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勇者が望んだ救世主  作者: サスケ
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02 勇者の日記その1

 


【黒の本】はどうやら日記のようだった。


 不思議なのが、書かれていた文字が俺の世界の文字じゃなかった。

 じいちゃんに修練と称して教わった謎の古代文字? みたいな言語だった。

 まぁおかげで読める訳だから修練様々だ。



 738年4月


【王都に来て2年近くたって今日、10になった。文字が書けるようになったから日記をつける事にした! 今日は故郷の村に手紙を出した。みんな私の事を覚えてくれてるかな? 返事がくるのが楽しみ!】



 738年5月


【勇者として学ぶ事は多すぎて、本当に私が勇者で大丈夫なのか不安になっちゃう。特に魔法は難しい。でも皆が私に期待してるし、勇者は皆を守る希望の存在だから誰よりも強くなくちゃいけない。辛いけど私は、世界の平和の為に頑張る】



 738年6月


【故郷の両親から手紙が届いた! 嬉しい! お父さん、お母さん、ジース、村の皆は元気でやってるみたいで安心した。皆の平和の為にも、もっと頑張らなくちゃいけないな】



 738年8月


【今日初めて魔物を退治した。物凄く怖かったけど頑張った。でも私はまだまだ弱いなって思った。もっと強くなりたいな】



 毎日書いている訳ではなく、何か印象に残った時に書いているようだった。

 1ヶ月に一回くらいのペースだ。


 この日記をつけているのはどうやら10才の女の子で勇者らしい。

 勇者やら、王都やら魔物の話がでてるので【俺が住んでいるこの世界】ではない事がわかる。


 そもそも文字からして、この世界では使われてない文字なわけで。

 まぁおそらくは、この世界の住人が書いた架空の物語を日記風にしているのか? それにしても何故文字まで?

凝りすぎてないか? と思いつつも、この時はあまり気にしなかった。


 特に取り留めのない内容が続いていく。

 勇者として英才教育を受け、騎士と一緒に魔物を討伐したりして、力をつけているようだ。

 2年近くが経ち内容が少し変わってくる。



 740年6月


【今日は少し年上の女の子と友達になった。名前はミランダって言って栗色の髪に目が大きくて可愛い女の子。王都にきてはじめての友達。嬉しいな】




 740年6月


【今日は勉強がおわった後に、お城を抜け出して、ミランダに会いに行った。一緒に王都を散策してまた会う約束をした。とても楽しかった。友達が出来た事を家族に知らせたくて手紙を書いた。喜んでくれるかな】



 日記がはじまって数年だが、勇者の待遇は悪くなさそうなのはわかった。

 ただ、彼女が孤独なのではと思っていた。

 日記にでてくる特定の人物は故郷の家族だけで、他に特定の人物がでてくる事はなかった。


 そんな彼女に友達ができたらしい。

 よかったなと安堵している自分に気づいて苦笑いを浮かべる。

 どうやらいつのまにか、少女に感情移入している。

 俺はもう日記に夢中だ。



 740年8月


【今日は久しぶりに時間ができたからお城を抜け出してミランダに会いに行った。ミランダにミラって呼んでと言われて嬉しかった。私もエイミアじゃなくミアって呼んでとお願いした。ちょっと恥ずかしいけど、愛称で呼び合うようになってミラともっと仲良くなった、私とミラは仲良し】



 どうやら少女の名前はエイミアと言うらしい。

 ミランダ・・・・・・いや、あえてミラと俺も呼ばせて頂こう。

 ミラとの仲も深まり喜ばしい事だ。



 740年9月


【故郷から手紙の返事が届いた。友達ができた事をお父さんもお母さんも喜んでくれた。ジースは村の仕事を手伝いはじめたらしい。大きくなったんだろうな】


 不思議なもんだ、文字だけの筈なのにエイミア・・・・・・いや、ミアと呼ぼう。

 ミランダをミラって愛称で呼ぶと決めたからバランス悪いし!

 ミアが家族の事やミラの事を日記に書いている時の表情が想像できてしまう。




 きっと笑顔だ。


 幼いながらも美しく整った顔ではち切れんばかりの笑顔で!

 いや、顔知らないから想像だよ?

 でもどうせなら可愛い子を想像したいじゃない!


