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勇者が望んだ救世主  作者: サスケ
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05 大精霊ジーク

 

 いきなり飛び出してきた謎の生物に驚きつつも、何かこの状況を打破できる突破口、希望が出てきたんじゃないかと、期待していた俺の前に現れたのは・・・・・・


「おい、お前! いきなり引っ掻くとは失礼じゃないかぁ! しかも痛かったぞ! まったく一体僕を誰だと思ってるんだか。この薄汚いない猿め! そもそもだね・・・・・・」


 うん、変なのが出てきた。

 まず本から出てくる時点で変だし、見た目が怪しすぎる。偉そうな黒の帽子に漆黒のマント、黒のシャツに黒のズボン。黒一色で統一されている。どっかの悪の組織に所属してそうな格好だが、身長は俺の膝くらいしかない・・・・・・つまり子供だ。


「君のような下等な生き物に、この偉大なる大精霊である僕はだね、本来なら・・・・・・」


 そういえば、こいつさっきからじいちゃんから教えてもらった言語を話してるな。



「そんな偉大な僕に対してだね、いきなり暴力を奮うなんて、愚かとしか言いようがないね、愚かすぎる。この僕が本気を出せば・・・・・・」



 問題なく理解できるな、これも修練の賜物だ。

 じいちゃんはこの状況を想定していたのだろうか?だとしたら・・・・・・



「と、いったように、愚かな猿なんて一瞬で葬る事ができるのだよ? 何せ僕は偉大な大精霊であり・・・・・・」



 駄目だ、考えてもわからない。

 わからないがわかった事もある。

 この子供、いやクソガキがウザいって事だ。俺が言い返さない事を言い事に好き放題言いやがって! 強靭な忍耐力を誇る俺を苛々させるとは・・・・・・よし!

とりあえず黙らせよう!


「おい、さっきからうるせぇし、ウゼぇんだよ、変なクソガキ!」


「へ、変なクソガキってまさか僕の事を言ってるんじゃないだろうな?」


「お前以外誰がいるんだよ! このクソガキが! さっきから好き放題言いやがって! ムカつくから一発殴らせろ!」


 俺は腕をブンブン振り回しながらクソガキに近付いて行く。すると、クソガキは俯き肩を震わせ・・・・・・


「・・・・・・フッ、フハハハハァ! 何と、何と愚かな生き物なんだ!この大精霊である僕を殴るだと?? 精霊王様にも殴られた事のない僕を? 笑わせてくれる。いいさ、殴ってみろよ、下等な猿め! 言っておくが、先程僕に痛みを与えられたのは眠りについていたからだぞ? だが今はバッチリ起きているわけだ。殴れるのなら何発でも殴ってもいいぞ! まぁ無駄だろうがな? というか、触れる事もできないだろうがな! クククッ、ほらどうした? 早く殴ってみたまえ。僕を殴りたいんだろ? どうせ無理に決まっ・・・・・・あれ? ぶべっ」


 唐突に笑い始め、挑発してきたクソガキに俺は何の躊躇いもなく、偉そうな帽子を放り投げ、怒りの鉄拳という名の拳骨を食らわせてやった。


「い、痛っ! ちょっ待って! 何で殴れるっというか触れるんだっ! 僕は精霊だぞ! 下等な猿にっ!? ぎゃふん」


 何発でも殴っていいと言っていたし、俺はクソガキを無視してもう一発拳骨をお見舞いしてやった。


「ぎゃふん」


 クソガキは頭を抑えてゴロゴロ転がり悶絶している。

 最後にもう一発いっとくか。



 ゴキゴキッ



 ゴキゴキッ




 俺は骨を鳴らし、笑顔で蹲ってるクソガキに近付き、正義の鉄拳を・・・・・・


「ひっ! ご、ごめんなさい! も、もう殴らないで下さい! 僕が悪かったです、許して下さい!」


 俺は涙目で土下座したクソガキを許してやる事にした。








「まぁ、とりあえず落ち着いたな? お前は一体何者なんだ?」


 クソガキが頭の痛みから解放され、落ち着いたであろう頃合いで俺が話し掛けると


「は、はい、僕は大精霊のジークです」


 鉄拳が効いたようで、物凄く大人しくなった。始めからその態度でいてくれればよかったのに、残念な奴だ。


 クソガキはジークと言うらしい。


 大精霊? らしい。


「ジークな、わかった。俺はシンドウダイスケ。それで色々わからない事だらけなんだが、質問に答えてくれるよな? ジーク?」


「は、はいっ! 何でもお聞き下さい。シンドウダイスケ様!」


 さて何から聞くか・・・・・・まずは本についてと大精霊についてだな。


「あの【白の本】から出てきたよな? あれは元々黒かったんだ。あれはジークが本に宿っていたから、白が黒になってたのか? 後宿った理由もな。それと大精霊の説明を」


「はい、僕が本に宿った事により、白が黒となりました! 見た目が変わるだけで特に本には影響は与えていません! 宿った理由ですが、とある方の命令でして、必要な時に力を使えと命じられていました。大精霊は人間よりも神に近い存在で有り、様々な特殊な力を使う事が出来る崇高な存在です!」


