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勇者が望んだ救世主  作者: サスケ
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03 勇者の日記その2

 

 目覚めは最悪だった。


 理由はもちろん【黒の本】つまりはミアの日記だ。続きが気になるが、正直読むのが怖い。日記を読み始め、架空とわかっていても次第に勇者であるミアに感情移入してしまっている。


色んな問題に突き当たりながらも最後は笑って終われる【ハッピーエンド】を期待していた。


 それが今となっては、ハッピーエンドなんて想像ができない。ミアにとって大切な家族が失われてしまったのだ。寧ろ考えたくはないが、更に状況が悪くなっていくような気がしてならない。


 悩みながらも日課の修練を終えた俺は空いた時間に日記を読む事にした。



 745年10月


【何故まだ戦っているのかわからない。でも戦う。勇者だから。人々の希望だから。私と同じような悲しみを持つ人を増やしたくない。だから私はまた剣を持つ】



 文字が滲んでいる箇所がある。

 泣きながら書いたって設定か?

 凝りすぎじゃないか?




 ミアが無理をしているのが伝わってくる。ミアにはもう心を許せる人はいない。いや、ミラ達がいるはずだが、そちらも嫌な予感しかしない。



 745年12月


【寒い、雪が降ってる。冬の戦いは厳しい。今日も多くの魔物を殺した。故郷を襲った奴らはいただろうか? 悲しい事にそれはわからない。だから考えた。魔物を皆殺しにすればいい。そうすればきっと故郷の、私の大切な家族の敵討ちになるだろうから】



 746年2月


【状況がどんどん不味くなってきた。魔王が攻め込んで来たらしい。高ランクのハンター達が全滅した。このままでは負けてしまう。私がやるしかない】




 746年3月


【魔王を倒した。強かった。片腕を失った。利き腕だったから文字が書きにくい。そもそも私は何故まだ日記を書いているのだろうか】



 なっ!?



 俺は酷く動揺してしまった。


 文字が・・・・・・歪んでいたからだ。


 先程の滲んだ文字に、今回の利き腕じゃない手で書かれたであろう歪な文字。


 まるでミアが実際に存在して泣きながら書いたり、利き腕をなくして慣れない手で書いたみたいじゃないか。


 架空の話じゃないのか? 架空の作り話を日記風にしたわけじゃなく、現実に起こった事なのか? いや、そんな馬鹿な事あるわけない。だってそうだろ? もしそうなら文字や魔物の存在を考えると、俺のいる世界ではなく違う世界での出来事だ。じゃあ何故この世界に異世界の本があるんだ? 俺が手にして読んでいるんだ? 説明ができない。それなら現実感を出す為に、日記に細工して、読者を騙す手の込んだ悪戯って可能性の方が高いんじゃないか?


 うん、きっとそうだ! そうに違いない。もしも作者に会う事が出来るなら騙されたよ! この野郎! ってぶん殴ってやる。そんで、あんたは天才で人でなしだって言って安心して、今度はハッピーエンドでミアの日記を物語を書いてくれって土下座してやる。



 746年5月


【今度は違う魔王が攻め込んできた。王様が降伏すると決めた。これから奴隷のように扱われ餌にされる。それでも最低限の待遇を魔王と取り付けたらしい。笑えてくる。私はそんなの許さない。私の大切を奪った奴らを許さない。例え1人でも死ぬまで戦い続けてやる】



 勇者が片腕を失い、魔王に勝利する事は不可能と判断したのか? ってか魔王何体いるんだよ。普通複数いねぇだろ。

 降伏は滅ぼされるよりもましな判断なのかもしれない。でも、ミアが納得できるわけがないのは俺にもわかる。大切なものを殺され、片腕を失っても心はまだ折れてない。



 ミアにはもう戦ってほしくない。




 幸せになってほしい。




 でもミアは戦い続けるだろう。




 彼女は勇者なのだから。



 746年6月


【王都の部屋で休んでいる時に襲撃された。魔物じゃない、人間だった。魔王が降伏を受け入れる条件が勇者の命、つまり私の命だ。まぁ当然だろう。私は数多くの魔物を殺してきたし力を持っている。魔王を殺す力もあるし脅威になるのだろう。別に親しくもない人間に裏切られた、ただそれだけだ。どうでもいい。返り討ちにして王都から脱出した。逃げる最中も今まで守ろうと頑張ってきた民や兵達に攻撃され続けた。皆結局自分が何よりも大切だって事だろう。くだらない。くだらないのに涙が溢れ止まらない】



 ふざけんなよ! ほんとにもうやめてくれよ・・・・・・ミアが何したって言うんだよ、何でこんな苦しめるんだよ。ずっと勇者として頑張って来たんだ。少しくらい報われてもいいじゃないか。




 この日記が、ミア最後の日記だった。





 俺は空白のページを捲り続け、そして愕然した。





 最後のページに近付く度に、ドス黒く染まっていた。最後のページは丸々染まっている、インクとかじゃない・・・・・・血だ


 架空じゃない? 嘘だろ? 本当に現実に起こったっていうのか?こんな酷い話架空じゃないと俺は認めないぞ!

 人々を守る為、子供の頃から努力を続けて頑張ってきたのに、大切な人を全て失って、最後は守るべき人々に裏切られ、命を落とす。

 これが現実だとしたら・・・・・・いや、もう認めよう。謎が多いがこれは現実の出来事の可能性が高い。



 ちくしょう、ちくしょう




「ちくしょうがぁぁ!!!!!!」





 俺はもたれかかっていた木を破壊し、地面を乱暴に何度も何度も殴りつけた。



「何で現実なんだよ! 架空じゃねぇんだよ! いや、架空でもふざけんな! ミアはずっと頑張ってきたんだぞ、こんな終わり方あるかよ! ちくしょう」


 俺はその場で崩れ落ち、勇者であった少女を想い涙を流した





 日が完全に堕ち辺りは暗闇に包まれていた

 俺は【黒の本】を拾い、家に戻り、飯を食う気にもならず、そのまま布団に倒れこんだ。



「・・・・・・ミア」



 視界に入った【黒の本】をぼんやりと眺めていた俺はある事に気づいた。



「じいちゃんはどうやってこの本を手に入れたんだ?」



 架空だと思いたいが、おそらく架空ではなく現実に起こった出来事。しかし、その世界は間違いなく今自分が住んでいる世界と異なる。


 何より文字だ。



 この世界の文字ではない。



 そして自分はそれが読める。



 異世界の文字を。



 何故か?



 じいちゃんが教えてくれたからだ。



 じゃあ何でじいちゃんは文字を知っていたんだ?じいちゃんは異世界から来たのか? それともじいちゃんが作者の架空の物語・・・・・・いや、ない。じいちゃんはそんな歪んだ性格はしてない。



 それだけは絶対ない。



 わからない。



 わからない事だらけだ。



「ふぅ、落ち着け、冷静に考えろ。わかってる事からでいい」



 まずこの物語は、ほぼ現実で架空の可能性は限りなく低い



 異世界での物語



 持ち主はミア・・・・・・勇者



 俺に託したのはじいちゃん



 文字を教えたのもじいちゃん



 じいちゃんもこの日記は読んでいるはずだ。




 俺は部屋の明かりをつけ、【黒の本】を手に取り、何かないか調べる事にした。

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