 ミアとミラは姉妹のように仲が良く、頻繁に会っているようだった。

 ミラの両親にも可愛いがられ、日々充実しているようだった。

 勇者として強くなる為に、日々努力を怠らず、時間を見つけてはミラと会っている。

 王都の外れにある景色が綺麗な公園で、日が暮れるまで話したり、露店で買い食いしたり、ミラの家で食事をご馳走になったり、相変わらず仲良しなようだ。


 ちなみに城から抜け出す時は変装しているらしい。

 どんな変装か見てみたいもんだ。

 そんなミアの幸せな日々が、綻び始めたのは1年程たってからだった。



 741年10月


【王様に呼びだされた。庶民と仲良くするなと注意された。勇者は崇高な存在だから、駄目なんだって。よくわからない。身分なんて関係ない。ミラは私の友達だもん】



 おっと、はじめましてだな。

 王様登場。

 抜け出してミラに会っていたのがばれたようだ。

 1年以上ばれなかったのだからミアの変装は優秀だったのかもな。


 しかし・・・・・・器のちっちぇ王様だ、ミアは勇者として日々頑張ってるんだ!

 俺には身分とか縁がないからよくわからんけども、友達くらい許してやれよな。

 まぁ、ミアの世界と俺の世界では価値観が違うっぽいから、身分とか大事何かもしれんけど、俺にはわからん。

 よし、お前は俺の中で今から器がお猪口の愚王だ!

 決定!


 741年10月



【お城を抜け出してミラに会いに行った。ミラのお父さんとお母さんと一緒にお菓子を食べた。ミラのお父さんもお母さんも優しくて大好き。またおいでって言ってくれた。嬉しかった】



 愚王の言う事、完全無視なミア素敵すぎ!

 また仲が深まったみたいでよかった。



 741年11月



【いつものようにお城を抜け出してミラに会いに行ったら、ミラの家がなくなっていた。何故かわからない。悲しい】


 はっ?

 どういう事だ・・・・・・まさかお猪口野郎の仕業じゃねぇだろうな?



 741年11月


【お城の人の話を偶然聞いた。ミラの家族は反逆罪で追放されたらしい。私に関わるなと命令されたのに、逆らったらしい。友達に会うのがそんなに駄目な事なの?私が勇者だから悪いの? ミラ達に謝りたい。でももう会えない。会いたいよ】



 愚王ぶっ殺し確定

 今すぐぶん殴りてぇ!!!

 架空の話ってのはわかってるよ?

 わかってるけど、腹が立つもんはしょーがない。

 ミラと両親は逆らったって事は本当にミアを大切に想ってくれてたんだな。




 はぁ



 俺は溜息をついて本を閉じた。

 真っ暗闇の中、一心不乱に棒を振り続け、もやもやとした気持ちを解消させ、眠りについた。






 それからも俺は、時間を見つけてはミアの日記を読み続けていた。

 読む度に悲しい気持ちになるが、読むのを辞める事はしなかった。

 ミアはミラと離れてから、孤独の日々だった。

 ミラと会えない淋しさと、自分の為に王都から追放されてしまったミラの家族に対して罪悪感を感じていて、日記でも元気がない。


 そんな中で故郷の家族とは定期的に手紙でやり取りしているのが救いのようだ。

 気持ちに整理がつかない状態が続く中で、相変わらず勇者として頑張っている。

 勇者と呼ぶに相応しい実力を努力し続け、魔法もかなり上達したらしい。

 


 743年6月


【王様から、西にある村が魔物に襲われ、今は持ちこたえているが、時間の問題だから兵を率いて救助に行くように言われた。王都近辺から離れるのは勇者となってから初めて。これから王都を離れ、魔物と戦う事が増えて行くのなら、何処かでミラ達に会えるかもしれない、ううん、きっと会える】



 ある程度実力がついた事と年齢的な事もあるのだろうが、これから本格的に勇者としての活動が始まり、危険な事も増えるんだろうな。

 怪我とかしないか心配だが、王都を追放されたミラ達に何処かで会える可能性も出てきたのか。



 743年9月



【今までは、幾つかの村を魔物から救う事ができて、多くの人々に感謝されたけれど、今回、私が向かったトランという小さな村は、魔物の大群が押し寄せ、犠牲者が多くででしまった。子供を失った親が、恋人を失った女性が泣き崩れていた光景が忘れられない。全てを救えなかった私が悪い。私が弱いから。だから私は全てを救えるぐらい強くならなければいけない。勇者だから】



