小春ー!大好き!
静夜たちがでて行って、静かになった。
ごんっ!机につっぷす。
どうして、こうなった…?
えっと、えっと、愛月とケンカして、クラスの女子にケンカ売って…。
『信じるってなに?』
自分の声が頭の中に響く。
私は、信じることができない。
それに、私の中には、あいつがいる。
琴音…。
あなたの名前を思い出すだけで吐き気がするのよ。
考えるだけいやな気分になるだけだ。
頭によぎるあいつの顔を、頭を振ってどうにか追い出す。
ていうか、妖怪?神?人間じゃないもの?
静夜が、人間じゃない…。
確かに、そう考えたら一瞬で移動したのも、人ではない力のせいということで説明がつく。
そうか…人ではないのか。
だから、壁というものを感じなかったのかな…。
「プキュン」
「え?」
なにか、変な鳴き声がした。
なんだろう。猫?
鳴き声のした方へ目線を動かした。
「え」
そこには真っ白な狐がいた。それはまだ子供なのか、手に乗るほどの大きさだった。
触れようと、そーっと手を出す。
ぴょんっ。
「きゃ!」
いきなり飛んできたので驚いた。
「どうかしたか?」
声がして、後ろを向くと静夜がふすまの近くに立っていた。
「…なんでそこに立ってんの?」
「悲鳴が聞こえたから」
すごく小さな悲鳴だったと思うんだけど…。なんか、怖いな…。
「猫の聴覚は優れてるからね♪」
凪が静夜の後ろからでてくる。
「あれ?それって白狐?どこで見つけてきたの?」
凪が白狐を指差す。
「なんかそこにいた」
白狐がいた場所を指して言う。
「なんでいたんだろうね?しかもなんかめっちゃ小春に懐いてるし」
白狐はしきりに頭を擦り付けてくる。
「可愛いな…」
白狐の頭を撫でる。
「…っ!」
静夜と凪が固まる。
「どうしたの?」
「いや、小春って笑うんだね」
凪が驚いたように言う。
「そりゃあ笑うよ。人間だし。動物は好きだから」
動物は人間のようにドロドロとした感情がない。ただ、本能に従い生きる。他の物のことなんて関係ない生き方。人のように『裏切り』がない。
「なれるなら、動物になりたいよ。人じゃない何かに」
そういえば、静夜たちは人じゃないなら、そういう力を持ってはいないのだろうか。
「私を人じゃない物にはできないの?」
「無理だよ。そんな力はない」
静夜がきっぱり言い放つ。
「その物の形に生を受けたのなら、その人生をまっとうする」
わかってるよ…そんなこと。少し、願いをかけてみただけじゃんか。
「あ、待って」
白狐が、するりとわたしの手を抜けて窓からでて行ってしまった。
「行っちゃった…」
「まるで小春みたいだな」
静夜がぼそっという。
「どういうこと?」
「懐いたと思ったら逃げるところが、似てる」
意味わからんわ。
「あ、小春を連れてかなきゃ。来て」
静夜が私の腕を引っ張り立たせる。
「なに?」
立った瞬間、移動していた。
大きな木の下に。
周りは湖でその中央に私たちの立っている、島?のようなところがある。
「覗いてみてよ」
聖夜がしゃがんで湖の中を指さす。
聖夜の隣にしゃがみ、のぞき込む。
透き通る水の中に、私の顔が映し出された。
「こーとーねー!なーにしてるのー!」
「おままごと!小春も一緒にしようよ!」
「うん!」
私と、琴音の保育園の記憶…。
琴音とは家が近くて、よく一緒に遊んでた。
「小春〜宿題見せて!」
「えー!まだ終わってないの?しょうがないなぁ」
「ありがとう!小春ー!大好きー!」
「はいはい」
小学生。勉強の苦手な琴音は私のをよく映してた。
でも、待って。これ以上は見たくない。
「好きなんだ。付き合って欲しい」
クラスの男の子から告白された。
その人はクラスの中心女子の好きな子だった。
「ごめんなさい」
「ねぇ、告られたんでしょ?私が好きなの知っててアピールしたんでしょ?マジうざいから」
いじめは、始まった。
でも、耐えられた。
琴音がいたから。
「大丈夫だよ。あたしがいるよ!」
「ありがとう。」
数日後。
「琴音ー!行くよー!」
「うん!待って!愛ちゃん!」
琴音から、シカトされた。
でも、耐えられた。
こうなることは目に見えてた。所詮人は自分が一番可愛いから。
数日後。
私の写真、会話が全て黒板に貼られた。
会話内容は琴音との。
そして、琴音は。
黒板の前で
笑っていた。
「ゆってあげなよ!琴音!ずーっとうざかったってさ!」
「うそ、だよね?琴音ほやれって言われてしたんでしょ?」
私はゆっくり琴音に近づく。
「こっちに来ないで。そんなわけ無いじゃん。ほんとうざかった。琴音琴音琴音琴音琴音琴音琴音琴音。雑音。こうなってスッキリよ。全部私がしくんだの。どう?今まで信じてた人から裏切られた気持ちは?
