれから逃れる事が出来たはずなのに・・・・・・愚かな僕は、人間風情が大精霊を殴る事など出来るはずはないと考え、さらに挑発してしまった。
愚かだと思うが、挑発したのには理由があった。本来精霊という存在は触れぬ事は出来ぬ存在で、例外が幾つかあって触れられるようになる。
精霊が眠りについていたりして無防備な時
精霊の意思
契約を結んだ者
精霊より格上の存在の干渉
僕が知る限りではこんな感じ。
本に眠りについていた時は仕方ない・・・・・・それにしても痛すぎだったけど。
そうした理由が有って、余裕だった僕は、お気に入りの帽子を取り上げられ、頭に大きな瘤が2つできてしまった。あの時の痛みは生涯忘れる事は出来ないだろう。
何故ダイスケが僕に触れれるのか、殴れるのか、よくわかっていない。
何回も言うが、多分人間じゃないんだと思う。そうじゃないと納得できない。
そんな最悪な出会いだったけど、ダイスケは悪い奴ではなかった。
話してみるといい奴で、少し短気なのが欠点だけど、無意味に暴力を奮うような人間?ではなかった。
僕の力を誉めてくれたし、うしし!
どうしてもというので仕方なく、契約を交わしてやったんだけど、その際の対価である聖なるお菓子なるものはとても美味しかった。
精霊は別に食事をする必要はないんだけど、娯楽みたいなもので食事をする精霊もいる。僕もそんな精霊だった。
その後、何故か怒鳴られ、流れで精霊王様に会い、そこで僕は時を遡る力を授けられた。
力の調整に数日かかったけど、問題なく使えるようになった。
これでダイスケが救いたい勇者の少女を救える可能性が出たらしい。
ダイスケにとってそんなに大切な人なのだろうか?
精霊王様は死ぬ可能性があるとダイスケに言っていたのに、ダイスケは迷う事もなく、時を遡り異世界に行くと決断した。
出発前に僕が宿っていた本の内容を軽く教えてもらい、状況を把握できた。
ちなみにだが、偉大なる大精霊である僕の欠点、それは文字が読めないという事だ。
けして頭が悪いとか面倒臭いとかで覚えなかったわけじゃない。
必要性を感じなかったから覚えなかったと言いたい所だけど、その・・・・・・教えてくれる精霊が周りにいなかった。
誤解しないでほしいのは、群れる事を嫌い孤独を愛する僕がそういった状況にあえてしたってだけだ。
まぁでもダイスケに馬鹿にされたから悔しいから少しずつ覚える事にする。
勇者の少女を哀れだと思ったけど、会った事もないし、顔もわからない勇者を命を賭けて守りにいくダイスケを僕は理解できない。
その後、慣れない力を行使して不安もあったけど異世界に辿り着いた。
ダイスケが辛そうにしてて、精霊王様の話を思い出し凄く心配になった。
暫くして回復したみたいだからよかったけど、何だったんだろうか?
ダイスケが身体や荷物をチェックしている間に、僕は自らの未熟さを知る事となる。
【ジーク? 聞こえるかい? 無事に辿り着けて安心したよ。レムレールの現在は743年の6月だよ】
精霊王様からの念話が届き、予定していたよりも、5年以上ずれてしまった事が判明した。
ちなみに念話は精霊王様から一方的に届くだけで、僕の声は精霊王様には届かない。
ダイスケに年月のズレを告げて責められるかと思ったけど、ダイスケは僕を責めなかった。怒らせると怖いダイスケだけど、やっぱりいい奴だ。
ダイスケが僕がこれからどうするかと聞いてきた。
契約を果たしたし、精霊力をほぼ使いきった僕が出来る事もないだろうし、何処か安全な所を探して精霊力が回復するまではのんびりしてようと思っていたんだけど
【ジーク、君さえよかったら、このままダイスケ君と共に行動し、力を貸してやってくれ。後、約束は必ず守るように。必ずだよ? ダイスケ君にも伝えといてね】
精霊王様からの念話が届き、ダイスケと行動を共にする事にした。
ダイスケは力を持っているけど、頭は残念だ。賢い知性派の僕がサポートしてやらねば、と考えていると
ドゴォォォォォォン!!
ダイスケが近くにあった不気味な色をした大樹を振りかぶって殴ると大樹が根っこから引き抜かれ遥か彼方へ飛んでいった。
その後、ジャンプしたら不気味な大樹よりも高く跳んでいた。
絶対人間じゃない。
僕は確信した。
もし本気で殴られたら・・・・・・考えるだけでも恐ろしい。
いや、本気じゃなくても死ぬ。
頭にくらった鉄拳は、ダイスケからしたら小突いたようなものだったのだろう。
ダイスケに抱えられながら、僕は思う。
こんな化けも・・・・・・ごほん、強者いないと思う。
どんな困難も圧倒的な力で解決しそうだ。
遠くから大きな足音が聞こえてきた。
ダイスケはニヤリと笑ってスピードをあげた。
ニヤリと笑ったその顔は獰猛で、血に飢えた野獣にしか見えなかった。
大きな魔物が、こちらに突っ込んできた。
僕は放り投げられながら、視界にうつる光景に唖然とした。
ドンッ!!
ダイスケが巨大な魔物の突進を、片手で受け止めている。
そして自由な方の手をブンブン回し、大きく振りかぶってから魔物の顔面を殴った。
グシャッ!
嫌な音が聞こえ魔物の顔面が消滅したのを見て僕は改めて思った。
【絶対人間じゃない】