 ミアに怪我はないようだが、今回は犠牲者を多く出してしまったようで、元気がない。

 ミアにも出来る事と出来ない事があるんだからあまり思いつめないでほしいが、無理だろうな。

 こんな時こそミラ達や家族がそばにいてやれば、ミアの支えになるのに。



 743年12月


【魔物の襲撃を防ぎつつ、多くの村や街に訪れたけど、ミラ達にはまだ会えない。王都に救助を要請する間もなく滅びてしまった村が数ヶ月でいくつかあると聞いたけど、もしそこにミラ達がいたら、と余計な事を考えてしまう。どうか無事再会できますように】



 ミラ達にはまだ会えていないようだが、早く再会してミアには少しでも元気になってもらいたいもんだ。

 気分が沈んでると物事を悪い方向ばかりに考えてしまうからな。

 ミラ達はきっと無事、そう信じよう。



 744年1月


【王様に王子と婚約するように命じられた。とても困った。私には理想の夫婦像がある。お父さんとお母さんみたいな、ミラのお父さんとお母さんみたいな仲良しの夫婦になりたいって思う。恋をした事がない私にはまだわからないけど、誰にでも運命の相手がいるってお母さんが言ってた。ただ出会えるかどうかがわからないんだって。難しい話だ。でももし出会えれば一目みた瞬間にわかっちゃうんだって。だから私は婚約を断った。そしたら変わりに来年から王立学院に通う事になった。何故かよくわからない】


 恋愛結婚したいって事なのか?

 俺の世界では普通の事なんだけどな。

 運命の相手か、俺にもいるんだろうか、モテタ事ないから自信ない。

 ミアにはきっと素晴らしい相手がいるだろう。

 きっと見つかるから頑張れ!

 王子と婚約ねぇ。

 愚王の息子だからどうせしょーもないやつだろ?

 ざまぁ!

 王立学院?

 学校みたいなもんだろうけど、勇者関係あんのか?


 744年2月


【今月は転移装置を使って、西のスー連合国家、南東のボルド帝国、北東のリムル神聖国へと足を運んだ。他の国も魔物に襲われていて、王国と状況は変わらないようだった。後リムル神聖国の聖女様とお話して少し仲良くなった。凄く綺麗な人で少し緊張したけど、私の事を勇者ではなくエイミアとして接してくれた。次会う時はお友達になりましょうねって言ってくれた。凄く嬉しかった】



 ミアがいる王国の他にも大きな国があるらしい。


 おそらく王国からみてだと思うが

 西のスー連合国家

 南東のボルド帝国

 北東にリムル神聖国っと。


 そして、リムル神聖国の聖女様と仲良くなりつつあるわけか。うん、いいと思う。

 きっとミラ達も無事だし、聖女様とも仲良くなれて、状況が良くなっていくさ!


 744年4月


【リムル神聖国が大規模な魔物の軍勢に襲われて聖女様が亡くなったらしい。私はその頃王様の指示で、魔物の大群に襲われているスー連合国家に加勢していた。一度しか会っていないけれど、とても悲しい。次会う時はお友達って言ってくれたのに。悲しい】


 はっ?? 何だこの展開? ふざけてるだろ!聖女様と知り合ってこっから仲良くなる流れだろ。

 どんだけ過酷な世界なんだよ。


 ミア潰れんなよ! 辛いだろうけど、頑張れ!


 744年6月


【リムル神聖国が壊滅したらしい。王国に多くの難民が助けを求めてやって来ている。私がもっと頑張っていれば聖女様も神聖国も救えたのかな。きっとそうだ。私が全部悪い。駄目な勇者でごめんなさい】



 聖女という存在は神聖国では大きな存在であったようで、間も無くして神聖国は魔物により壊滅してしまったようだった。

 ミアが自暴自棄になってて心配だ。




 それからのミアは、休む事なく各地を飛び回っていた。数多くの村や街を魔物から救い感謝され、時には犠牲者を多くだし罵られ、救助が遅れ、村や街が滅んでしまう事もあった。

 それでもミアは折れずに戦い続けた。

 自分の未熟さを嘆き、救えなかった人々に許しを乞いながら、強さを求め続けた。


 激動の日々が流れ、ミアは愚王との約束通り、王立学院に通う事になる。



 745年4月


【今日は王立学院入学式だった。この学院は貴族と一部の高い才能を持った選ばれし者が通う場所らしい。国の将来を担う者達と交流を深めなさいと王様に言われた。庶民は駄目なのに、貴族は仲良くなってもいいとか、私には理解できない】



 エリートが通う学校か。

 ってか愚王絶対嫌われてるだろ?