あんたなんて大嫌いよ。」
崩れた。
「これが小春のトラウマ。わかるよね?自分の事だから」
聖夜が話しかける。
なんで今こんなの見せるの…。
「なんで思い出させるのよ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「何が嫌なの?裏切られるのが?信じて裏切られるのが?」
「ち、ちが「違うなんてことないよね?そうでしょ?」
聖夜が核心を突いてくる。
「こわ、いの。信じてた人から、裏切られるのはもうやだ。」
ほろほろ涙が落ちる。
そう。怖いの。怖いの。
もう、裏切られたくないの。
「じゃあ、琴音視点から見てみようか。小春の知らないことだよ」
聖夜が湖に模様を描く。
琴音の顔が映し出された。
「ねぇ、お願いがあるの。琴音」
愛が琴音に話しかけている。
「小春に仕返しがしたいの。おねがい!手伝って!」
「え!む、無理だよ!私にはできない!ほかの人に頼んでよ」
だん!
愛が壁を蹴った。
「はぁ?ふざけんな。いいよ?ここで断っても。これ、ばらまくから」
それは、私の写真。
ラブホへ知らない人と入っていく私の。
合成写真…。
こんなのばらまかれたら…私の人生は…。
「何その写真…。合成写真でしょ?そんなの意味ないから!」
「ほんとにそう思う?どれだけ話しても言い訳にしか聞こえないと思うわ」
「…っ」
「ねぇ?どうするの?これをばらまいて、あなたの親友の人生ぱぁーにしちゃう?ねぇ?」
「…わかったわよ。言う通りにする」
「琴音ー!」
私が話しかける。
琴音がシカトする。
「ごめん…ごめんなさい」
黒板に写真が貼られる。
その日、家で琴音は泣いていた…。
「あぁ…ごめんなさい!ごめんなさぁいぃぃ!!」
それから琴音はやつれていった。
高校に入り、更にやつれ、授業に出るのもやっと。
そして、今。
琴音の視点から見えるのは。
真っ白な壁。シーツ。ベッド。
そこは
病院…。
琴音は入院してる…。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
虚ろな目で、ずっとつぶやいている。
「これが、小春の知らない真実。これからどうするのかは小春しだいだよ」
しばらく動けなかった。私は自分が一番最悪な人生を生きてると思ってた。親友に裏切られて、何も信じれなくなったから。
でも、琴音はもっと大変だった。今も一人でずっと私に謝っている。
私に許しを乞いている。
もっと、琴音にとって信頼できる人だったら…話してくれたかもしれない。脅迫されていたということを。
いま、私にできること。
「聖夜。私を琴音の所に連れて行って」
聖夜はにこっと笑って私の手をつかんだ。
風が巻起こる。
初めて、静夜の目を見た。金色の美しい猫目だった。
聖夜の尻尾が広がる。
周りが真っ白になる。
風はまだ感じる。
ふと、風が弱まる。白い世界が徐々に色付き始める。
赤い十字架が見える。
廊下が見える。
部屋が見える。
1523号室
石川琴音
はっきりとその文字が見えた。
コンコンとノックをする。
「…はい」
中からか細い声が聞こえる。
振り返り、静夜を見る。
静夜はふわりと笑った。
ドアを開けるとそこには、やつれた昔とは違う、琴音がいた。