 本の色には意味はない、と。

 とある方の存在もそうだが、必要な時に力を行使するよう命令されているジークがどんな力を持っているかも気になるな。

 後は、大精霊は特殊な力を持つ神に近い存在っと。まぁゲームでよく出てくる精霊の上位って認識でよさそうだ。


「なるほどな、本の色と大精霊については理解した。とある方って誰か教えてもらえるか? それと、ジークが使える力の説明を」


「僕よりも上位の精霊王様の命令です。僕の力はですね、世界と世界を繋ぐ扉を創り出すことができます」


 精霊王様? そう言えばジークが何か言ってたな。精霊王様にも殴られた事がない、だっけか。何か明らかに偉い人っぽいが、それよりも、今はジークの力だ。


 世界と世界を繋ぐ!? っていう事は・・・・・・


「ほんとか! じゃあこの世界とこの本の世界を繋ぐ扉を創れるか?」


「はい! それは簡単にできますです!」


 俺はジークを優しく抱き上げ頭を撫でてやった。突然の俺の行動にキョトンとするジークだが、俺は喜びを、感謝を抑える事はできなかった。


 世界と世界を繋ぐ能力・・・・・・つまり、ミアの世界に行ける力!


 俺が想像すらしてなかった展開だ。


 この力があれば、ミアを救える可能性がででくる!


「ジーク・・・・・・いや大精霊ジーク様。先程は申し訳ありませんでした。俺は貴方のような力を持つ方に出会えて幸せです」


「えっ? ・・・・・・フハハハハァ! わかればいいのだよ? やっと僕の偉大さに気付いたかね? 最初からそういう態度を取ってくれれば、僕もまた違った対応をしたのだよ? まぁこちらも下等な猿などと言って悪かったよ? ダイスケ君?」


 俺が急に態度を変えたのをみて、元のふてこい態度になるジークだが、そんな事は俺にとってもうどうでもいい。

 ウザいっちゃウザいが・・・・・・そんな些細な事はどうでもいい。このウザ餓鬼は俺の希望そのものなのだ!


 ドヤ顏で俺に頭を撫でられてるジークに、ふと疑問を抱く


「ジーク様、どうすれば俺をこの本のいわば異世界に連れて行ってくれますか? 何か条件みたいなものはあるのでしょうか?」


「フフフ、それは簡単なのだよ? この偉大なる僕と君が契約を交わせばいいのだよ。そうすれば今すぐにでも君を、君がいう異世界へと連れていってあげようぞ! フハハハハァ」


 ウザいが我慢だ、俺。


 とりあえず契約すれば、俺でも異世界にいけそうだ。契約の内容にもよるが、余程の内容でない限り問題ない。ここで異世界に行かなければ俺は一生後悔して生きる事になるだろうからな


「わかりました! 早速契約をしましょう。どうすればいいんですか?」


「ふむ、せっかちな奴だな。まぁいい、早速契約してやろう。僕の力を行使する対価として、何か貰う事になるのだが・・・・・・君には何が払えるか楽しみだよ」


 対価か、難しい問題だな

 俺に何が払えるか、寿命の半分とかなら今の俺なら正直払ってしまいそうだが、悪魔じゃあるまいし、そんなものは大精霊様は望まないだろう。


 なら何が差し出せるか


 悩む俺の視界に机の上にある俺の大好きなキャンディが目に入った。


 見た目は子供だし


「大精霊様! これはこの世界に伝わる聖なる果実からうみだされた、聖なるお菓子キャンディです。よろしければお一つ召し上がり下さい」


 何となくいける気がして悪ノリし、ジークにキャンディ(苺)を渡す。


「聖なる果実からうまれた聖なるお菓子か、ふむ大精霊の僕に相応しい肩書きだが、僕を満足させる事が果たしてできるかな? 僕はこれでも舌は肥えていてね」


 まんまと俺に乗せられた大精霊・・・・・・いやもう自称大精霊(笑)ジークは口にキャンディを放り込んだ。さて気に入るかどうか。


 無言でジークをみていると・・・・・・目を見開き、暫し口の動きが止まり、やがて目が口が頬が緩んだ情けない顔になっている。聞かなくともわかる! いける!


