華川凪でっす!
「静夜ー!」
はっと現実に戻される。
向こうから誰かが走ってくる。
徐々に見えてくるその姿は、人の形をしていたが少し違った。
腰まである長い茶色の髪をゆったりと束ねており、白い袴を着ていた。
後ろには茶色の細長い尻尾が生えていた。
というか、走るのが早い…。
200メートルほど先にいたのに、数秒であと、20メートルぐらいだ。
「ひっさしぶりだな!静夜!何してたんだ?てか、この子誰だ?人間か?人間だぁー!連れてきちゃいけねんだよ!?知らねーのか?なあ!なぁ!シカトすんなよぉ〜!」
弾丸トークを繰り出している。
それを静夜は見事にスルーしている。
「あの、静夜。この人、誰?」
耐えられなくて質問する。
「かせ「華川凪でっす!よろしく!」
静夜ではなく、凪が答える。
「ちなみに、俺は異獣な!だから、あしがはえぇんだよ!!すげーだろ!」
い、異獣?
異獣ってあれだよね?妖怪の、旅人に食べ物たかる、足が早い猿みたいな妖怪…。
え?
「妖怪?!」
ええぇ!まって?!
「あれ?静夜、説明してないの?じゃあ、聖夜のことも知らねーのか。説明したるわ!ここは人間じゃないやつが住む場所!つまり、異世界よな!んで、俺は異獣。静夜は、猫神。そんまんまな。猫の神様!」
凪がぐっと親指を立ててウインクする。
いや、ぐーじゃねーよ。
「はぁぁぁぁぁあ?!」
「まぁ、とりあえずあの中入ろうよ」
私が叫んだのをスルーして、静夜はあの大きな建物を指差す。
「スルー⁈説明してよ…」
「頑張って」
何を⁈
頭がぐるぐるになりながら、建物の中に入る。
重厚な扉は結構簡単に開いた。
「静夜だぁぁ!に、人間⁈」
「あら、おかえり。大きなお荷物もついてるのね」
いっぱい、妖怪がいた…。アニメなどでよく見る妖怪からなにこれ?というものまで様々だった。
「に、人間…食べても…」
大きな蟹のハサミを持った妖怪がゆっくり近づいてくる。
「ひっ」
「食べちゃダメ」
静夜が自分の背中に私を隠して、その妖怪にいう。
「手を出したらタダじゃ済まない」
その妖怪はビクッとして逃げていった。
「ごめんね、あれは化け蟹って言って、人を襲うことがある妖怪なんだ。普段はいいやつだ。許してくれ」
「う、うん」
階段を登るように言われて登ろうとすると視線を感じた。振り返ると、さっきの化け蟹さんが私をガン見していた。
さっさと登ろう…。
登ってすぐ左の部屋に案内された。
「ここで、少し休んでて。いろいろあって頭パンクしそうでしょ?」
静夜がそういうのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。
本当に、パンクしそう…。