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ヒトコイ  作者: An@An
9/9

ヒトツのコイ

ドアを開けると目の下に隈のできた、頬がやつれている琴音がいた。

琴音は私を見るなり、大きく目を見開いた。

「こは…る……。ごめん!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

琴音…。

琴音は頭をベッドに付け謝った。

いいんだよ。いいんだよ。

「いいんだよ。琴音…。私は、あなたを、許すよぉ…」

ポロポロと涙がこぼれる。

「ごめんね、ずっと苦しんでたんだね。なにも、知らなくて…ごめ、ん」

辛かったよね。ごめんね。

「私はずっと、あなたが私を裏切って、騙したと思ってた。地獄に落ちたと思ってた。でも、でも、違ったんだよね。私の人生を守るためにしたんだよね。気づけなくてごめんね。ありがとう、琴音」

「うぁぁぁぁ!!」

琴音が私に抱きつき、私も抱き返す。

ずっと、わたし達を苦しめていたしがらみがいま、取れた。



それから、バタバタと忙しかった。

琴音と改めて話した。

裏であったこと。お互いの辛かつたこと。今のこと。たくさん話した。

そして、愛月とのこと…。

「ごめん、愛月。私はずっと人を信じることができなかった。まだ、信じることができないかもしれない。でも、愛月のこと信じたい。私を、許してくれませんか」

愛月は何も言わずに私を抱きしめた。


そして、いま穏やかな日々を送っている。

愛月と琴音を会わせてみると、気があったらしく、意気投合し、たまに三人で遊ぶ。

少しずつ、私の人間不信は無くなり、クラスの人とも話すことができるようになった。

これは愛月のおかげでもある。


そうこうして、一年。

夏も終わりに差し掛かり、秋風が帰り道を駆けて行く。

おばあちゃんのお見舞いにも行かなくなった。先月、亡くなったから。

久しぶりに通りたくなった。

私の好きな道。レンガ造りの道。

小脇にある木から葉っぱがはらりと散る。

はっと、何かが頭をよぎる。

私は、何かを忘れてる…。

なぜだろう。思い出せない。

琴音…。病院…。この道。おばあちゃんのお見舞い。視線…。

横を見る。

ひと一人入れるほどの小さな道があった。

惹きつけられるようにそこに入っていく。

しばらく進むと、視界が開けた。

公園だった。

ブランコがあった。

そこには

「静夜…」

そこにはクリーム色のセーターを着た静夜がいた。

静夜に抱きつく。

思い出した。

静夜を。静夜との出会いを。

一番最初、静夜に出会った時、小春と呼んだ。

あの時私は教科書を持っていなかった。

名前がわかるものを持っていなかったのだ。

あの時会う前に私たちは会っている。

私がまだ小学校一年生の時。黒い猫が怪我をしていた。家に連れて帰ろうと思ったが、母が猫アレルギーだったので連れて帰れなかった。だから、消毒と、包帯と、ミルクを持って家を出た。

手当をして、ミルクを飲ませるとすごい速さで回復していった。

そして、その猫は人の形になった。

真っ黒な少年だった。少年は笑い、ありがとうと微笑んでどこかへ走っていったのだ。あれは静夜だ。

あれは、静夜だったんだ。

「なんで、忘れてたんだろう…。会いたかった」

静夜は何も言わずに私を強く抱きしめた。

「僕を忘れてたのは僕が小春に僕の事を忘れるようにまじないをかけたから」

静夜が耳元で囁く。

「ど、どうして…!私は助けてもらってばかりで、それで伝えたいこともたくさんあって…」

ばっと、静夜の顔を見る。

珍しく微かに見えている、目がふと悲しそうに細くなった。

「ダメなんだ。忘れなきゃ。人と妖怪は交わってはならない。関わったら忘れさせる決まりなんだよ。明日になれば、僕の事を忘れてる」

「そんなの知らないよ!私は恩返しも何もしてない!あなたに、救ってもらったの…この今の私はあなたがいるから。だから…私は静夜をあい…」

静夜が私の口に人差し指を当てる。

「ばいばいなんだ。僕はずっと小春を見守ってるよ」

そう言って静夜は私にキスをした。

にこっと笑い、キラキラと消えた。


「あれ?小春、綺麗になった?」

教室に入るなり、愛月が尋ねる。

「え!ほんと!やったぁあ♪」

「さては、恋でもしたな?」

「えー、ないよ。相手がいないもんね。そういう愛月はー?噂の先輩」

「うるさい!」

ふわりと秋風が教室に入る。

飛行機雲が青空に線を引く。

「会いたい…」

ぽつりと言葉が漏れた。

それを秋風は優しく包み込む。

ヒトツのコイは私を大きく変えた。

私は誰かに恋をしている。

誰に恋をしているのかわからない。

しかし、愛している。

深く。深く。

あなたに会える日を信じてる。






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