 ぷぷっ、ざまぁ!




 745年5月


【誰も私をエイミアとしてみてくれない。私を勇者として扱っている。対等にみてくれない。媚び諂い、勇者と親睦を深めようとしてくる。気持ち悪い。勇者の私がこんな場所に通う必要があるの? こんな無駄な時間を過ごすならミラ達を探しに行きたい。ミラ会いたいよ。私を恨んでるのかな。何処にいるの?】



 勇者は人類の希望だし、何となく状況が想像できる。


 勇者であるミアと懇意になる事で得になる事が多いのだろうし、愚王も王子との婚約を断られたから何とか国と繋がりを持たせようとしてるんだろう。

 まぁ他国に取られたくないんだろうな、勇者という象徴を。

 おそらくは、世界が勇者によって平和になった後の事も考えて。


 ミラ達が恨んでるわけないぜ!

 きっとミアの事を心配してくれてるはずだし、もうすぐ会えるさ!そうじゃないと俺は怒る! うん。


 745年7月


【故郷から手紙が届いた。元気にしてる? 変わりはない? 嫌な事はない? ジースはハンターになる為に必死に頑張っているらしい。大きくなったんだろうな。私を勇者としてではなく、エイミアとして接してくれる私の大切な家族。会いたいな。会いたい。でも会えない。わかってる。私の大切な家族が住む故郷に帰る為にも、私は勇者として頑張る】



 ミアの唯一の救いはやっぱり家族だな。

 勇者として皆が扱うなか、家族だけは勇者ではなくエイミアを想い続けている。


 優しい家族なんだろうな。

 俺にとってのじいちゃんみたいなものだろうか?

 後ハンターって何だ? 魔物を狩る奴等かな?


 それにしても、日記を書き始め7年、王都にきて9年。

 その間、一度も家族には会わず、故郷に帰らないのには何か理由があるのか?

 手紙で往復2ヶ月だから遠そうだけども、それだけじゃなさそうだ。


 うーん、気になるなぁ




 745年7月


【学院は本当に憂鬱。一人なわけじゃない。常に誰か周りにいるけれど、勇者と仲良くなろうとする打算を持つものばかりで気持ち悪い。中には私を下卑な目でみる者もいる。告白も何度もされた。誰も私の事なんてわかってないくせに。気持ち悪い】



 相当ストレスが溜まってるみたいだな

 もう勇者の権力でそんな奴ら殺ってしまいなさい!

 俺が許す!

 変な奴にはミアはやらんからな!




 745年8月


【王都に魔物の大群がやってきた。無事に撃退したけど、王都だけじゃなく各地でも魔物の大規模な襲撃があり、多くの被害が出たらしい。故郷は無事だろうか?】



 次のページを捲るのが怖い。

 やめろよ?

 いくら架空でも駄目だぞ?

 もしミアの故郷に何かあれば、大切な家族を失う事になれば・・・・・・



 745年8月



【王様から故郷の村が魔物によって壊滅したと教えられた。嘘だ。嘘に決まってる。絶対嘘だ。信じない。もし嘘じゃないなら私は何の為に。やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ】



 やめろ

 嘘だろ



 745年9月



【王都を飛びだし、誓約を無視して全力で故郷に向かった。2週間で着いた。私の大切なものがすべてなくなった。久しぶりに帰った我が家には、お父さんがお母さんを守るように死んでいた。離れた場所には男の子が身体中引き裂かれて死んでいた。大きくなったねジース。お父さん、お母さん、ごめんね。大切なものを守れなくて何が勇者なのか。駄目な私でごめんね。村の皆ごめんね。私が早く【魔王】を倒せるくらい強くなっていれば、こんな事にならなかったね。ごめんね。ごめん】



 俺は本を閉じ、修練をはじめた。


 俺の心には、怒りが悲しみが負の感情が渦巻いていて、必死に振り払おうと身体を一心不乱に動かし続け、やり場のない気持ちをある程度発散させるのに夜が明けてしまった。


 日記を読んでいるだけの俺がこうなのだ。


 ミアはどれほど怒り、悲しみ、狂い、絶望したのだろうか。


 架空の話とわかっていても、心を鎮めるのは難しかった。


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