 まぁキャンディ美味いからね。俺もじいちゃんも大好物で、じいちゃんに頼まれてスーパーに買いに行ったもんだ。ジークが食べ終わるのを待ち、声を掛ける。


「どうでしたか? お口に合いましたか? 偉大なる大精霊様に相応しいお菓子だと思うのですが」


「な、なかなか美味だったぞ、しかしだ! 今ので契約成立とはならないよ? 僕は大精霊だからね、それだけ僕の力を行使するというのは・・・・・・」


「これでいかがでしょうか?」


「っ!?」


 ジークに残りのキャンディ5個を渡す


「聖なるお菓子を5個も・・・・・・ダイスケ、本気なんだな?しょうがない、この聖なるお菓子にて契約を交わすとしよう!」


 こうして俺は合計6個のキャンディでジークと契約を交わす事になった。


 ちなみに15個入りで100円のキャンディだ。うん、安く済んだ。


 契約の儀式? は単純だった。ジークが俺の頭に手をやり、何か呟いたと思うと、俺の身体は淡い光に包まる。よくわからないがこれだけで契約を交わしたらしい。まぁ無事契約ができてよかった。

これで問題なくミアのいる異世界へ行ける・・・・・・ん? ちょっと待て!


 ミアのいる異世界へと行く手段は出来た・・・・・・が、時を遡る事が出来るのか?


 出来なければ異世界に行こうが意味はない。何故なら全てが終わってしまった後なのだから。


「大精霊様、時を遡る事は出来るのでしょうか?」


 キャンディを2個同時に頬張っているジークに訊ねると


「んっ? 僕は空間を司る精霊で時は遡れないよ? 出来るわけないじゃない・・・・・・」


「この役立たずがぁ!」


「ひっ、ひぃぃぃ、な、なんで」


 駄目だ、終わった。希望が見えた後の展開なだけにきついな。

 思わずジークを怒鳴りつけてしまった。ジークは悪くない。俺が勝手に舞い上がっていただけだ。


 クソッ! 俺は結局ミアを救う事はできないのか


「すまん、でも今じゃもう遅いんだ。今行ってももう救えないんだよ。今じゃ・・・・・・」


「あ、あのぉ、どういう事か事情をお聞きしてもよろしいですか? 僕は一応大精霊なので何かお力になれるかもしれないです」


 俺が怒鳴ったせいか、偉そうな態度じゃなくなったジークが、真面目に話しかけてくる。こいつは、どっちが素なのだろうかとどうでもいい事を思いながらも


「わかるだろ? 勇者・・・・・・ミアだよ、ミア。ミアを救えなければ意味ねぇじゃねぇかよ」


「ミア? 勇者? もしかしてダイスケ様の大切な人ですか?」


 ん??話が噛み合ってないぞ?

 ジークはミアの日記に宿っていたからてっきり事情を把握してるもんだと思っていたが、違うのか? 確かジークに命令したのは精霊王様だったか・・・・・・て事は、精霊王様が事情を知っていて何か理由がありジークを宿らせた。そしてジークが受けた使命は力を行使する事。これらを踏まえて考えると・・・・・・そうか! そういう事か!! 俺の考えが正しければまだ終わっちゃいない! ジークに確認だ。


「ジーク! ここからジークの力を使って精霊王様に会う事はできるか!?」


「えっ? 精霊王様次第としかいえないですね。精霊王様がダイスケ様に会う意思があれば繋がりますし、なければ繋がりません。そしてもし繋がらなかった場合、僕は精霊なので問題ないのですが、ダイスケ様は空間の狭間から抜け出せなくなる可能性があります」


 精霊王様次第か、拒否されれば扉が繋がらず、よくわからないが空間の狭間から抜け出せなくなるらしいが、おそらく繋がる可能性は高いと思う。


 ジークは日記の内容を知らない


 ジークの力だけではミアを救えない


 ジークに命令したのは精霊王様


 命令内容は力を行使する事


 ならばミアを救う為に取るべき行動は、【ジークの力で精霊王様に会い、精霊王様の力で時の問題を解決してミアを救う】これしかない。


「精霊王様に会わせてくれ、必ず繋がるはずだ。頼む」


「で、でも、もし繋がらなか・・・・・・」


「頼む」


「・・・・・・わかりました。少しお待ち下さい」


 ジークは俺が放り投げた偉そうな帽子をかぶり、真剣な表情で目を閉じ、俺が理解できない言語を呟いている。

 黙ってその様子を見ていると、ジークが、カッと目を開き手をかざす。

 すると空間に亀裂がはしり、徐々に大きくなっていき、やがて亀裂の増長が止まった。どうやら終わったようだ。


「精霊王様に繋がっているかわかりませんが、行きましょう!」


 完全にキャラが崩壊している大精霊が

真剣な表情で俺をみている。まぁ賭けみたいなものだしな。失敗すれば空間の狭間に・・・・・・死とは違うのだろうか? ジークの真剣さをみればそれに近しいものなのだろう。だが、俺に引く気はない。ミアを救うには精霊王様とやらに賭けるしかないんだ。


 俺は扉の目の前に立ち、ジークに目で合図する。ジークは無言で頷いた。いつでも行けるらしい。ただ一言だけ言わせてほしい。


「扉ちっちゃくね?」


 俺はジークの背丈程の扉を、匍匐前進で潜った。


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