04 勇者の日記その3
【黒の本】を慎重に調べていく。何かおかしな所はないか、表紙、裏表紙ともに特に異常はなく、後は中しかない。
何も見つからないのかもしれない。
でもじいちゃんは、俺がこれを読んでこうなるのはわかっていたはずだ。
この日記を通じて何か学ばせようとしたって事もあるかもだが、それもない。
じいちゃんは肉体派だからな! こんなまどろっこしい事してまで学べとかない。しかも何を学べと言うのか?
努力は報われないって事か?
世の中皆が皆幸せにはなれないって事か?
理不尽って事か?
くだらない。じいちゃんは常々言っていた。
【努力は必ず報われる! そう思うからこそ頑張れるし、希望が出て前向きに生きれるものだぞ? フォフォフォ】
だからきっと何かある! そう信じ、俺はページを捲り調べ続けた。
気がつけば、鳥の囀りが聞こえる。窓から外を見ると、日が昇ってきていた。
「うぅ、ミア、何もねぇよ。ちくしょう。本当に何もねぇ。どういう事だよ、じいちゃん、わかんねぇよ。ちくしょう」
俺は、最後のミアの日記を前に絶望していた。
その先のページはもちろん空白だ。
僅かに考えていたじいちゃんのメッセージも書かれていない。
空白が続き、徐々に黒く染まっているだけで、結局何も見つからず、それでも諦めがつかない俺は、空白のページから逆に調べていく事にした。
意味なんて特にない。
諦めがつかなかっただけだ。
きっと何か見落としがあると、思いたかっただけだった。
そうしてまた始めのページに戻り、また調べるを繰り返し、もう何往復したかわからなくなった時だった。あるページで遂にある違和感に気付く。
「・・・・・・っ!? ここのページだけ厚さがおかしいぞ!」
一番最後の血に塗れた空白のページ。
そのページが僅かに他のページに比べてほんの僅かだが厚いのだ。
「これは・・・・・・血でくっ付いてるのか?」
慎重にくっ付いたページを引き剥がしていく。破れたらもうそれこそ絶望で死んでしまいたくなる。ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて遂にページを引き剥がす事に成功した。ドス黒く汚れたページには終わった筈の日記が書かれていた。
746年6月
【この日記を手に取った人へ
貴方が誰なのかわからないし、もしかしたら誰にも読まれず消滅するかもしれない、というか消滅する可能性の方が高いよね。
ふふふ、誰も読まなければ馬鹿みたいだよね。
でもね、それでも私は私の想いを誰かに伝えたいから書き続けようと思う。
明日私は単身で魔王軍に突っ込むつもり。
死ぬと思う。
後悔はもちろんあるよ。
後悔しかないと言った方が正しいかな。
大切な者を守れなかったのは日記を読んだ貴方ならわかるよね? 私が弱く愚かな為に。 誓約を破ればどうなるかわからなかったけど、それでも誓約に縛られた私は故郷に顔を出す事はなかった。
こんな事になるなんて思ってもなかったから、全部終わったら会えると思ってたから、私がもっと頑張って魔物を殺し尽くしていれば、って後悔ばかり。
後悔といえば、聖女様を助けたかった。
優しくて気高くて綺麗で少ししか話せなかったけれど、聖女と呼ぶに相応しい素晴らしい人だった。
きっとお友達になれたと思う。
それと、たった1人の親友ミラ、私を勇者としてではなくエイミアとして優しくしてくれたミラのお父さんとお母さんの安否を確認する事が出来なかった事。
もしかしたら生きているかもしれない。
彼女達が無事ならこんな絶望な世界になってしまったけど、彼女達の幸せを誰よりも願いたい。
この日記を読んだ人ならある程度私という人間がわかってると思うけれど。
私は勇者になりたくなかった。
大切な家族と友人と穏やかに過ごしたかった。
いつかは結婚して子供ができて普通に暮らしたかった。
それでもこの世界はそれを許さないのはわかってる。
勇者と選ばれてしまったからには、私がやらなければいけなかった。
そうしなければ魔物達にあっさり人間は滅亡させられていたのはわかってる。
だから私は子供の頃から頑張ってきた。
平和になったら故郷に帰りたかった。
お父さんとお母さんと弟と平凡に暮らしたかった。
でも私が愛した家族と故郷マリスの村はもうない。
辛く死にたい気持ちがあったけれど、私は勇者として人々に期待されていたから普段通りに振舞った。
その期待に答え続けるのが辛かった。
そもそも、私はそんな強い人間じゃないし、何故私が勇者に選ばれたのか不思議でならないし。
神様が間違えたんじゃないかな?本当にこんな弱い私が勇者でよかったのだろうか。
勇者が弱さを見せると人々に不安を与えてしまうわけだし。
だから私は弱さを必死に隠し、強き勇者を演じ続けてきたんだけどね。
本当は弱い私は誰かに縋りたかった。
勇者は人々の希望。
強く導く存在。
でも私は弱いよ? 勇者だけど、強がってるだけだよ? 勇者でも弱い私は誰にも頼れないの? 私が弱いだけなのはわかってる。
でも私は、私が縋れる存在が欲しかった。
私よりも強くて頼もしくて私を守ってくれる存在。
書いてて自分でも夢物語なのはわかってる。
世界の人間の救世主として神様が私を勇者として選んだ。
そんな私を守ってくれる存在なんてね。
ふふふ、ミラに言ったら「私がなってあげるのです」って言ってくれたのを思い出す。 凄い嬉しかったのを今でも覚えてる。
話が逸れてしまったけど、とにかく私は勇者としては不適格な弱い人間だった。
私を勇者と選んだ神様もガッカリしてる事と思う。
この【白の本】を手に取るのが誰かはわからないけど、私は最後まで日記を書き続けようと思う。
最後の瞬間まで。
何の意味があったのか自分でもよくわからないけど、勇者になってから始めた習慣みたいなものってだけ。
肌身離さず【白の本】を持っていたから案外依存してたのかも。
命を落とすギリギリまで書いていそうな自分がちょっと怖い。
後、これは日記って言うより遺書みたいなものだから最後のページに記しておく。
もう、書く事もできないかもしれないから書けるうちにね。
後は何かないかなぁ、あっ、最後に質問したいな。
誰かわからないこの【白の本】を手にした人に。
私が、勇者が、勇者より強く頼れる存在を求めるなんて馬鹿だと思う? 馬鹿と思わないなら、きっと私の事を日記を通じて勇者としてではなくエイミアとしてみてくれているんだね。
きっとミラみたいに仲良しな友達になれたね!
最後まで読んでくれてありがとう。
エイミア=ランス】
世界中の皆が否定しても俺は否定しない。
ミアは立派な勇者だったと思う。
小さい頃から大好きな家族と離れ頑張り続けてきた頑張り屋さんだ。
俺が日記でわかるんだから、実際は俺が思っている以上に努力していたんだろうと思う。辛い事があっても勇者として使命を持ち、1人魔物と戦い続けた立派な勇者。俺はそんなミアを誰よりも尊敬するし馬鹿になんてしない。
勇者が縋れる存在?
ミラと同じ答えだ
俺がなってやるって笑顔で答える
きっと俺たちは友達になれた
なんで俺は
ミアが生きた世界、同じ時代にいなかったんだ
俺がいたなら
ミアって少女を知ったなら
支え続けたのに
俺がミアの求める存在になれたかもしれないのに
結局【黒の本】にはもう何もなかった
泣き続けた俺の目は腫れ上がり、やるせなさを発散する為叫びながら棒を我武者羅に振り続けた
「クソッ、クソッ、結局どうにもなんねぇじゃ、、ねぇ、っか、クソ、じいちゃんは結局、あの【黒の本】を一体何の・・・・・・」
自分が発した言葉に違和感を感じ、棒を放り投げ思考する。
何か違和感あるぞ
何だ?
俺は今何て言った?
【黒の本】って・・・・・・黒!?
俺は部屋まで戻り、ミアの遺書を確認する。
そこには確かに
「【白の本】って言ってるじゃねぇか!? でもこれは【黒の本】・・・・・・どういう事だ?」
ミアの日記は【白の本】
俺が持ってるミアの日記は【黒の本】
同じものか? それとも何か別の・・・・・・黒に塗装してるとか?何の為に?
試しに爪で強めにガリガリ本の表紙を削ってみると
「い、痛い! 痛い! やめろぉぉ!」
素っ頓狂な声と共に、【黒の本】から黒い生き物が飛び出してきた